簿外債務の7つの種類と事業売却前にチェックしたい隠蔽リスクを解説 

簿外債務とは、帳簿に記載されていない債務のことです。事業売却を考えている場合には一度詳しくチェックする必要があります。また、隠蔽したまま売却を行うと賠償問題に発展しかねません。どんな種類があるのか、隠蔽するリスクは何かについて解説します。

 

簿外債務とは?わかりやすく解説

貸借対照表(バランスシート)に記載されていない債務を「簿外債務」と呼びます。例えば未払いの買掛金や残業代などは実際には負債となりますが、まだ支払ったわけではないので貸借対照表に記載せず、損金に計上しないままでおくこともあるでしょう。このように悪意を持って記入しないのではなく、実際にはまだ負債となったわけではないので記入しない性質の取引を簿外債務と分類することが一般的です。

なお、簿外債務と似た言葉に「偶発債務」があります。偶発債務は、条件によっては将来負債になる可能性がある債務です。そのため、簿外債務には偶発債務も含まれます。

 

簿外債務の7つの種類

現時点では負債ではないものの、将来的には負債になるものはすべて簿外債務に分類することができます。さまざまな簿外債務がありますが、その中でも多くの企業が抱えている種類としては次の7つを挙げられるでしょう。

  1. 未払いの買掛金
  2. 債務保証
  3. リースによる債務
  4. 未払いの残業代
  5. 賞与引当金
  6. 退職給付引当金
  7. 係争中あるいは係争に発展する訴訟問題

1.未払いの買掛金

取引に対する支払いを済ませていない場合には、買掛金が発生しています。同一の取引先と長年にわたって支払い・受け取りを繰り返している場合には、いくつかの支払いをまとめて記載するようになったりと未計上のものが発生します。支払いが済んでいないときは速やかに貸借対照表に記載するようにし、簿外債務が常習化するのを防ぐようにしましょう。

2.債務保証

取引先との付き合いから、債務保証を引き受けているケースもあるでしょう。債務保証をしたからといって必ずしも簿外債務になるわけではありませんが、万が一、債務者が返済できなくなったときには債務を引き受けなくてはならない可能性があります。財務諸表に債務保証を引き受けていることを注記して、債務になる可能性を忘れないようにしておくことができるでしょう。

3.リースによる債務

コピー機やプリンター、パソコンなどの機器などをリースしている企業も多いですが、リース契約をしている場合は契約期間分のリース料はリース残債として簿外債務になります。リース業者からリースしている物品が多いとき、あるいはリースの契約期間が長期に及ぶときは、リース契約による簿外債務も多くなるので注意が必要です。

4.未払いの残業代

従業員の残業代が未払いになっている場合も、いずれは支払うべき債務と考えられるので簿外債務の扱いになります。タイムカードなどで細かく調べ、未払いの残業代が存在していないかチェックしておきましょう。

未払い分が多いと、従業員に迷惑を及ぼすだけでなく、従業員からの信頼を失うことにもなりかねません。早めに確認し、支払っておくようにしましょう。

5.賞与引当金

将来的に従業員に支払う賞与は、企業にとってはいつか支払うべき債務と考えることができます。賞与引当金(しょうよひきあてきん)と呼び、かつては損金に計上しましたが、平成10年の税制改正により損金計上できなくなったので、簿外債務として把握しておく必要があるでしょう。

なお、引当金とは、将来的に生じると思われる費用などについて備えておく金額のことです。

6.退職給付引当金

将来的に従業員に支払う退職金も、企業にとってはいつか支払うべき債務と考えられます。退職給付引当金(たいしょくきゅうふひきあてきん)と呼び、支払うべき日に備えておくことができるでしょう。

ただし、賞与引当金と比べて支払うべき将来が遠い可能性があり、また、計算も複雑になるので、前もって金額を正確に算出することが困難です。

7.係争中あるいは係争に発展する訴訟問題

訴訟問題を抱えている場合も、簿外債務が発生するリスクがあります。特に訴えられている場合は、裁判に負ければ損害賠償を請求され、多大な支出が生じる可能性があるでしょう。

しかし、裁判が終わるまでは賠償額も計算できないため、貸借対照表に記載することが困難です。万が一、賠償責任を問われた場合に備えて、M&Aなどで財務情報を開示する際には、訴訟問題についても忘れずに伝えておくようにしましょう。

 

簿外債務を隠蔽するリスク

ほとんどの簿外債務は、まだ債務と確定したわけではないため、貸借対照表に記載できない取引です。そのため、M&Aなどで売却先企業に財務情報を開示する際にも、悪意なく伝え忘れてしまうことがあるでしょう。

しかし、悪意があるかどうかに関わらず、簿外債務を隠蔽すると損失を被りかねません。特に次の3つについては事前に考慮しておきましょう。

  1. 企業としての信用を失くす
  2. M&Aが成立しない
  3. 表明保証により損害賠償を請求される

企業としての信用を失くす

事業売却、会社売却をする場合は、財務状況をすべて詳しく開示することが求められます。しかし、簿外債務について伝え忘れると、売却先企業から「信用できない会社だ」と受け取られてしまうことになりかねません。

まず、自社の財務状況を正確に把握していないという時点で「信用できない」という印象を与えて、さらに、「故意に隠したのか?」という疑いを持たれることで「信用できない」という印象を確定してしまうでしょう。企業としての信頼度を保つためにも、財務状況を開示する前に徹底的に簿外債務を調査し、すべての情報を売却先に伝えるようにしましょう。

M&Aが成立しない

簿外債務を隠していたということがM&Aの途中に明るみに出ると、簿外債務の金額によってはM&Aが成立しない恐れもあります。また、簿外債務の金額が少ない場合でも、相手企業からの信用を失い、M&Aの成立を妨げるかもしれません。

表明保証により損害賠償を請求される

簿外債務を隠蔽し、表明保証条項で定めた補償の条件を満たす場合には、売却先企業から損害賠償を請求される可能性があります。表明保証条項では補償の期限も定めますが、期限が長期に及ぶ場合はさらに簿外債務が表出する可能性が高まるので、より厳しく簿外債務を調べておく必要があるでしょう。

M&Aにおいては簿外債務はトラブルのもとになりがちです。「少額だから」「可能性が低いから」と簿外債務を隠すのではなく、積極的に開示することで、万が一の場合に備え、売却先の企業とともに対策を練ることが重要です。

 

会社売却・事業売却など、M&Aをお考えの際にはぜひご相談ください

事業を売却する場合は、売却先企業からのデューデリジェンスを受けることになります。この際に財務状況を開示することが求められますが、簿外債務について伝え忘れてしまうと、企業としての信用を失くすだけでなく、M&Aが成立しなかったり、多額の損害賠償金を請求されたりすることにもなるでしょう。

とはいえ、たとえすべての簿外債務を把握したとしても、どう伝えたらよいか、どのような解決策があるか、など分からないことが多いと思います。会社売却や事業売却をお考えの場合は、ぜひ弊社にご相談ください。簿外債務の確認やM&Aの手続きなどを、お客さまの立場に立って誠実にサポートいたします。

 

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