[承継者の視点]結婚式場運営「株式会社五洲園」会長 萩原史夫氏

 

ご自身の代で、宴会場から結婚式場の運営へと事業を切り替えた株式会社五洲園の萩原会長。現在では代表者としては引退され、息子さんにその事業を承継されています。
結婚式披露宴を提供するという商品・サービスには、目に見える形がありません。事業の優位性をどう担保するのかを考えたとき、チャペルや庭などのハードもありますが、本質的には新郎新婦の気持ちを推し量り、そこをアレンジしていく「人」というソフトに集約されていく・・・ブライダル業界の事業承継というのは、目に見えない「思いの承継」に近いのかもしれません。ただ、目に見えないものだからこそ、伝えるのは非常に難しい。そこで今回は、そんな後継者に伝えるのが難しい「思いの承継」はどのようになされたのか、伝えたいけど伝えづらい「思い」にフォーカスしてお届けしたいと思います。

事業としてどう社会に役立っていくか

―会長の代に宴会からブライダルへと力の入れ方を変えたと伺いました。そこにはどんな背景があったのでしょうか?

萩原会長:
僕が43歳の時、息子が高校生ぐらいだけども、当時宴会場をやっていて。そのときにある人から「なんのために仕事してるんですか?」と言われて。

当時は、行きつくところは金のため、ぐらいにしか思わなかったんだけど、「社員を大事にしてますか?」と言われて。もちろん社員を大事にしているつもりだし、当然そう答えたら、今度は「社員は大事にされていると思ってますかね?」と。

その質問にガツーンと来て、給料は払ってるけれど、どうなんだろう。そのときに、自分が従業員の役に立てているのかを疑問に思ってしまったのと同じように、従業員も何かの役に立てているのか疑問に思ってるんじゃないかと思って。お金とかではなく、事業としてどう社会に役立つのかを本気で考え始めた。それで当時、世の中的に家族の絆とか団らんがなくなってるっていうのに気づいてね。結婚して子供ができたら責任をもって育てないといけない、家族を守らないといけない。だけど、現実はそうなっていない。結婚式っていうのは家族の始まりだし、そこに誓約があるわけだから。そういう誓約の場を大切にしたいと

 

―なるほど。結婚式や披露宴の数時間がどうこうではなく、それをやる意味ですね。

萩原会長:
そう、たとえば犯罪をおかしたりする人がいるけれども、家族に迷惑をかけると思ったら、やらないでしょ。家族が自分のストッパーになるんだよ。

僕もお母さんが大好きなんだけど、お母さんが悲しむようなことはやらないと決めてる。

あと、結婚してから子育てが終わるまでの30年家族時間というものを考えていて、少なくともそれまでは結婚して3年、5年、10年後に誓約した式を再度やってもらいたい。結婚したときの気持ち、誓約したときの、自分たちの原点を思い出してほしい。昔は夫婦間の問題や家族の問題も仲人を介して乗り越えていたけども、いまは仲人がいないでしょ。その代わりを結婚式場がやればよいと思っているんだよね。

 

どう引き継ぐかより、後を継ぎたくなる会社を作る

―実際に息子さんに引き継ぐときには、どのような言葉をかけたんでしょうか? いろいろとあると思いますが、一番の部分は。

萩原会長:
「社員さんを幸せにすること」ということだけだね。目の前の人、その人が関わる人をどう幸せにするか、っていうこと。

ブライダルに転じてから、営業利益が全然なくて、良いときでも3%ぐらいだったかな。そのうえ、新店にかけた借入が何億円もあって。週休2日も無理、ボーナスも出せないの。自分の思いに反して社員を大切にできてないわけ。

それで、ハウスウエディングの収益モデルならばもっと儲かるだろうし、社員を幸せにできるかもしれないと思ったんだね。ハウスウエディングに精通しているある人からの提案で、稼働率をどう上げるかという話を受けて、そのノウハウを実践してみたんだけども、経営的には正しいのかもしれないけど、1週間で3組を担当するような・・・あまりにも従業員が忙しくなってしまって。

お金は入るけど、働いている人が疲弊して、全然楽しそうじゃなくて、すぐに止めたね。人の役に立つためにやってるはずなのに、目の前で辛そうにしている人がいる。そんなのは続かないよ。

 

―目の前の儲けよりも、目の前にいる人の役に立つことを選択されたと。

萩原会長:
そりゃそうだよ。事業承継とかいうけど、どう引き継ぐかなんてのはどうでもいいんだよ。それよりも、後を継ぎたくなる会社を作らないといけない。社会の役に立っている会社で、続けたくなる会社。

だって、息子に引き継いだとして、息子が嫌々やってる会社なんて続くはずがないでしょ。

 

感謝、利他の精神、因は我なり

―確かに思いの部分は分かるんですが、それでは経営的には非効率なところもあると思います。成り立たない部分もあるのではないでしょうか?

萩原会長:
それは逆だね。従業員が疲弊する姿をみて、仕事は従業員ひとりにつき1週間に1組とか制限したりしたよ。そうなると、ひとり年間40組ぐらいしかできなくて儲けもない。でも、ひとりひとりに余裕ができて、改めて共通の思いに向き合えると、みんながひとつになって助け合いが始まって、結果、勝手に増えていった。それぞれがそれぞれの分身になっているような感覚だね。

そういう意味だと、たとえば、支配人の仕事っていうのは副支配人を支配人にすることであって、居座ることではない。そうやって今の役割に留まることなく、お互いに引き上げて繋いでいく、ということをしていったらいいんじゃないかな。

 

―哲学的な話になってきましたが、そこまで考えて動くというのは、一般的には非常に難しいと思うのですが、会長の原動力はどこにあるんですか?

萩原会長:
誰にでも迷いや間違いはあるけれど、人間は有限だし、人間は不完全だから。

経営者としてとかではなくて、人として、いずれ死ぬわけで、良い死に方をするには良い生き方が必要だと思う。それには努力しかない。だって仮に80歳まで生きるとして、だいたい30,000日ぐらいしかないわけでしょ。1日は86,400秒。限られた一生と、限られた毎日を生きてる。そういう限られた時間のなかで間違えるのは当然として、毎日生きられることに感謝して、どれだけ自分が頑張れるかってこと。

 

―ありがとうございます。何か研修を受けている気分になってきました(笑)。では、会長が大切にされている言葉、概念を教えていただけますか。

萩原会長:
これは、感謝、利他の精神、因は我なり、の3つだね。

今日生きていられる、ということに感謝して。今日も自分の身体と気持ちを他人や社会のために使えるということ。
で、何かがあったとしても、それは全部自分に原因がある。たとえば披露宴なんかで誰かに水をかけてしまったバイトがいたとして、誰が悪いのかって。それはバイトではなくて、トップが悪いわけ。

だって、たとえばそれが皇室のウエディングだったとしたら、同じようなマネジメントをしたのかっていう話で。皇室でも、他の人でも、結婚式にかける思いに差なんかないでしょ? それなのに、そういう思いを伝えきれず、的確な指導をしなかったり、許される雰囲気を作ったりした自分が全部悪いのよ。他人を責めても仕方ない。全部自分に返ってくる。

 

―そういう会長自身の考えや思いを伝えるのは難しいと思うのですが、会長はどうやって伝播していったのですか?

萩原会長:
勉強会をやって注入していった。従業員にも関係業者にもやったね。

 

―時間と労力をかけて伝えているんですね。そういったトップの思いの強さに従業員が萎縮してしまったり、自発性がなくなったりするようなことはないのでしょうか?

萩原会長:
それも話してるよ。個人がこうしたら良いみたいなのは思ったら良いし、言ってほしい。

ただ、理想に一気に近づくような圧倒的な変化を意見すると、周囲とのギャップが受け入れられなくて、すぐには埋められないわけ。でもね、たとえばここにある机を毎日1ミリず動かしても誰も気づかないでしょ。だから、そういう小さい変化を積み重ねて、結果的に大きな変化をもたらしたらいいって。


「これまで」と「これから」のことを熱く語ってくださいました

社長はいつか死ぬけど、事業はお客さんのためにも続けないといけない。

―会長は現在、どのような関わり方をされているのでしょうか? 後継者にとってやりづらい部分もあるのかな、と。

萩原会長:
息子は若くして継いでるから、結構大変なことも多いと思うよ。でも、方法論には口出さないようにしてる。本質論は変えずに、方法論は全部変えろと言っている。現状否定から考えてもらって構わないと。

 

―そもそもの話になりますが、息子さんに承継するということは考えていたのでしょうか? また息子さんにも伝えていたのでしょうか?

萩原会長:
引き継いで、とは一言も言ってないね。息子の人生だから。それなのに、大学生のときから結婚式場でアルバイトとして働いていたし、社会人になっても自ら飛び込んでいった。そんな姿を見て・・・でも、まぁ嬉しかったし、心強かったね。

 

―親子だからこその以心伝心みたいなものがあったのでしょうか。そんな息子さんに事業承継するなかで困ったことはありましたか?

萩原会長:
特にないけども、親子だからこそかもしれないけど、息子が話をきかない。笑

 

―それは良いことだと思いますよ。変化できるのも事業承継する意味だと思いますし、継続するには、ただ守るだけでなく時代に合わせた変化が必要だと思います。

萩原会長:
まぁそうだね。お客さんがいるということは事業の価値があるということだから。お客さんはどんどん変化していくからね。お客さんがいる限り、価値を提供できているということなんだよ。社長はいつか死ぬけど、事業はお客さんのためにも続けないといけない。
社長が死んだから終わりなんていう事業は意味がない。社長がどうこうとか関係ない。事業は、お客さんのためにあるべき

 

まだ見ぬ自分との出会い

―代表者としては引退されたわけですが、個人として今後やりたいことや活動したいことなどはありますか?

萩原会長:
それは、曼荼羅チャートを使って考えてみた。子供と親族の幸せ、あ、それと妻か。笑

趣味は充実させていきたいのと、あとは役立つということでいえば、自分がこれまでに教えてもらったり、経験させてもらった哲学を伝播していけるようなことかな。

教えるというとおこがましいんだけど、会社と同じで繋げていくことが人生だと思ってるし、誰かの勉強の役に立ちたいね。

 

―教育の部分ですね。

萩原会長:
知らないことを知ることが勉強でしょ。結局、人生って、まだ見ぬ自分との出会いだから。

30歳のときと40歳のときの自分は違うし、40歳と50歳の自分は違う。

一方的に自分の経験や思いを教えるのではなくて、その人が持っている能力を育むことが重要がなんだと思う。誰にも素晴らしいところはあって、その素晴らしいところを伸ばす。短所なんて気にしなくてもいくらでも見えてしまうものだから、長所を見るようにする。愛の反対は無関心だとすれば、褒めるというのは関心がないと出来ないからね。そういう哲学を通して、人や社会の役に立てればいいね。

インタビュー・執筆:株式会社事業承継通信社 柳 隆之

 

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