事業承継をする上で必ず知っておきたい基礎知識まとめ ~事業承継に関する用語・現状・概要~

事業承継とは何か?

事業承継とは、会社等の事業を後継者に引き継ぐことを言います。

人の一生は限られていますが、会社の存続期間には制限はありません。その意味では、事業が継続しており、今後も継続させようとする意志がある限り発生するもので、早かれ遅かれ、どの経営者も必ず直面する問題となります。

今回は、事業承継に関する用語、事業承継を取り巻く現状、など事業承継に関する概要を説明したいと思います。

事業承継の現状

では、実際の事業承継の状況はどのようなものなのでしょうか?

現在(2018年調査)の全国の社長の平均年齢は59.5歳(下記図1参照)で、年々右肩上がりで上昇しています。

●図1)全国社長の平均年齢推移


※出典:「全国社長年齢分析(2018年)」(帝国データバンク)


同時に年齢のボリュームゾーンは20年間で47歳から66歳へと移行(下記図2参照)しており、社長交代がなされぬまま事業が進行してきた状況がわかります。

●図2)中小企業の経営者年齢の分布


※出典:2017年版中小企業白書より「COSMOS2企業概要ファイル」(帝国データバンク)


これらのデータを見ても、実際のところ事業承継が順調に進んでいるとは言い難いのが現状です。

さらには準備という観点でも、70歳・80歳代の社長でも半数以上は準備が出来ていない(下記図3参照)状態となっており、後手後手に回っているのが実状といえるでしょう。

●図3)経営者の年齢別にみた事業承継の準備状況

※出典:「中小企業における事業承継に関するアンケート・ヒアリング調査」(帝国データバンク)

 

事業承継の阻害要因

なかなか事業承継が進まない要因の大きなものとしては、「将来的な業績低迷予測」「後継者不足(見つからない)」という2つが過半数を占めています(下記図4参照)。

●図4)事業承継が円滑に進まなかった理由


※出典:中小企業白書2014より「中小企業者・小規模企業者の経営実態及び事業承継に関するアンケート調査」(帝国データバンク)

後継者不足が一番の阻害要件

1つ目の「将来的な業績低迷予測」は、事業承継に対して消極的であり、事業承継そのものへの関心が寄せられない理由ともいえますが、2つ目の「後継者不足」は事業承継に対して意思があるにも関わらず進められなかったということを表しています。

少子化によりいわゆる若手が不足しているという数の問題もありますが、働き方に対する認識の多様化も影響しています。

特に子供へ引き継ぐなどの親族内の事業承継の際には、子供側の「継ぐべき」という強迫観念は以前ほど強くはなく、ほかの企業に入って楽しく幸せに暮らせているのであれば、わざわざ危険を冒してまで継ぐ必要はないという考え方が増えているのも実状です。

中小企業ならではの社長交代リスクも

また事業承継の準備が後回しになるという理由には、中小企業ならではの社長交代による経営へのリスクが影響していると考えられます。大企業の場合、事業の強みや優位性は仕組化、組織化されたものになっていて、(当然一概にはいえませんが)経営者ひとりの交代によるインパクトはそこまで大きくありません。

中小企業にあっては、経営者の能力や手腕が経営基盤そのものになっているケースが多く、社長交代による経営へのインパクト、リスクは大企業よりも格段に大きいといえるでしょう。

中小企業において、社長交代は会社の存続そのものが危ぶまれるリスクを孕んだ決断になるため、判断が先送りになりがちです。また経営者自身も自らが創った会社であれば特に「他人に任せられない」という気持ちも強いのではないでしょうか。

気づいた時には間に合わない?早めの準備を

このような事情があいまって、いざ事業承継をしようと思った時には間に合わないというケースも多々発生しています。事業承継が成功しなければ、その会社は廃業の選択肢をとらざるをえず、社会にとっても大きな損失となります。

事業承継は、後継者探しや実施するタイミングの判断が難しいものであるからこそ、早い段階で検討を始め、十分に時間をかけておこなうことが必要です。

 

後継者は「育成する」か「探す」

後継者が「居ない」は当たり前

後継者が居ないという声をよく耳にしますが、手放しで任せられる適任者はどこの会社にもそう居るものではないでしょう。もっと言ってしまえば、経営者にとって「任せられない」ではなく「任せたくない」というケースもあるでしょう。自分がこだわりをもって立ち上げ、育て上げた会社であれば尚更、誰かに委ねるというのは感情的にも難しい問題です。

そう考えてみると「後継者が居ない」という状況はある意味では当たり前。しかしながら事業承継は会社の未来のためにも必要なことですから、感情論はさておき、進める以外に道はありません。後継者が居ないのであれば「育成する」か、外部から「探す」ことになります。

後継者を育成する

後継者の育成には、相当の時間と労力が必要です。どういった人物が適任か「人材要件」を定義し、その要件をクリアした人材を育成するプログラムを作成し、そのプログラム通りに育成を進めていく…そのように長い時間と手間をかけて適切な人材が育ったとしても、資金面や腹決めなどがネックになり、結局は断られるという事案もあるため、後継者育成には一定のリスクが存在します。

外部から探す・M&Aの選択肢の増加

そうした背景もあってか、実際にはM&Aによる企業譲渡など外部への事業承継が増えているのが実状です。親族が経営的に優秀とも限りませんし、従業員は事業のことを分かっている一方で経営経験がない場合がほとんど。外部の経営のプロに事業を任せるという選択をする経営者が増えているのも頷けます。

 

事業承継は必ず専門家に相談を



親族内の承継、従業員への承継、M&Aによる企業譲渡、どのような選択肢をとるにしても、それぞれに非常に個別性が高く、ややこしい問題を孕んでいるため、自分だけで解決するのは得策ではなく、また現実的にも不可能に近いでしょう。

非常に相談しづらい問題ではありますが、まずは相談できる専門家を見つけて、第三者とともに問題を整理していくのがおすすめです。

相談先として税理士や会計士、弁護士、コンサルタント、金融機関などが挙げられますが、「事業承継」という問題においてのエキスパートだとは限りません。事業承継は一度きり。やり直しのきかない問題ですから、決して失敗は許されません。相性も含めて、慎重にパートナーを探す必要があるのです。

執筆:株式会社事業承継通信社 柳 隆之

 

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