事業売却時に営業権はどう評価される?事業と営業権の譲渡はどう違う?譲渡の流れについても紹介

会社の価値には不動産や設備といった目に見える価値だけではなく、「営業権」と呼ばれる目に見えない価値も含まれます。事業売却時には営業権はどのように計算できるのか見ていきましょう。また、事業と営業権の譲渡は何が違うのかについても解説します。

そもそも営業権とはどんな権利?

現金や預貯金、不動産などの数字化(金額化)できる資産以外の資産をまとめて「営業権」と呼ぶことがあります。例えば企業のブランドイメージや販路、顧客や取引先の情報などは、営業権の一部といえるでしょう。

営業権はいずれも実際に価値があるものです。現金のように分かりやすく計算することができないため、営業権は通常資産としては計上できません。しかし、M&Aの場面においては、価値のある資産として計算書に計上することができます。

営業権とは、企業の有する無形の資産のことを指します。具体的には、企業が持つノウハウやブランドイメージ、顧客情報といったものがこれに該当するのです。M&Aの場面における、いわゆる「のれん」が営業権にあたります。営業権は無形の資産であり、目に見えない価値を有するものですから本来は資産計上されません。しかし、事業譲渡などM&Aによる場合には、買い手によってM&Aの対価として評価され勘定科目によって買い手の企業内にて資産計上されます。

営業権はのれんとして資産計上できる

事業売却や会社売却を行う場合、何らかの方法で事業あるいは会社の価格を決めなくてはなりません。この際、目に見える資産だけを評価してしまうのでは矛盾が生じてしまいます。

例えば預貯金や不動産を併せて1億円の資産を持ち、なおかつ負債のない企業が2社あったとしましょう。資産(1億円)という面ではどちらも同じです。しかしこれから利益を生み出す力は企業によって異なります。A社は知名度もセールスノウハウも高く評価でき、反対にB社は社屋の立地がよく不動産価値が高く評価されていただけとするならば、A社のほうが高い価格で売却される可能性があるでしょう。

このように目に見えない企業の価値をまとめて営業権として売買価格に反映します。つまり、売買価格から有形資産(資産から負債を差し引いたもの)を差し引いたものが営業権といえるでしょう。営業権は「のれん」と呼び、売却側は「のれん」を利益として計上し、20年で減価償却(税務上は5年)していきます。

 

営業権譲渡のメリット・デメリット

会社の資産に価値がなくても、ブランドイメージが高く、また優れた営業ノウハウ、オリジナルの生産手段などを保有して入れば「営業権」は高く評価され、高値で売却できることがあるかもしれません。営業権を譲渡することで得られるメリットとデメリット、そして、営業権の譲渡と事業譲渡は何が違うのかについて見ていきましょう。

 

営業権譲渡と事業譲渡の違い

営業権を譲渡するということは、簡単にいえば「のれん」を得て事業を売却するということです。つまり、事業そのものを売却することにほかなりません。そのため、言葉は違いますが、営業権譲渡と事業譲渡はほぼ同じ意味だと考えられます。

なお、営業権譲渡より事業譲渡という言葉のほうが一般的です。また、事業だけでなく会社そのものを売却するときは「会社譲渡」といいます。その場合には株式譲渡のスキームが用いられることが多いです。

 

営業権譲渡のメリット

営業権を譲渡すると、相応の譲渡益を得られます。新たな事業を始めるための資金が必要なときや、他の事業に資金投入したいときなどには、営業権譲渡もひとつの手段となるでしょう。また、その事業が利益を産まないときも営業権譲渡することで不採算事業を切り離すことができ、会社全体の営業効率を高められます。

 

営業権譲渡のデメリット

営業権を譲渡する際には、その事業に関わっている従業員を譲渡先へ転籍させたり、配置転換する必要があります。従業員に混乱を与えるだけでなく、場合によっては転属先を見つけられないこともあるかもしれません。また、取引先からの信用を損なう恐れがあります。従業員、取引先に事情を詳しく説明し、理解を求めておくようにしましょう。

 

営業権の評価方法3つ

営業権は、ブランドイメージや販路などの目に見えない価値を数値化したものです。そのためどのように計算するかによって差が生じます。事業売却を行う場合は、いくつかの手法を比較し、もっともふさわしいと思える計算法を選択しなくてはいけません。主な計算方法を3つ紹介しますので、それぞれの利点と欠点についても把握しておきましょう。

 

1.実質利益から算出する

過去数年の純利益を平均し、その数値を何倍かして営業権として計算する方法があります。何倍にするかは譲渡側と買収側が話し合って決めるので、特に決まっているわけではありません。

計算が簡単というメリットがある一方で、譲渡側と買収側の思惑がまったくの逆方向にあるため、合意を得るのに時間がかかるというデメリットがあります。

2.マルチプル法で算出する

似たような規模で似たような業種の第三者企業を見付け、その企業が市場からどの程度の価値として評価されているかを参考に営業権を計算することを「マルチプル法」と呼びます。

第三者企業が上場企業の場合であれば、売上高に比べて株価や時価総額が何倍に評価されているかを計算し、譲渡企業の売上高と比較して営業権を割り出すことができるでしょう。計算は複雑ではありませんが、似たような第三者企業を見付けにくいというデメリットがあります。

3.DCF法で算出する

譲渡する事業によって将来生み出されるであろうキャッシュフローを計算し、譲渡時の価値に置き換えて算出する方法を「DCF法」といいます。ただし、マルチプル法や実質利益から算出する方法とは異なり、未来の価格の予想に基づいて計算する方法です。そのため、正確なキャッシュフローを求めることは容易ではなく、算出される結果もありません。

 

営業権を譲渡する流れ

営業権を譲渡する流れは、以下の通りです。

  1. 買収先を決定する
  2. 営業権譲渡契約書を作成する
  3. 株主総会で承諾を得る
  4. 営業権の引き継ぎを実施する
  5. 売却額を受け取る

まずは買収先を決定し、営業権譲渡契約書を作成します。その後、株主総会で営業権譲渡を行う承諾を得なくてはいけません。承諾を得られた場合は、事業の引き継ぎを行い、売却額(譲渡額)を受け取ってすべての手続きを完了します。

営業権譲渡によって利益が生じた場合は、納税の義務が生じるので、事前にどの程度になるのか計算しておきましょう。利益に対しては法人税と消費税が発生するので、30%ほど(企業規模と課税対象額によって法人税率は異なります)を納税することになります。ただし、譲渡先がグループ企業である場合は、グループ法人税制が適用されて税額が変更になるのでご注意ください。

 

営業権譲渡・事業譲渡についてもご相談ください

営業権の譲渡と事業譲渡は同じことを意味する言葉です。譲渡する際には営業権を数値化する必要がありますが、計算方法はいくつかあり、どの方法を選ぶかによって営業権の価格が変わってきます。譲渡側はできるだけ高く評価して高額で売却したいと考えますが、買収側の思惑とは真逆のため、交渉が長引くこともあるでしょう。

営業権譲渡をご検討中の方は、ぜひ弊社にご相談ください。営業権の譲渡額の算出から、買収候補先の選定、買収側との交渉までワンストップでお手伝いいたします。

 

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