[後継者の視点]老舗和菓子屋「錦糸町 白樺」根本幸治氏

 

新卒で大手IT企業に就職。その後、2006年に大手情報サービス会社へ転職ののち、2015年より家業である和菓子屋へ戻り、修業をするとともに、新商品の開発や新たな販路の開拓を積極的におこなっている根本幸治氏。もともとは引き継ぐ意志はなかったようですが、承継を決めてから今にいたるまで、どんな物語があったのでしょうか? そこには先代から引き継いできた家業ならではの想い、家業だからこその難しさも存在するように思います。創業者のお爺様の想い、お父様からの期待、お母様からの叱咤。さまざまな家族の想いが伺い知れるインタビューとなりました。


消えそうな灯を、自分で灯してみたい

―もともと家業を引き継ぐという意志はあったのでしょうか?

根本氏:
引き継ぐということはあまり考えていなかったですね。ただ漠然と「何か自分でやりたい」という思いはありました。

新卒から2社ほど経験しているんですが、2社目が販売促進のお手伝いをする仕事で、経営者と直接話せる機会が多くて。経営者と話しているうちに、何かやりたいという気分が盛り上がっていって。

会社に属して安定的に収入を得るというのも、もちろん選択肢としてはあるのですが、個人としては、一回自分で勝負してみたいという憧れがあって、それがどんどん強くなっていったんです。

それで管理職になって、ある程度の結果が残せたところで、区切りとして本格的に自分で商売する、独立することを考え始めました。会社は楽しかったし、その会社でいつまでも学ぼうと思えば学べるのでしょうが、キリがないですし、どこかで区切らなければと。

自分に足りないものは何かと考えても、いつまでもなくなるはずがない。それに、自分の身体を使ってやらなきゃいけないことも多いと思ったので、体力がある若いうちに始めなければならないとも思ってました。

 

―なるほど。自分でゼロから起業するなど、家業を引き継ぐ以外の選択肢はありましたか?

根本氏:
それもありましたが、ちょうど自分でやろうと思い立った頃に、実家の両親から「そろそろ店を閉める」「いよいよ引退することも視野に入れながらやっていこうと思う」という話を聞かされました。

自分の実家がなくなるということに寂しさが出てきて。

ーいざ目の前で・・・となるとやはり思うことがあったわけですね。

根本氏:
そうですね。僕、祖父のことが大好きなんですけども、もともと福島の出身らしいんですが、北海道、新潟と渡り歩いて戦後の焼け野原の東京に出てきて、修業して今のお店の基盤を作ったんです。
祖父が頑張って作り上げたものを父親が引き継いでここまでやってきて、自分の代でなくなってしまうのかと・・・。

「消えそうな灯を再度灯すことがもし自分に出来るのなら、こんなに楽しいことはない。」

そう思ったときに、独立した形というか、家族の因果とかに思い切って身を寄せてみたいと思ったんです。

それに、すでに事業が存在しているので、新たに初期投資が発生するわけではないですし。まったく学んだことがない業界でしたけど、学校に通いながらという方法もありますし。

 

日本で一番の和菓子屋になる

ーそうすると家業を引き継ぐにあたり、和菓子の勉強をしながら進めたわけですか?

根本氏:
会社を辞めてからは、店を手伝いつつ、夜間の和菓子の専門学校で2年間勉強しました。

ーそのときは、自分が引き継いだら何をしようか決めていたんですか?

根本氏:
はじめから特に何か具体的にやろうと決めていたことはなかったんですが、プロダクト(商品)は変えないといけないんだろうな、とは思っていました。というか、4Pでいえば、今のままだとほかのPを変えても意味がないだろうなと(笑)。

それに、製菓学校に通っている間は先生に聞けるじゃないですか、「こんなの作ったけどどうですか?」って。

日本の中でも屈指の腕を持っていて、知識も経験もある先生にみてもらえるチャンスなんて二度とない、と思って、とにかく学校にいるうちに新商品は作ろうと思ってましたね。

で、どんどん新しい商品を試すもんだから、親が怒ってしまって・・・。印刷物なども増えて、手間がかかって忙しくなってしまって。

いまでは通年で販売できる安定した商品が数点できて、新商品を創るという意味では多少安定はしましたけども、販路も増やしてるので忙しいには変わりないですね。

新商品「たらふくもなか」6個入り箱詰め 1350円(税込)/希少な北海道産白小豆を使った最中。お土産にも最適

どら焼き「錦どら(白)」 180円(税込)/「三同割」で焼いたしっとり、あっさりとした皮のどら焼き


ーなるほど。前のめり過ぎて、周囲がついて来られない状態ですかね。
いまではご家族は納得されているんでしょうか?

根本氏:
納得していても不満だらけだと思います。2018年の6月から錦糸町の駅ビルにお店を出したので、より忙しくなってしまったので…。

店を引き継ぐときに、親にプレゼンをしたんです。

「日本で一番の和菓子屋になるつもりだから継ぎたい」ということと、「両親2人でやっていることが3人になるから楽をさせてあげられる」と。

両親は負担が緩和されるというところにすごく響いて、「それはありがたいね」って言ってくれてたんですけど・・・逆になってしまって。

ーしかも、手作りというのは労力がかかりますしね。

根本氏:
そうなんです。売上は数倍になったんですけど、手間も数倍になりますから。もちろん従業員も増やしていますが、前よりは忙しい。

 

吟味している暇はない

ー今後についてはどうでしょう? いまあるものを安定的に継続する形ですか?

根本氏:
いえ、落ち着いてはいられないですね。会社として事業ドメインをかっちり決めた方がいいのかもしれないですが、今は可能性のあることをいろいろ試したいですし、「集中」と「選択」をするタイミングでもないと思っています。

ー今後、どんな新しいことを考えているんでしょうか?

根本氏:
たとえばいま考えてるのは、より多くの人に楽しんでもらうために、お土産などにも利用してもらえる「日持ちするお菓子」を生み出したい

またそれとは別に、甘味処としてもっともっと地域に根差した形で、より作り立てのものをその場で食べてもらえないかとか。とにかく、やりたいことはたくさんありますね。

良いことなのか、悪いことなのか、吟味してる暇はないですし、とにかく進みたいと思っています。いつかどちらに舵を切るのか決めるときが来る。だから、それまではいろいろなことをちょっとずつスモールスタートしてみて、試しながら反響をみて、決めていきたいと思っています。

 

和菓子は日本を代表する文化

根本氏:
一方で、和菓子屋さんは昔から地域の文化、日本の文化を担ってきたところがあると思っていて。

地域の祝い事のために赤飯を炊いたりとか、お節句やお彼岸、年末年始など、日本人らしい暮らしをするための黒子として頑張ってきた側面があります。

自分自身もそこには誇りを持っていて、儲けだけではなく、コンビニやスーパーとは違う文化的な役割というのはやっぱり大切にしていきたいし、創っていきたい

やりながら考えも変わるし、やりたいことも変わってくるかもしれませんが、一緒に働いている仲間を大切にしながら、出来ることに思いっきり取り組んでいきたいと思っています。

白樺 本店  〒130-0022 東京都墨田区江東橋2丁目8-11  tel: 03-3631-6255  HP: http://shirakaba.site/

 

インタビュー・執筆:株式会社事業承継通信社 柳 隆之

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