
廃業とは経営者が自主的に事業を止めること|休業・倒産との違いは?手順やメリットを解説
「廃業」とは事業を自主的に止めることで、事業を一時的に停止する「休業」や事業を辞めることを余儀なくされた「倒産」とは異なります。メリットだけでなくデメリットもあり、経営者は実施前に理解しておくことができるでしょう。手順や必要となる手続きについても紹介します。
廃業とは?倒産とは何が違う?
「廃業」とは経営者自身の意思により、自主的に会社を辞めることです。個人事業主が事業を辞める場合も、「廃業届」を税務署に提出するので法人と同様、廃業と表現します。経営者が高齢で、後継者不在などで廃業のケースもありますから、会社の財務状況は関係なく、黒字での多々廃業もあります。
一方、「倒産」とは資金不足により経営継続が困難になった状態、例えば不渡りの手形を出したときなどを指す言葉です。経営者自身が会社を辞めようと思っていなくても、倒産することはあるでしょう。
【法人】廃業の手続き
会社を辞めようと決意してから廃業を実施するまでには、さまざまな手続きが必要です。以下の流れで廃業を進めていきましょう。
- 株主総会での決議・解散登記
- 従業員や取引先に通告
- 役所への届出・解散広告
- 解散時と清算時の確定申告
1と2については、順序が反対になることもあります。経営が思わしくなく株主総会でも廃業の決議がスムーズに進むだろうと考えられる場合は、事前に従業員に伝えて次の仕事を早めに探せるようにしたり、取引先に伝えて取引解消による損失が少なくなるようにすることもできるでしょう。
反対に、経営者の一存で廃業にしたいときなどは、株主総会で理解を得られない可能性もあります。むやみに従業員や取引先に不安を与えないためにも、廃業の決議を得てから伝えるようにしましょう。
1.株主総会での決議・解散登記
廃業をするときは、株主総会で解散の決議を行わなくてはなりません。解散の決定は非常に重要な意味を持つため、議決権の1/2を超える株主が参加し、なおかつ出席者の議決権の2/3以上の賛成を得る必要があります。
解散を決定する株主総会においては、「清算人」を選任しなくてはいけません。清算人とは清算事務を行う担当者のことで、通常は議決権の1/2を超える株主が参加し、出席者の議決権の1/2を超える賛成で決定できます。
解散と清算人が決定した場合には、2週間以内に法務局で「解散登記」が必要です。税務署や市区町村役場での届出には解散登記の謄本が必要になるので、遅滞なく解散登記をしておきましょう。
2.従業員や取引先に通告
廃業することがほぼ間違いなく決まっているときは、従業員や取引先に通告しますが、廃業が株主総会で認められない可能性が高いときは、廃業決定後に通告することもあります。
本来ならば廃業後の行動をスムーズに進めるためにも、従業員や取引先には株主総会前に伝えることが好ましいでしょう。
なお、廃業に際して従業員を解雇する場合は、少なくとも廃業の30日前に伝えなくてはいけません。株主総会を行うタイミングを考え、従業員が十分に再就職に向けた準備をできるようにしましょう。
3.役所等への届け出・解散広告
従業員を解雇する場合は、社会保険などの停止手続きなども必要になります。また、税務署や市区町村役場への届出も必要です。
さらに、官報に「解散公告」を掲載することも忘れてはいけません。これは交渉するための機会を債権者に提供する目的の広告で、債権者が返済請求を行える期間を指定します。指定できる期間は2か月以上と定められていますので、廃業したとしても少なくとも2か月間は債務への対応が必要となります。
4.解散時と清算時の確定申告
解散してから2か月以内に、解散したときを含む事業年度の確定申告を行います。また、残余財産の清算を行い、残余財産が確定してから1か月以内にもその事業年度の確定申告が必要です。
解散と廃業が同じ事業年度の場合は、まとめて行うこともできます。解散してもまだ廃業したわけではないため、廃業の手続きをすべて終えるときまでは毎年、確定申告を行いましょう。
【個人事業主】廃業の手続き
個人事業主が廃業したときは、株主総会で決議を取る必要がないため、税務署や市区町村役場に廃業届を提出するだけでシンプルに廃業手続きが完了します。ただし、負債などを抱えている場合は、債権者との対応も同時に進めていきましょう。
なお、自治体によっては、市区町村役場に廃業届を提出する期限が定められていることがあるため、事前に確認しておきましょう。
廃業のメリットとデメリット
廃業しようかどうか決めかねるときは、メリットとデメリットを比較し、納得できる着地点がどこにあるのか考える必要があります。廃業の主なメリットとしては次の2点を挙げられるでしょう。
- 債務の増大を防げる
- 資産を確保できることがある
しかし、デメリットも多く、安易に廃業する前に熟慮する必要があります。主なデメリットは次の3点です。
- 既存顧客へのサービスが提供できなくなる
- 従業員を失業させてしまう
- 資産を安価に手放すことに
【メリット1】債務の増大を防げる
営業活動を行うたびに債務が発生している状況であれば、早めに廃業することで債務の増大を防げるでしょう。事業が時代に合っていないなどの理由により、今後も状況が好転するとは考えにくいときは、早めに廃業して債務が積み重なることを防ぐことができます。事業を続けている限り、取引が発生しなくても人件費等の固定費は必要です。早めに切り上げることで、費用が膨れ上がることも避けられます。
【メリット2】資産を確保できることがある
会社の資産を運営費や人件費に充当ことで経営を続けている場合は、早めに廃業をすることで資産を少しでも残せることがあります。廃業する際に資産が残っているならば、従業員への退職金として渡すことができるかもしれません。また、退職金を払っても余剰金が出る場合には、次の事業の資本としても活用できるでしょう。
【デメリット1】既存顧客へのサービスが提供できなくなる
廃業すると、既存顧客へのサービスの提供も終わってしまいます。長い時間をかけて信用関係を構築してきたとしても、廃業してサービス提供が終われば、信用も崩れてしまうでしょう。廃業後に新たな事業を興す場合は、信用も新たに築いていかなくてはいけません。
【デメリット2】従業員を失業させてしまう
別の会社を経営している場合、あるいは他の企業が従業員の受け入れを引き受けてくれる場合を除き、従業員は失業することになります。従業員一人ひとりに家族がいて生活があることを考えると、いたたまれない思いになるでしょう。廃業せずに事業を継続することができれば、従業員の生活を守ることが可能です。M&Aなどの方法も検討し、従業員の雇用が守られるようにしましょう。
【デメリット3】資産を安価に手放すことに
負債のために廃業を余儀なくされている場合は、廃業時に資産を安価に手放すことにもなりかねません。せっかくの資産を有効活用するためにも、できれば事業を継続する方法を検討するようにしましょう。
M&Aが可能な場合は、資産をそのまま買収先の資産として活用することができます。その分、売却価格に反映されるので、廃業よりもダメージが少ない場合もあるでしょう。
廃業する前にM&Aを検討してみよう
顧客に求められているサービスを提供できないことや従業員を失業させることなど、廃業には多大なデメリットが生じます。まずは事業継続ができないか考え、廃業は最終手段にするようにしましょう。M&Aや事業承継を専門とする外部機関に依頼することで、解決策が見えることもあります。廃業する前にぜひ一度ご相談ください。