イタリアンレストラン経営「株式会社フェリーチェ」青池隆明氏|事業承継についての意見

多くのビジネスマンたちで日夜賑わう東銀座。今回お話を聞いたのは、そんな華やかな街の一角に店舗を構えるイタリアンレストランのオーナー、青池社長です。大手広告会社に勤務した後、1年間の単身イタリア料理修業を経て開業。いまでは東銀座界隈で3店舗を経営するにいたります。サラリーマン時代とは全く違う畑へと進出した青池社長の原風景、そして、その風景が生み出す未来とはどんなものなのでしょうか。「今」と「これから」、社長が抱く強い想いと目の前の現実。事業承継はまだ先のことになりますが、あえて事業承継という観点で「いま考える未来」についてのお話を伺いました。

東銀座駅から歩いて3分、創作イタリア料理とイタリアワインが楽しめるイタリアンバル。LA BOTTEGAIA/ラ・ボッテガイア

大手企業を退職し
単身イタリアへ修行に

ーまずはじめに、青池社長が経営されている株式会社フェリーチェについて教えてください。

青池社長:
2010年3月に東銀座にイタリアンレストランのお店(TRATTORIA DE FELICE/トラットリア・ダ・フェリーチェ)をオープンして、いまでは東銀座界隈に3店舗のイタリアンレストランを運営しています。

ーもともとは大手広告会社に勤務されていましたが、起業までの経緯はどのようなものだったのでしょうか?

青池社長:
2001年に広告会社に入社したんですが、2007年に母親が病気で他界しまして、命というのは有限なんだな…と思って。自分のやりたいことをやろうと思ったのがきっかけですかね。

2008年に退職して、1年間イタリアのルッカという都市にあるレストランに修業しに行きました。それで、向こうで知り合った日本人達と一緒にイタリアンレストランの会社を立ち上げた、というのが流れです。

フェリーチェのレストラン3店鋪で共通するのは、料理に合うワインやお酒の豊富さ

家族みんなの嬉しそうな顔
それが自分の原点

ー広告会社での営業や企画、というご経歴から考えると、イタリアンレストランというのは異色な感じがしますが、なぜイタリアンレストランを?

青池社長:
単純に好きだから、というのが理由です。

そもそも大学に行くときもイタリアに留学しようと思ってたんですよ。さすがにそのときは親に反対されて、大学に行って就職となりましたが、改めて自分が何をやるかとなったら好きなものをやりたかった

ただ、どうして好きになったかといえば、溯れば子どもの頃の体験が影響しているんだと思います。子どもの頃、なにか食事を自分が作るとなったときに、普段食べないもので家族を驚かせたいなと思ったんです。家庭で作られる料理は和食が主だったもので、トマトソースのパスタを作って。それを家族みんなが美味しい美味しいって言って食べてくれた。そのときの家族の嬉しそうな顔が自分の原風景になってますね。

 

3店舗それぞれに個性があり、店によって違う雰囲気や味を楽しめるのがフェリーチェの魅力

理想と目の前の現実
人手不足の問題は深刻

ーいまでは東銀座エリアで3店舗にまで拡げられているわけですが、経営は順調ですね。

青池社長:
もともとの職場の人が来てくれたり、またメディアでも取り上げてもらえる機会も多くて、ありがたいことにたくさんのお客さんに来ていただいてますね。

ただ、理想をいえば、会社に入ってくれた従業員がうちで料理も経営も学んで育って、その人に任せて店を出す、という流れを作りたかったのですが、そもそも人が足りない。日本全体の問題にもなってますが、数年前に比べても人手不足の問題は顕著になってきていますね。

いまでも、監督がフル出場な状態です。笑

それと経営している3店舗それぞれに個性を持たせていて、料理もオペレーションも違うので、この店舗で採用した人をこっちの店舗で、というわけにはいかない。そういう意味では人手の部分では、悩みはありますね。

東銀座駅徒歩3分、富山の漁港直送の鮮魚と日本酒&ワインが自慢のイタリアンバル。LA BOTTEGA DEL MARE/ラ・ボッテガ・デルマーレ

ーそうですか。この数年でもそんなに変化を感じますか?

青池社長:
はい。自分も家族を持つ身なので、家族を持つスタッフにとっても優しい会社でありたいと思ってますし、
実際に、休みも日曜定休で、GWで5日、夏季5日、年末年始7日~10日間休みにしたりしてますが。

ー飲食業界でそれはすごいですね・・・。その条件でもなかなか人は来ないというわけですね。

今いる人でできること、
やりたいことはたくさんある

これからの事業展開についてはどうお考えですか?

青池社長:
先ほどもお話ししましたが、この人材不足の状況を考えると、ここ数年で言うと新店舗の展開はないですね。

だから、今いる人でできること、というのを考えていて。

チョコレートのテリーヌで物販を始めようとしていたり。これはもうすでに始めてますが、紹介でケータリングをやったり。もっと言えば、ジェラート屋をやりたい、とか、店舗の営業時間外を利用してカレーを提供したい、とか。やりたいこと、やってみたいことはたくさんあります。

イタリアンレストラン経営にかける熱い想いを語ってくださった青池社長

自分がいなくても会社が回る
引き継ぐならその時が理想

ー10年後、20年後となるとどうでしょうか。

青池社長:
直近の展望はあるけれど、事業承継とか先々のことは今はまだ考えていないですね。

たしかにいま42歳で、50過ぎてガタが来るというのはなかったとしても、今と同じ働き方が出来るのか、今と同じようなパフォーマンスが出せるのか、というと違うと思う。

そのために、自分がいなくても会社や店がうまく回る状態を作りたいし、もし作れれば、その時が引き継ぐ時なのかもしれない。

ただ、人の問題を考えると、自分が介在しないで何も問題なく回るという状態は、今のところなかなか想像はできないですね。それに、自分とのつながりで来てくださっているお客さんのことを思うと、自分が離れたときにどうなってしまうのか、と。

社長がイタリア修行で培ったセンスと目利き。東銀座にいながらイタリア本場の空気と味が楽しめる

自分が育てた会社を
誰か渡していいものなのか

ー事業承継ですと、承継先は親族内か従業員か、または第三者となりますが、あえて選択するならば?

青池社長:
親族はまだ子どもも小さいし、特にそこまでして継がせたいということはないですね。従業員も先の人材の問題もあって、そこまで今のところ現実的ではない。ならば第三者、といっても、これも言いましたが、メニューもオペレーションも違う3店舗だからスケールしづらい。

自分以外でも出来るように、メニューも統一、オペレーションも同じ、というようにすれば経営効率も上がるし、売却という面ではしやすいのでしょうが、それは僕のやりたいことではないんです。

いつ行っても違うメニューがあるとか、季節感があるとか、それぞれの店の味が楽しめるとか、それがお客さんに支持されているところだし、自分も楽しい。

自由度や裁量があるからこそ店長や料理長もやってくれてるし、それがなくなったら店を辞めてしまうかもしれない。

それに、自分の想いがあるものをそう簡単に誰かに渡していいものなのか、という気持ちはあります。あと従業員やお客さん、周りの人からどう思われるのか、というのは気になるし、「え?そんな簡単に辞めちゃうの?」とか思われるのはちょっと嫌かなと。

社名の「FELICE フェリーチェ」はイタリア語で、幸福な、うれしい、楽しい、の意味。フェリーチェと出会った人がみな幸せに、ハッピーになるように!という願いが込められている

事業存続の判断軸は
誰かのためになるかどうか

ーもし誰かに事業承継するとしたならば、これだけは守って欲しい、というものはありますか?

それは全然ないですね。承継したらその人のものだから特にない。自由にしてほしい。

ただ、いまは努力の白地があるし、渡す体制も出来てないから、具体的にはまったくイメージできないですね。「続ける」ということより、誰かのためになるかどうか。ためになるのであれば、続いてもいいし、続かなくてもいいんです。無理に事業承継をして、誰も幸せにならないのなら廃業でもいいと思っている。

もしくは、小さく仲間内で楽しんでもらえる会員制レストランとか。

やっぱり原風景になっている、初めて自分がトマトソースのパスタを作って、家族が美味しいって言って食べてくれたあのときみたいな時間を、ただ提供したいと思っています。

TRATTORIA DA FELICE トラットリア・ダ・フェリーチェ 〒104-0061 東京都中央区銀座5-14-9石和田ビル2F tel: 03-3547-6940

株式会社フェリーチェ :
https://www.da-felice.com/felice/
トラットリア・ダ・フェリーチェ :
https://www.da-felice.com/felice/

ラ・ボッテガイア :
https://www.da-felice.com/bottegaia/

ラ・ボッテガ・デルマーレ :
https://www.da-felice.com/delmare/

 

今回は、短期的な事業承継を必要としない経営者にあえて事業承継についての考えを伺いましたが、 改めて「継続する」ことそのものが善なのではなく、「事業が誰のためにあるのか」「何のためにあるのか」という事業価値が前提であること、そして「必要とされる価値があってこその事業継続」という経営の原点を教えていただくインタビューとなりました。

インタビュー・執筆:株式会社事業承継通信社 柳 隆之

 

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