赤字決算の企業は多い!意図的に調整する企業も?メリットとデメリットについて解説

日本の企業は赤字が多く、実に2/3の法人が利益を出していません。経営がうまく行かずに赤字になるケースもありますが、あえて利益が生じないように調整しているケースもあります。意図的に調整する企業があるのはなぜなのか、メリットとデメリットから探っていきましょう。

 

赤字決算の3つのメリット

できるだけ利益を出すように努めることは企業として必要なことですが、赤字になってしまうこともあります。赤字決算にはネガティブなイメージがつきまといますが、実際には必ずしも良くないこととはいえません。

赤字決算によって得られるメリットとしては、次の3つを挙げられるでしょう。

  1. 法人税額を軽減できる
  2. 翌年以降の法人税額も軽減できる
  3. 欠損金の繰戻還付を受けられる

 

1.法人税額を軽減できる

法人は、決算日までの1年間に得られた利益に対して法人税を納めなくてはいけません。つまり、年間利益がない場合は、法人税の支払いもなくなることになります。利益は得られた収入から経費や控除額などを差し引いて求めますが、収入より経費と控除額の合計額が多いときには赤字決算となり、法人税の支払い義務もなくなるでしょう。

2.翌年以降の法人税額も軽減できる

青色申告書を提出している場合には、赤字額を翌年の利益から差し引く「繰越控除(くりこしこうじょ)」が適用されます。例えば今年度の赤字が300万円だったとしましょう。翌年は2,000万円の利益を得たとしても、今年の赤字分を差し引けるので、法人税は1,700万円に対して発生することになります。

なお、この繰越控除は最大で10年間適用されるので、赤字が続いているときや、赤字分を補填するほどの黒字が出ないときでも、時間をかけて相殺することが可能です。

3.欠損金の繰戻還付を受けられる

赤字額は翌年以降の黒字と相殺することもできますが、前年以前の黒字と相殺することができます。これを「繰戻還付」と呼び、相殺して課税対象額が減った分の法人税については、後日還付を受けることが可能です。

今期の決算が赤字でも、次期に黒字になるとは限りません。赤字が続き、いつまで経っても繰越控除の恩恵を受けられないという可能性もあるでしょう。しかし、繰戻還付を適用するならば、すでに支払った法人税の還付を受けられるので、赤字を無駄にすることなく活用できます。

ただし、繰戻還付は法人税などの国税には適用されますが、住民税などの地方税に関しては適用されません。地方税は翌年度以降に繰越控除を活用して減税するようにしましょう。

 

赤字決算の3つのデメリット

赤字決算を活用することで、現時点での法人税額をなくしたり、翌年度以降や前年度以前の法人税額を減額したりすることができます。しかし、赤字決算は良い点ばかりというわけではありません。デメリットもあるので注意が必要です。特に注意すべきポイントとして次の3点を挙げられるでしょう。

  1. 融資を受けにくくなる
  2. 新規事業に参入しにくくなる
  3. 運転資金がなくなる

1.融資を受けにくくなる

運転資金や設備投資などが不足している場合は、金融機関から融資を受けることになります。しかし、金融機関から融資を受ける際には、所定の審査に通過する必要があり、必ずしも必要な金額を借りられるわけではありません。

融資審査においては、企業の財務状況などが詳しく調べられます。赤字決算は「利益を得られていない」という証拠になり、企業の返済能力に問題があると判断されて、融資を受けられない可能性があるでしょう。

2.新規事業に参入しにくくなる

新規事業に参入するときは、設備投資や初期投資などの多額の費用が必要になります。赤字決算の場合は金融機関からの融資を受けにくいため、新規事業を始めるための費用を借りることは困難になるでしょう。

せっかく良いアイデアがある場合も、赤字決算のために無駄になってしまうことがあります。現事業の赤字を解消してから新規事業を開拓することが望ましいといえるでしょう。

3.運転資金がなくなる

赤字が出ているということは、簡単に言えば支出が収入より多い状態です。赤字決算の場合は金融機関から融資を受けることも難しいので、不足する分は自己資金で補填しなくてはいけません。

もちろん自己資金にも限りがあるので、赤字が長く続くと運転資金が枯渇してしまうでしょう。理論上は赤字は10年間繰越控除することができますが、実際には10年間も自己資金で会社を維持することは容易ではありません。

 

日本企業の2/3は赤字決算

国税庁が発表した「国税庁統計法人税表(2018年度)」によれば、日本の普通法人のうち赤字決算を報告している法人は66.1%でした。2017年度の調査(66.6%)と比べるとやや減少してはいるものの、決して少ないといえる割合ではありません。

特に赤字法人が多いのは小売業で、74.7%の企業が赤字決算でした。次いで金融業・保険業が多く、69.5%の企業が赤字を報告しています。

戦略的に赤字決算にする企業もある

事業がうまく行かず、どうしても赤字になってしまう企業もあります。また、事業が上り調子であるものの、業界全体の景気が思わしくなく、赤字が続く企業もあるでしょう。

しかし、法人税額を減らすために、戦略的に赤字決算を計上している企業も少なくありません。意図的に赤字を計上する企業がしばしば採択する手法を3つ紹介します。

  1. 決算賞与を支給
  2. 固定資産の処分
  3. 中小企業共済の活用
【戦略的赤字手法1】決算賞与を支給

社員に支給する賞与は、損金として算入できます。決算期前に黒字が出そうなことが分かったら、決算賞与を社員に支給し、損金算入して赤字決算にすることができるでしょう。

黒字を出して法人税を納めることももちろん良いことですが、その分を決算賞与として従業員に支給することで、従業員のやる気を引き出すというメリットも得られます。

【戦略的赤字手法2】固定資産の処分

会社の決算書に記載されている固定資産の中で、あまり活用していないものがあるときは、処分することも検討してみましょう。処分したマイナス金額分は損金算入できるので、黒字を減らし、法人税額を節税することにもつながります。

また、災害などで固定資産に損傷が生じ、資産額を低く見積もる必要がある場合は、評価額の減少分を損金として計上することも可能です。よくあるケースではありませんが、災害の被害に逢ったときは忘れずに検討するようにしましょう。

【戦略的赤字手法3】中小企業共済の活用

中小企業では従業員の退職金を支払うために「退職金共済」に加入できることがあります。この掛金は全額損金算入できるので、黒字を効果的に減らす際にも活用できるでしょう。

また、中小企業においては「倒産防止共済」に加入できることもあります。これは取引先が倒産したときに売掛金に相当する金額を借りられる共済制度ですが、この掛金も全額損金算入が可能です。

 

会社売却・事業売却など、M&Aをお考えの際にはぜひご相談ください

赤字決算を活用することで、法人税額を減らすことが可能です。しかし、赤字が続くと金融機関からの信用を得にくくなり、事業拡大や新規事業への参入が難しくなることがあります。また、取引先からの信用が失墜する可能性もあるでしょう。

事業継続が難しいときは、ぜひ弊社にご相談ください。廃業するのではなく、M&Aを通して事業を売却して収益を得る方法などをご提案させていただきます。

 

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