経営者保証に関するガイドラインとは?その内容を徹底解説(事業承継/融資/清算)
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1.経営者保証に関するガイドラインとは?
「経営者保証に関するガイドライン」平成26年2月から適用されています。経営者保証なしでも融資を受けられる道が示されており、創業に加え新たな事業展開の際の資金調達から、事業再生における債務整理、円滑な事業承継等、中小企業の各ライフステージにおける取組意欲の増進を図ることを目的としています。
あくまでもガイドラインになるため、最終的には債権者となる金融機関の判断によることになりますが、ここでは定められているガイドラインについて説明していきます。
2.新規融資の場合
⑴「ガイドライン」の適用対象
①保証契約の主たる債務者が中小企業であること
②保証人が個人であり、主たる債務者である中小企業の経営者であること※
③主たる債務者及び保証人の双方が弁済について誠実であり、対象債権者の請求に応じ、それぞれの財産状況等(負債の状況を含む。)について適時適切に開示していること
④主たる債務者及び保証人が反社会的勢力ではなく、そのおそれもないこと
※経営者個人だけでなく、以下に定める特別の事情がある場合又はこれに準じる場合については、ガイドラインの適用対象となります
・実質的な経営権を有している者、営業許可名義人又は経営者の配偶者(当該経営者と共に当該事業に従事する配偶者に限る。)が保証人となる場合
・経営者の健康上の理由のため、事業承継予定者が保証人となる場合
⑵中小企業に求められる経営状況
下記のような経営状況であれば、このガイドラインの下では、中小企業は経営者保証なしでも融資を受けられる「可能性」があります。
①法人と経営者の関係の明確な区分・分離
融資を受けようとしている中小企業は、法人の業務や経理、資産の所有等に関して、法人と経営者個人の関係を明確に区分・分離することが求められます。具体的には、役員報酬・賞与、配当、オーナーへの貸付など法人と経営者の間の資金のやりとりを、「社会通念上適切な範囲」を超えないようにする体制を整備し、適切な運用を図ること、とされています。要は、公私混同した業務の運営、支出、資産取得などをおこなわないということになるでしょう。
②財務基盤の強化
融資を受けたい企業は、財務状況及び経営成績の改善を通じた返済能力の向上等により信用力を強化する必要があります。この部分は返済を前提としている以上、債権者への説明は必要不可欠な部分と言えるでしょう。
③経営の透明性
融資を受けたいと思っている企業は、金融機関などの債権者からの情報開示要請があった場合には、財務の状況や、事業計画に即した業績の見通しや進捗など、正確かつ丁寧に信頼性の高い情報として説明することで、経営の透明性を確保する必要があります。
⑶金融機関に求められる対応
①「保証を求めない融資」「代替的な融資手法」の検討
融資を希望する企業が上記のような経営状況を満たしている、もしくは経営者から十分な物的担保がある場合には、融資を希望する企業の意向も踏まえた上で、金融機関は、「経営者保証を求めない融資」や「代替的な融資手法」を検討することが求められます。
②経営者保証止むを得ず求める場合の対応
金融機関などの債権者が、検討の結果、止むを得ず経営者保証を求める場合、以下の対応を努めることが求められます。
イ)債務者や保証人に対する丁寧かつ具体的な説明
金融機関等の債権者は、保証契約を締結する際に、債務者や保証人に対して以下の事項について、丁寧かつ具体的な説明をすることが求められます
→保証契約の必要性
→原則、請求が行われる場合は、保証金額全額に一律に対して行うものではなく、保証履行時の保証人の資産状況等を勘案した上で、履行の範囲が定められること
→取引を進めるなかで、経営者保証の必要性が解消された場合には、保証契約の変更・解除等の見直しの可能性があること
ロ)適切な保証金額の設定
保証金額を設定する際には、形式的に保証金額を融資額と同額とはせず、資産や収入、物的担保等の設定状況、債務者や保証人の取り組み、情報開示姿勢等を総合的に勘案して設定したり、保証債務の履行請求額は、一定の基準日における保証人の資産の範囲内に限定したり、と「保証債務履行時にはガイドラインに則して適切な対応を誠実に実施する」旨を保証契約に規定することも求められます。
3.既存融資の場合
⑴既にある保証契約を見直す場合
①中小企業に求められる経営状況
保証契約の解除や変更の申入れを債権者におこなうのに先立って、前述の2-⑵に定められた「中小企業に求められる経営状況」にあるような経営状況であり、将来も維持できるよう努める。
②金融機関に求められる対応
経営・財務の改善が見込まれた中小企業から、既存の経営者保証契約の解除や保証金額の変更などの申し入れがあった場合、金融機関などの債権者は、改めて経営者保証の必要性や適切な保証金額等について「真摯かつ柔軟に検討を行う」とともにその結果について「丁寧かつ具体的に」説明する(2-⑵および⑶の通り)
⑵事業承継の場合
①中小企業(債務者および後継者)に求められる経営状況
債権者である金融機関からの情報開示の要請に対して、適時適切に対応する。
特に、経営者の交代により、経営方針や事業計画などに変更が生じる場合には、その点について「誠実かつ丁寧に」金融機関に説明する。
事業承継に伴い、新たな融資を後継者による経営者保証なしで金融機関に求める場合は、前述の「中小企業に求められる経営状況」にあるような経営状況であることが求められる。
②金融機関に求められる対応
債権者である金融機関は、前経営者の個人保証を後継者に「当然に」引き継がせるのではなく、必要な情報開示を得たうえで、2-⑵に即して、改めて保証契約の必要性を検討するとともに、その結果、保証契約を締結する場合には、⑶に即した形で、適切な保証金額の設定に勤め、結果について債務者と後継者に対して丁寧かつ具体的に説明する。
前経営者から保証契約の解除を求められた場合には、前経営者が実質的な経営権・支配権を握っているかどうか、既存債権の保全状況、法人の資産・収益力による返済能力などを勘案しつつ、適切に判断する。
⑶事業再生や廃業による保証債務の整理の場合
ガイドライン上、保証債務の整理は、事業継続を図る場合、事業をたたみ清算を行う場合、のいずれの場合でも利用することが可能です。
①ガイドラインに基づく保証債務の整理の対象となり得る保証人
保証人は、以下の全ての要件を充足する場合において、保証債務の整理を対象債権者に対して申し出ることができます。
イ)2-⑴ガイドラインの適用対象を満たしていること
ロ)破産手続や民事再生、会社更生手続、特別清算手続の法的手続きの申立て、または中立かつ公正な第三者が関与する私的整理手続の申立てをこのガイドラインの利用と同時におこなうこと。または、これらの手続が係属、もしくは終結していること
ハ)債務者と保証人の資産や保証債務の状況を総合的にみた場合、破産手続による配当よりも多くの回収を得られる見込みがあるなど、対象債権者にとっても経済的な合理性が期待できること
ニ)保証人に破産法第252条第1項(第10号を除く。)に規定される免責不許可事由がなく、そのおそれもないこと
※破産法252条第1項では、不許可となる事由が定められています。たとえば、債権者に損害を与える意図をもって財産を隠蔽もしくは処分してしまう、破産手続を遅らせることを意図して高利の借金をしたりするという行為や、特定の債権者にだけ利益を与える意図をもった行為、そもそも浪費又は賭博その他の射幸行為をしたことによって著しく財産を減らしてしまっているという発生事由から、手続きを進めるなかでの書類の虚偽、隠蔽、破産手続きにおける裁判所や破産管財人の職務に対しての妨害、などが定義されています。
②個人保証のある経営者に対しては、以下のことが認められます。
イ)一定期間の生計費や華美でない自宅を残すことの債権者・金融機関へ申し出
保証人である経営者が早期に事業再生や清算の決断を行い、債権者である金融機関にとって一定の経済合理性が認められる場合には、経営者の申し出を受けて経営者の手元に残せる残存資産に一定期間の生計費(※)に相当する額や、華美でない自宅(※2)を含めることが、金融機関により検討されます。
※一定期間の生計費は、標準的な生計費(33万円/月)を、雇用保険の給付期間(90~330日を月換算)に掛け合わせた額を参考
ロ)整理手続に専門家の支援を求めること
公正な整理手続ができるように、弁護士・会計士・税理士など専門家による支援を受けられます。
ハ)保証債務が免除されたり、引き続き経営に携わったりできる可能性
債権者である金融機関からみて、一定の経済合理性が認められる場合は、経営者が引き続き経営に携わることが認められます。
4.まとめ
経営者保証ガイドラインについては、まだ認知度的にも低く、利用状況としては活性化している状態ではありませんが、認知を広げることで適用されるケースが増えてくると思われます。一方で、あくまでもガイドラインになるため、判断における不透明な部分は多く、活用しやすい制度であるとも言い切れないのも現状です。
いずれにしても、融資の場合は、実績や事業計画を基に、債務整理の場合にも破産手続きと比較しての配当を基にして判断されます。どちらにしても経済合理性の説得力を基にするわけですから、その活用するにしても専門家の意見は必要になります。