【M&A事例】越境EC運営 / 徳留大輔さん インタビュー

今回インタビューをさせていただいたのは、数年前に越境ECの会社を起業し、2021年6月に株式譲渡をされた徳留大輔さんです。福岡県出身で、早稲田大学を卒業後、IT会社や飲食業界を経て独立。初年度から年商1億円を超え、翌年に1.9億円、その翌年には4.3億円・・・と事業を急拡大し、勢いに乗る真っ只中での売却を決断しました。傍から見れば、順調そのものに見える状況でありながら、34歳という若さで売却の決断にいたった背景、そして実際に売却を通して感じたことなどを率直に伺いました。

 

自分がやりたいことではなく、出来ること。
強みを活かして越境ECに挑戦

ー起業される前はどのようなことをされていたのですか?

新卒でERPを販売するIT系の会社に営業として入社しました。この時は特に何かをやりたいという思いは無く、早い段階で内定もらったからいいかな、という程度の決め方でしたね。そんな感じで入社したので、仕事に興味が持てず、1年半ぐらいで辞めてしまいました。

それから、学生時代に飲食店でバイトをしていたこともあり、また飲食で急成長していたベンチャー企業の戦略にも魅力を感じ、飲食店グループに転職をしました。通勤ストレスもなく、店長として権限があり、現場トップとして仕事の自由度が高いうちは良かったのですが、スーパーバイザーになると、当然ながら組織の全体最適の中で動かなければならず、会社の方針に従うもどかしさが出てきました。自分の判断に自信があっても、それを全て突き通すわけにはいかないので。

そんな中で、徐々に意思決定や時間の使い方を自分でコントロールしたいと思うようになりました。そうなると、組織に属するよりも自分で何かをするというほか選択肢はないわけですが、如何せんやりたいことがあるわけではなく・・・結局、何も考えずに辞めて1年ほどふらふらしていました。

ーなるほど、最初からやりたいことがあったわけではないのですね。起業のきっかけは何だったのですか?

そうですね。親が自営業なので独立に関心はありましたが、何をしていいか分からなかった。ふらふらしながらも、やりたいことの興味ではなく、自分で出来ることを探しているうちに越境ECの事業を見つけました。

個人で小さくやる分には自分で在庫を持たなくても良いので始めやすかったのと、英語が受験でも得意だったので、海外向けであれば活かせると思いました。やり出すとハマる体質なので、やり始めてからは早かったと思います。半年ぐらいは小さくやってましたが、「これならいける」と思って本腰を入れて展開しました。自分でも在庫を持つようにして販売量を多くし、業務を細分化して人を採用して組織を作っていきました。

 

自分以外の視点を入れたら
会社はもっと良くなるんじゃないか

ー起業してから、毎年倍の成長を遂げてきました。これからがさらなる成長のタイミングでもあり、またある意味、ご自身がいなくても回る状態になったのに、なぜ売却を検討されるようになったのでしょう?

会社をやっていると、ずっと成長させないといけないし、そのためには新しいことをしなくてはいけない。成長すればするだけ責任が大きくなって、プレッシャーも増えていって。3年ぐらい経過したときには、それまでのモチベーションが保てなくなってきました。

起業当初は、軌道に乗るように、成長させるようにと意気込んで走り続けていたのが、知らず知らずの間に疲れがたまっていたのだと思います。

それでこんな状態の自分がやっていても、新しいチャレンジなんて出来ないし、変化にもついていけない、いずれ業績が落ちるんじゃないか・・・と。それであれば、自分以外の視点をいれたほうが従業員にとっても、会社にとっても良いんじゃないかと考えるようになりました。一度、自分をリセットして、個人として新たなチャレンジをしてみたいという思いもありました。

 

ー会社の売却をおこなってみて、いかがでしたか?プロセスの中で難しかったことなどは?

仲介会社に入ってもらったので、買手候補探しや進め方の部分で困ったことはなかったですね。全て段取りをしてくれたので、そこに従うだけで大丈夫でした。

ただ、期間としては7か月ぐらいかかったので、途中で「決まらなかったら・・・」と考えたりして、心理的なしんどさはありましたね。でもそこは、買手企業も仲介会社の人も、その中でできるだけ早く進められるよう配慮してくれたので、だいぶ助かりました。

あと、難しかったというわけではないですが、進める中で意識したこととしては、ポジティブなこともネガティブなことも全て買手に伝えるようにしました。仲介会社にもアドバイスされましたが、買手側が会社を引き継ぐわけなので、良いことも悪いことも出来る限り理解してもらえるよう、資料なども含めて細かに準備しました。

 

自分では気づいていなかった『会社の価値』

ー売却に関してご自身でイメージしていたこととの違いはありましたか?

それは、評価の部分ですね。自分では意識していなかった部分が、会社の価値として高く評価していただけたことです。

具体的には、自社で作っていた在庫管理システムや、従業員用のマニュアルになります。自分では、企業価値を上げるために作っていたわけではなく、当然業務に必要なものとして、時間をかけて揃えていったものだったので。属人的ではないというのが良かったんですね。やっておいて良かったです(笑)。また、そういう意味では、自分の会社を客観的な評価の場にさらせたというのは面白かったです。

 

ー買手企業となる会社へ決めたのは、どういったところがポイントでしたか?

もともとは、譲渡を判断する軸としては「スタッフの雇用を継続してくれる会社」ぐらいしか考えていませんでしたが、最終的には、会ってみて話してみて、のお人柄の部分です。

最初に先方の社長と話しをさせてもらったときに、感じましたね。これまで何十年も別の会社を経営され、成長させ、結果を出し続けてきた方で、今また違う領域にチャレンジしようとしている。やってきたことへの自信と貫禄に、もう無条件で会社を任せられる安心感がありました。

その後の交渉中も、上からではなく、常にフラットな目線で対等に接してくださって、ことあるごとにしっかりと話しを聞いてくれました。企業のスタンスとして、とても信頼できるものでした。

また、同じようなECの事業もされていたので、複雑な話しも理解が早く、やりとりもスムーズでした。それに、私の会社とは販売形態や地域が異なるものだったので、EC事業としてうまく補完できそうなところも良かったですね。

 

ー徳留さんご自身は、今後はどのようにされるご予定ですか?

まずはしっかりと引継ぎをおこなって、自分が作ってきたもの全てを渡せるようにしたい思います。また引継ぎの中で先方といろいろと意見を交換しながら、他の事業も含めて何かシナジーが持てるといいなとも思っています。

その後は、これから勉強しますが、投資に興味があるので、そこにチャレンジしてみたいですね。領域等は特に決めていません。引継ぎをしながら一旦これまでの自分をリセットして、どうするかを決めていきたいと思っています。

会社売却は自分をリセットできる
良い意味での「逃げ道」になる

ーこれから会社売却を検討する人へのアドバイスをお願いします。

そうですね・・・、中小企業のオーナー社長には、ある意味、逃げ道がないと思うんですね。会社員ならば、会社を辞めて次にいく、ということが出来る。もちろん会社員ならではの難しさもありますが。しかしオーナー社長にとって、会社を辞めるという判断は非常に難しい。なかなか引き継げる人がいないし、辞めたら従業員や取引先にも迷惑がかかるわけですし。会社は自分だけのものではないですから。

オーナー社長にとって、「会社売却」という選択肢は、従業員の雇用を維持したり、取引を継続したりしながら、一回自分をリセットできる良い意味での逃げ道になると思います。

また、そうは思っていても私自身がそうだったように、売却を考えて実行に移すことは、非常にハードルの高い作業です。初めてなことなのでどうしたら良いか分からないですし。でも、よく考えると、これまでやってきたことも、いつも初めてのことばかりなんですよね。起業するのも、銀行への折衝も、人を採用するのも教育するのも。何かトラブルが起きても、ひとつひとつ初めてのことを解決してきたわけで。

会社売却もおそらく初めてのことではあるでしょうが、少しでも興味が沸いているのであれば、あまり深く考えすぎずに、ひとつのチャレンジとして気軽にやってみれば良いかなと思います。

 

ー最後に、仲介会社として弊社(事業承継通信社)を選んでいただきましたが、いかがでしたか?

ネットで検索して、まず最低手数料が高いところは除外した中で、いくつかの仲介会社に声をかけたところから始まりました。

最初の面談の際に、会社の状態だけでなく個人の状態まで聞いてくれたので、悩んでいることや捉え方によってはネガティブな部分も本音で話しやすいなと感じました。実際、進める中でも、不安に思っていることやトラブルがあっても、そのまま包み隠さずに相談することが出来ましたし、どうすれば前に進めるかを考えて背中を押してくれました。精神的な支えにもなってくれたのは、ありがたかったですね。

また、自分では気付かない事業の優位性やノウハウが伝わるよう、売却先への説明の部分でサポートしてもらえたのも良かったです。あとは、M&Aの相談をしながらも、M&Aとは直接的に関係のない、たとえば採用の人材要件や人材評価の話、さらにはこれからの話も出来たりしたので、いろいろ勉強になりました。


インタビュー・執筆:株式会社事業承継通信社  柳 隆之

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