「偶発債務」とはどんな債務?M&Aの際に注意すべきポイントを解説

偶発債務とは、まだ債務として確定したわけではないけれども、債務になり得る可能性がある取引のことです。例えば債務保証や手形割引などの取引は、偶発債務になるかもしれません。そのほかにはどのような種類があるのか、M&Aの際に注意すべきことについて解説します。

 

偶発債務とは債務になる可能性がある取引

偶発債務とは、将来的に債務になる可能性がある取引のことです。現時点では債務ではない取引ですが、例えば損害賠償責任などを問われている場合、裁判などで賠償責任が確定すると支出が生じることになります。このように偶発債務を早めに理解しておくと、資金の準備ができ、債務が確定したときにスムーズな対応ができるようになるでしょう。

原則としてバランスシートには記載不要

偶発債務はまだ債務として確定しているわけではないため、バランスシート(貸借対照表)などには記載しません。

なお、バランスシートとは、企業内の財務状況を正しく記載するための財務諸表のひとつです。偶発債務は債務になり得る可能性がありますが、まだ債務が確定したわけではないため、バランスシートに記載してしまうと株主や債権者などに誤解を与える可能性があります。

債務になる可能性が高いときは引当金に計上

とはいえ、債務になる可能性が高い取引に関しては、何らかの記載をしておく必要があります。債務になる可能性が高く、なおかつ債務発生の理由が当期以前にある場合は、「引当金(ひきあてきん)」としてバランスシートに計上することが可能です。引当金は損失のほうに記入し、残高は負債の部あるいは資産の部に繰り入れます。

 

偶発債務になる取引の例

将来的に債務となり得る取引としては、次の5つを挙げられます。

  • 債務保証をしている場合
  • 手形割引をした場合
  • デリバティブ取引
  • 損害賠償に関わる訴訟係争中の場合
  • 未払いの賃金がある場合

 

いずれの取引も、通常であればバランスシートに記載しません。しかし、債務になる可能性が高く、なおかつ当期以前に債務発生の理由があるときには、引当金としてバランスシートに記載することがあります。

債務保証をしている場合

取引先などの他社の債務保証をしている場合は、将来的に自身の債務になる可能性があると考えられます。例えば債務保証をした相手の経営が悪化した場合は、取引先に代わって債務の返済を行わなくてはいけなくなるかもしれません。債務保証を引き受けた場合は、こまめに保証した側の経営状態などをチェックしておくことができるでしょう。

手形割引をした場合

手形割引をした場合も、債務保証をした場合と同様、本来であれば債務になることはありません。しかし、手形が不渡りになった場合は、手形割引を渡したほうに支払いの責任が発生するため、偶発債務になり得る可能性があると考えられます。手形割引を渡した相手の経営状態などをチェックし、債務になる可能性があるのか調べておくことができるでしょう。

デリバティブ取引

株式や債券などの金融商品から派生した商品を取引することを「デリバティブ取引」といいます。デリバティブ取引自体は債務ではありませんが、相場の変動によっては損失が生じることもあり、将来的に負債につながることがあるでしょう。必要に応じてバランスシートに記載し、偶発債務になる可能性があることを記録しておくことができます。

損害賠償に関わる訴訟係争中の場合

訴訟係争中で、なおかつ訴えられている場合には、損害賠償を請求されて損失が発生することがあります。

例えば食品メーカーで製造日を偽造し、それにより食中毒の被害が生じたといったケースでは、すでに被害が出ていることもあり、損害賠償をする可能性も高いと考えられるでしょう。引当金としてバランスシートに記載し、賠償金の支払いに備えておきます。

未払いの賃金がある場合

従業員の残業代など、未払いの賃金がある場合には、偶発債務になる可能性があります。企業によっては最初に定めている固定残業代だけを支払い、予定した残業時間を超えた場合の残業代を支払わないまま放置していることが珍しくありません。

しかし、残業代が正当なものであるときには、従業員から請求された場合にはすぐに応じる必要があります。偶発債務になる可能性は高いので、引当金として処理し、早めに支払うようにしましょう。

 

事業売却をするときの注意点

事業売却をする際には、偶発債務の処理を済ませておく必要があります。偶発債務は将来的に債務となる可能性がある取引のため、買収側から見れば、負債の一部として考えておくべきものだからです。特に次の3点に留意し、事業売却の準備を進めていきましょう。

  • 財務諸表に注記して売却先に情報提供
  • 売却先に偶発債務について説明する
  • 故意に隠すと補償問題に発展することもある

財務諸表に注記して売却先に情報提供

偶発債務になる可能性が高い場合は引当金として、また、偶発債務になる可能性が高いとはいえない場合でも財務諸表に注記するなどして、売却先に積極的に情報を提供するようにしましょう。

事業売却を行う際には、必ず売却先の企業からデューデリジェンスを実施されますが、その際には財務状況を細かく調べて、資産の額や負債額を正確に把握する作業が行われます。このときの計算によって売却額が分かるので、偶発債務になる可能性がある取引について知らせていないときは、不当に高い金額で売却することになるかもしれません。

場合によっては買収側に損害を与えることにもなるため、事前に情報を提供し、双方が納得できる売却額を決定できるようにしておきましょう。

売却先に偶発債務について説明する

偶発債務になる可能性がある取引は、財務諸表に注記するだけでなく、売却先に具体的に説明しておくようにしましょう。特に従業員の未払いの賃金など、近々に支払いを請求される可能性がある取引については、早めに売却先に情報を与えることで、トラブルを未然に防ぐこともできます。各取引の内容や偶発債務として確定するための条件など、詳しく説明し、了承を得ておきましょう。

故意に隠すと補償問題に発展することもある

偶発債務を隠し、売却先に不利益を与えると、補償問題に発展することもあります。事業売却の取引はお互いの信用の基に成立しますが、故意に隠していることが判明すると、信頼関係を維持できず、売却がなかったこととして取り消される可能性もあるでしょう。

また、事業売却の契約の中に、提示した書類や情報に嘘がないことを証明する「表明保証条項」をつけることがあります。嘘があった場合や意図的に情報を隠した場合は、表明保証違反として補償問題に発展することもあるでしょう。

信頼を失くし、なおかつ補償を請求されるといった事態を避けるためにも、偶発債務のように不利な情報であっても、すべて隠さずに売却先に伝えることが大切です。

 

会社売却・事業売却など、M&Aをお考えの際にはぜひご相談ください

M&Aのときには、まずは自社の取引に偶発債務がないか調べ、偶発債務の可能性が高いものに関しては売却先に正直に伝えることが必要です。しかし、たとえ、すべての偶発債務を把したとしても売却先へどう伝えたらよいか、どのように解決に導いたらよいか、など分からないことも多いかと思います。

M&Aの際にお困りごとが生じたときは、ぜひ弊社にご相談ください。経験豊富なスタッフが手厚くサポートいたします。

 

 

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