[後継者の事業承継物語]茶の製造販売「香味園 上領茶舗」上領瑠美さん

 

山陰の小京都と呼ばれる津和野。島根県西部の穏やかな山間部に位置し、町の中心部は、城下町時代の古いたたずまいを残した趣ある建物が並ぶ。ここは瑠美さんが幼い頃から幾度となく父と一緒に過ごした思い出の町。
社会に出てからは大阪の大手広告企業に勤務。不動産や結婚式場の営業に勤しみ、充実した日々を送っていたようです。
家を継ぐということは具体的には考えていなかったと語る瑠美さんですが、父の病気をきっかけに状況は一変。祖父から家業の店を引き継ぐことに。承継に至るきっかけや心境、承継の難しさ、今後の期待などを伺いました。

城山から眺めた津和野の町

やってきた突然の転機
父と津和野への想い

―では最初に「香味園 上領茶屋」についてお聞かせください。

瑠美さん:
1930年に曾祖父が開いたお店で、もう90年近くになります。カワラケツメイというマメ科の植物を焙煎して作る「ざら茶」の製造と販売をしています。

ざら茶ローズブレンド 1g×10個入り<テトラ型ティーバック> 430円/ざら茶を中心にローズ・ルイボス・セイロンティーをブレンド

 

―事業を承継するにいたった背景はどのようなものだったんでしょうか?

瑠美さん:
お店は曾祖父から始まって、長らく祖父祖母がずっとやっていました。そのあとは、いずれ父親が後を継ぐのだろうということになっていたのですが、2013年の初めぐらいに、父親のすい臓がんが発覚しました。津和野町には戻れそうにないし、兄弟もいなかったので継ぐ人がいなくなってしまった。

予想もしていなかった現実を突きつけられて、そこからは悩みましたね。

でも、当時大阪で働いていましたが、父との思い出をたどるうちに、津和野という町は絶対に切り離せなくて、自分が小さい時から父が連れてきてくれた思い出の町でしたから。町が賑わっていた頃から知っていたので、町がなくなるんではないか、という寂しさがあったり。

継ぐ人がいなくて、酒屋がつぶれたり、町並みは変わらないけど、店が閉じていく姿をみていくなかで、自分に出来ることがあるんじゃないか、と思うようになりました。

「山陰の小京都」とも呼ばれる趣ある津和野町の町並み

激変した生活環境
祖父母との対立を経てー

ーこれまでの日常生活との折り合いについてはどうでしたか。

瑠美さん:
継ぐことになれば、これまでのような安定した収入はなくなりますし、田舎に引っ越すことになるので、環境としては一変ですよね。

美味しいレストランに行きたい、旅行にもいきたい気持ちはあるけど、毎日のことではないし、そんなに重要なことではないと気づきました。それよりも、フランス人の夫と結婚を考えるタイミングでもあって、家族で暮らすとか、これからの子育てとかを考えるととても良い環境なのではないかと。

リコッタ上領瑠美さん(右)とフランス人のご主人。香味園上領茶舗の前にて

ー実際の引き継ぎはどのように行われましたか?

瑠美さん:
自分が津和野に行けば、祖父母も仕事から離れられるし、父の想いにも寄り添える、夫や子供という家族との時間も大切に過ごせる、と考えると、自分が継ぐことでいろんなものが解決するように思えてきました。

それで、2017年の半ばから1年半ぐらいかけて引き継ぐことにしました。自分に出来るのか、などいろいろと不安ではありましたが、不安な気持ちをぬぐい取るには、結果出すしかないし、とにかくやろうと

自分なりにマーケティングをして、とりかかったのですが、最初はなかなか難しかった。とにかく祖父母に受け入れてもらえない。

いままでと違うやり方は受け入れづらいんですよ。当初は意見が対立することが多かったです。

たとえば、現在の顧客が70代が多く、今後を考えると顧客開拓をしないといけないわけで、ターゲットに合わせてパッケージを変えよう、とか、普通のお茶ではなく健康効果も高いから、それを訴求しようとか、ネットでも取り扱えるようにしようとか、あるわけですが、変えるところに抵抗があるみたいで。

あとは、祖父から孫となると世代が開きすぎるんです(笑)。祖父と父親なら同じことを言っても話が通じることがある。孫に言われたことって開きすぎてて全然近さを感じない。

それでも、2019年に実際に引き継いでからは、任せてくれるようになってると思いますね。

ざら茶 (カワラケツメイ)小 70g 290円/ざら茶特有のやさしい香りや手触りが楽しめる茶葉タイプ

 

事業承継=変えない
ということではない

ー今後についてお聞かせください。

瑠美さん:
祖父母もそうでしたが、事業承継することイコール変えない、ということではないと思うんです。評価されている味を残す、という変えない部分もありますが、守らないといけないこと、変えないといけないことの見極めが大切。違う人が引継ぐということの意味に、「変えられる」ということもあると思います。

だから特にプレッシャーはなく、ざら茶の味は守りながら、いろいろと試行錯誤していきたい。

夫の祖国であるフランスでの市場開拓も実際におこなっています。津和野の海外旅行客の半数以上が欧州の人だったりするので、伝えやすさもあります。

あとは、ざら茶もそうですが、やはり津和野の町を残すこと、そのためにもっともっと魅力的な町にしていくことに取り組んでいきたいと思っています。

香味園自慢の錦鯉が泳ぐ風情ある和庭園

香味園 上領茶舗 〒699-5605 島根県鹿足郡津和野町後田ロ519 tel: 0856-72-0266 HP: https://www.tsuwano-zaracha.com/

 

インタビュー・執筆:株式会社事業承継通信社 柳 隆之

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