日本の企業の3分の2は赤字企業!赤字企業が倒産しない理由・赤字経営のメリット&デメリットを解説

日本の法人のうち、約3分の2は赤字企業です。そもそも赤字とは何なのか、倒産しない理由や業界ごとにどのような特徴があるのか見ていきましょう。また、あえて赤字経営にするメリットやデメリットについても解説します。

赤字企業とは?

赤字企業とは、支出が収入を上回っている企業、あるいは経費が売上高を上回っている企業のことです。

まずは支出が収入を上回っている場合について考えてみましょう。継続的に支出が収入を上回っているのであれば企業としては立ちいかなくなりますが、ある年、ある月だけを見れば支出が収入を上回るということは、どの企業でも起こりえるかもしれません。

例えば仕入れが重なったときや売掛金の回収が翌月以降に予定されているときは、一時的に支出が収入を上回ることがあるでしょう。利益が生まれていないため赤字だといえますが、翌月は収入が支出を上回れば、トータルではそこまで企業の状態が危ないとはいえません。

次に経費が売上高を上回っている場合について考えてみましょう。経費が多く売上高よりも多いときは、経理上は赤字になっているといえます。また、減価償却できる資産が多いときも、経費がかさみやすく、一時的に売上高を上回ることもあるでしょう。

しかし、給与や賞与は全額損金算入できる経費のため、経費が多いことと手元にお金がないことは同じ意味ではありません。そのため経費が売上高を上回っている企業でも、実情は経済的にゆとりがあり、無理なく経営できているということもあります。

日本企業で赤字企業の割合は3分の2

国税庁の調査によれば、2019年度において所得がマイナス、つまり欠損状態になっている赤字企業は全国に1,812,332社あり、普通法人全体2,767,336社のうち65.49%を占めます。このことから、日本にある企業のうち、約3分の2は赤字企業であるといえるでしょう。

なお、赤字企業は多いものの、年々減少傾向にあるといえます。実際に2010年に75.7%を記録して以来、9年連続で赤字企業の割合は減少しました。今後、コロナ禍などの影響により、赤字企業の割合はどのように変化するのか注目されます。

 2015年度2016年度2017年度2018年度2019年度
赤字法人率70.23%68.77%67.67%66.12%65.49%

※少数第三位は四捨五入

参考:国税庁「令和元年度 法人税(法人数)」

 

小売業は特に赤字企業が多い

業種によっても赤字企業の割合は異なります。同じく国税庁の法人税調査によれば、2019年度の業種別の赤字企業率は以下のとおりでした。飲食旅館業と小売業において特に赤字企業が多いことがわかります。

サービス業農林水産業建設業製造業運輸・交易情報通信業
67.42%68.78%56.60%67.65%61.86%65.87%
卸売業小売業金融保険業不動産業医療保険業飲食旅館業
65.06%73.93%69.06%61.28%59.22%76.50%

※小数第三位は四捨五入

 

赤字企業が倒産しない3つの理由

支出が一時的に収入を上回った場合でも、また、経費が経常的に売上高を上回っているときでも、企業はすぐに倒産とはなりません。実際に日本企業の約3分の2は赤字企業ですが、そのうちのすべてが倒産危機を抱えているわけではなく、問題なく経営できています。

赤字企業が倒産しない理由としては、キャッシュフローが大きく関係しており、次の3つが挙げられるでしょう。

  1. いままでの内部留保による現金がある
  2. 現金化できる資産を持っている
  3. 外部からの資金調達ができる

1.今までの内部留保による現金がある

単年で赤字であってもそれまでの儲けによりストックした内部留保(現金)がある場合には、当然のことながら、その現金を利用して経営を続けることが可能です。

ただし、赤字である、ということはその現金が減っているということにほかなりませんから、赤字の状態が継続すると危険な状態になることは言うまでもないでしょう。

2.現金化できる資産を持っている

手元に現金が少なかったとしても、現金化できる資産をもっていれば売却などを実施することで現金を得ることができます。

保険の解約による積立額の取得や解約返戻金の取得、投資資産の売却などにより現金を得ることができれば倒産は免れることができます。

当然、土地の売却により現金化も可能ですが、固定資産は売却までに時間がかかることもあります。

3.外部からの資金調達が可能

金融機関からの借入や、増資による外部からの資金調達により現金を得るパターンです。

一般的には、赤字化すると借入などの融資は受けづらくはなりますが、回復計画が立てられたり、資産を担保にいれることで融資を受けられることもありますし、現状だけでなく将来に魅力を感じ、投資してくれる人もいるかもしれません。

 

赤字企業の4つのメリット

日本の企業の約3分の2は赤字企業ですが、経営上の深刻な問題を抱えてやむを得ず赤字になっている企業もあれば、意図的に赤字にしている企業も少なくありません。実際のところ、経理上、赤字にすることにはさまざまなメリットがあります。主なメリットとしては、次の4つが挙げられるでしょう。

  1. 法人税などの税金を抑えられる
  2. 税金の還付を受けられることがある
  3. 翌年以降に赤字を繰り越せる
  4. M&Aされやすくなることがある

それぞれのメリットについて、詳しく解説します。

1.法人税などの税金を抑えられる

法人税は法人が生み出す利益に対して課せられる税金です。つまり、経費が売上高を宇和待っていれば利益がないと考えられるので、法人税を均等割の分だけに抑えることができます。均等割の金額は従業員数や資本金の額によっても異なりますが、従業員数が50人以下、資本金が1,000万円以下であれば7万円です。

また、赤字状態であれば課税所得額も抑えることができるでしょう。課税所得額が減ると、その分、所得税額も低く抑えられます。

2.税金の還付を受けられることがある

昨年度は黒字経営で、利益が生じ、法人税などを支払ったとします。しかし今年度は思うように売上が伸びず、赤字状態になってしまったとしましょう。

このような場合は、前期で支払った税金の還付を受けることが可能です。還付を受けられるのは青色申告書を提出している中小企業者に限られるので、前もって青色申告の手続きをしておくようにしましょう。

なお、還付の対象となるのは法人税額のみです。事業税や住民税などは赤字になっても変換されないので注意しましょう。

また、前期の法人税額が上限となるという点にも注意が必要です。赤字が大きく、前期の法人税額では補てんできない場合は、翌年に繰越欠損金として赤字を繰り越すことができます。

3.翌年以降に赤字を繰り越せる

前期の法人税額で補てんできない赤字については、翌年以降に繰越欠損金として繰り越すことができます。繰越欠損金とは利益から差し引ける金額のことで、翌年の法人税額を減らす効果が期待できるでしょう。

例えば前期は800万円の利益が出て120万円の法人税を納めたとします。今期は売上が落ち込み、300万円の赤字が出たとしましょう。還付申請を行うことで120万円を受け取り、赤字差額の180万円に関しては翌年以降に繰り越すことができます。翌年に200万円の利益が出たのであれば、法人税は200万円-180万円=20万円に対してのみ支払えば良いと計算できるでしょう。

4.M&Aされやすくなることがある

M&Aを検討している企業であれば、意図的に赤字経営にして売却されやすくすることがあります。赤字企業であれば特別に高値をつけなくても手に入れられるので、買い手にとっては魅力となるでしょう。また、買収することで赤字も引き継ぐため、買い手は法人税などの節税効果を得られることにもなります。

意図的に赤字にしたのではない場合でも、買い手にとっては魅力的な企業に映ることがあるでしょう。例えば優れた技術や商品を持っているのに販路が乏しく、売上が上がっていない企業であれば、購入側が持つ販売ネットワークを活かすことで利益に繋げられるかもしれません。

もちろん売手が高く売りたい、と思っているときには必ずしもメリットになるわけではありませんが、敢えて引継ぎやすさ、という観点で考えた場合にはプラスに働くこともあります。

赤字企業のバリュエーション方法

赤字企業も黒字企業と同じく、売却時には何らかの形で企業価値を計算し、売値を決めます。よくあるバリュエーション方法としては、コストアプローチとマーケットアプローチ、インカムアプローチの3つが挙げられるでしょう。

コストアプローチとは純資産に基づいた企業価値の計算方法で、資産が少ないことが多い赤字企業にとっては不利になるかもしれません。また、マーケットアプローチとは類似する規模や業種の企業価値、株価などから対象となる企業の価値を計算する方法です。

上場しているような大規模の企業であれば、類似する規模や業種の企業も見つかりやすく、株価も客観的に知ることができるでしょう。しかし、小規模の企業では類似する企業を見つけることが難しく、計算も難しくなるかもしれません。

赤字企業のM&Aでもっとも活用されるバリュエーション方法は、インカムアプローチです。インカムアプローチとは、企業の将来得られるであろう収益に着目して企業価値を計算する手法で、赤字であっても将来性があれば高く評価されることがあります。

時間をかけて価格交渉することが大切

どのバリュエーション方法で企業価値を計算する場合でも、卓上の計算値だけでM&Aの取引価格が決まるのではありません。バリュエーションした結果をもとに、買い手、売り手が交渉することで取引価格が決まります。

たとえ赤字企業であっても、今まで開発してきた商品やサービス、将来性などに価値が認められれば、高値で取引されることもあります。表面的な財務情報だけでなく、ビジネスとしての価値をしっかりと伝えることが大切といえるでしょう。

しかし、M&Aの経験がない場合は、相場や将来性、期待値と比べて割安な価格で売却することもあるかもしれません。相手の言い値に任せ、気付かないうちに損をしていることもあります。大切な企業を正当に評価してもらうためにも、専門家の力を借りてM&Aするようにしましょう。

弊社では経験豊富なスタッフが、M&Aのご相談を承っております。売却をご検討の場合には、ご相談料はもちろんのこと、着手金や中間金などは一切不要です。手元に資金がなくM&Aの専門事務所に任せることが難しいとお考えの場合も、お気軽にご利用いただけます。正当な価格で評価し、納得できる価格で取引を成立させるためにも、ぜひお問い合わせください。

 

赤字企業の2つのデメリット

あえて帳簿上の数字を赤字にすることで、法人税や所得税を抑えることができます。場合によっては、前期の法人税の還付を受けたり、赤字分を繰り越して翌年度の法人税を抑えたりすることもできるでしょう。

しかし、赤字企業であることには、デメリットもあります。主なデメリットとしては次の2つが挙げられるでしょう。

  1. 金融機関から融資を受けにくくなる
  2. 赤字でも納税義務はなくならない

それぞれのポイントを詳しく解説します。

1.金融機関から融資を受けにくくなる

上述しましたが金融機関から融資を受けにくくなることがあります。

金融機関は融資を実行するとき、「返済能力があるのか」という点を重点的にチェックします。企業に利益があればその利益を返済に充当することができますが、利益がないのであれば返済は難しいのではと判断するかもしれません。

また、経費を増やして意図的に赤字にしている場合、信用性の低い企業だと判断される可能性があります。実際に連続した決算期において赤字を報告すると、金融機関は融資を打ち切るだけでなく、すでに融資をした金額についても一括で返済するように企業に請求するかもしれません。

2.赤字でも納税義務はなくならない

赤字の場合は利益がないため、納める税金も少なくなることがあります。しかし、納税義務がまったくなくなるということではありません。例えば法人税の均等割に関しては、利益があるかどうかに関わらずすべての法人は約7万円以上納めることが必要です。

また、資本金額が多い企業であれば、資本金などの所得以外も事業税の税額に反映されることになります。そのため、赤字であっても事業税が課せられるケースも少なくありません。

 

赤字企業を黒字経営に立て直す方法

大規模に設備投資をしたときや、売掛金の未回収が続いているときなど、どうしても赤字になってしまうときがあります。また、意図的に赤字にすることで、税金を抑えようとするケースもあるでしょう。

しかし、常に赤字でいることには弊害もあります。例えば長期間赤字なのに経営を維持できているというのは不自然なので、虚偽の申告をしているのではないか、あるいは所得を隠すなどの不正をしているのではないかと税務署から疑われ、税務調査が入るかもしれません。

税務に問題がなければ良いのですが、意図的に操作した痕跡があれば追徴課税などが実施されることもあるでしょう。

企業本来の営利を追求するという目的を果たすためにも、赤字企業のままでいるのではなく、黒字経営に立て直す必要があります。次の3つを実施することで、黒字へと立て直せるかもしれません。

  • コストを削減する
  • 売上戦略を見直す
  • M&Aを実施する

それぞれの方法について詳しく見ていきましょう。

コストを削減する

無駄なコストを減らすことで、利益を増やすことができます。例えば日々の業務の中で無駄な工程や材料が発生していないでしょうか。また、効果に見合わない広告、仕事量に比べて多すぎる従業員、外注費などもチェックしてみましょう。

場合によっては従業員の解雇も必要かもしれません。健全な黒字経営にするためにも、無駄なコストが発生していないか厳しく調べてみましょう。

売上戦略を見直す

コストが多いために赤字になっているのではなく、売上高そのものが少なすぎて赤字になっているケースもあります。なぜ売上が増えないのか、一度、戦略から立て直す必要もあるでしょう。

例えばターゲットとしている層が、商品やサービスに合わない可能性もあります。適したターゲットに向けて広告活動を展開するだけでも売上が伸びることもあるので、マーケティングからやり直す必要があるかもしれません。

また、商品やサービスの質に問題がある、販売店舗が商品に合っていないなどの問題が見つかることもあります。細かく作業や工程を見直し、売上が少ない理由を多面的に分析していきましょう。

M&Aを検討する

企業としての課題は見つかったものの、自社だけでは解決が難しいときは、M&Aを検討することもできるでしょう。

赤字企業は企業価値が低いことが多く、買い手にとっては入手しやすく魅力的である可能性もあります。また、赤字を引き継げるので、買い手は節税面での効果も期待できるでしょう。この魅力を活かして企業を売却すれば、問題解決が実現するかもしれません。

ただし、M&Aを実施するときは、満足できる価格で取引することが大切です。M&A仲介会社に相談し、納得できる価格で企業の売却などを進めていきましょう。

 

赤字企業が融資を受ける方法

赤字企業が経営を立て直す際に、まとまった資金が必要になることがあります。しかし、利益が出ていない状態では返済を続けることが厳しいため、金融機関も融資をしづらいのが現実です。

金融機関の融資審査に通りにくいときは、不動産を担保とすることも検討してみましょう。不動産の価値によっては高額を借りられることもあります。また、無担保のローンよりも金利が低く設定されることもあるため、返済負担を軽減できるかもしれません。

 

赤字企業にならないためにすべきこと

一時的に支出が収入を上回ることはどの企業でも起こりえます。特にまだ事業が軌道に乗っていない創業したばかりの企業であれば、場合によっては数年程度赤字が続くかもしれません。

しかし、赤字が続くことは問題です。事業存続が難しくなるだけでなく、従業員に負担を強いることもあるでしょう。意図的に赤字にしている場合も、融資を受けにくくなる、税務調査が入るなどのデメリットがあります。赤字企業にならないためにも、コストを削減すること、売上戦略を見直すことなどの現実的な対策を実施していくことが必要になるでしょう。

また、融資に依存する体質から脱却することも大切です。設備投資などを行うときには融資が必要になることがありますが、融資を受けることで利息が発生し、利益は減ってしまいます。融資に依存するのではなく、必要最小限のみ融資を利用し、健全経営を維持することを目指しましょう。

 

M&Aについてぜひご相談ください

赤字体質の改善が難しいときは、M&Aによって問題を解決できるかもしれません。一度、M&Aについても考えてみてはいかがでしょうか。

ぜひ弊社に企業経営のお困りごとをお聞かせください。場合によっては、企業全体を売却するのではなく、特定の事業を切り離すことで問題が解決できることもあります。企業ごとに最適な問題解決方法をご提案いたしますので、お気軽にお問い合わせください。

 

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