事業売却・会社売却の事例と売却した理由|M&Aで事業譲渡したオーナー経営者の本音を探る!
オーナー経営者が売却を検討する際、様々なことに悩まれると思います。
顧客や従業員など関係者も多い中で、そもそも簡単に売却してもよいものだろうか? 売却するとしてどんなことに気を付けたらよいものか? 売却したいけどもっと頑張るべきなのだろうか?・・・あれこれ悩んでいるうちに、日々の業務に忙殺され、売却の検討を取り止める、ということはよくあります。
人の人生において「M&A」というのは頻度高く行うものではありませんから、自身の経験則で判断するのはほとんど不可能に近いと言えるでしょう。
この記事では、実際に会社の売却を検討し、実施してきた経験者の声と事例をもとに、売却の「きっかけ」となる理由を紹介していこうと思います。この記事が、これから売却を検討される方の少しでも参考になれば幸いです。
CONTENTS
現在のM&Aの実施状況
まずは簡単に現在のM&A全体の動向を見てみましょう。昨今M&Aという言葉を多く聞くようになったかと思いますが、実際にはどれほどのM&Aが実施されているのでしょうか。
M&Aの件数は年々増加
レコフの調査によると、1985年の段階では年間500件にも満たなかったM&A件数は、2004年に2,000件を越え、2017年には3,000件、2018年以降は3,500件を越える件数となっています。もっともこの数値は公表されているものに限定されるため、非上場の中小企業や個人事業主の事業などスモールM&Aを含めるとかなりの数が取引されていると考えられます。
参照元:レコフ グラフで見るM&A動向
M&Aが増えている理由
ではなぜ、M&Aの件数はこれほどまでに増加しているのでしょうか?
経営者の高齢化と後継者不足
M&Aが増えているおもな理由としては、「経営者の高齢化」と「後継者不足」が挙げられます。経営者が高齢になって世代交代を迫られているにも関わらず、少子化により後継者が不足しているのです。
中小企業庁の試算によれば、2025年には世代交代が必要な70歳以上の経営者は約245万人にものぼるとされており、そのうち半分は後継者難に陥るとされています。
参照元:中小企業庁 中小企業・小規模事業者における M&Aの現状と課題
また、親が事業をやっている場合、子供の後継意識は決して高くはありません。日本政策金融公庫総合研究所の「子どもの事業承継意欲に関する調査」によれば、子どもの事業承継意欲は、父の事業に対しては50.0%、義父の事業にも54.2%が「承継するつもりはない」と答えています。「承継するかどうか、まだ判断できない」と答えた未決定の層を考慮すると、どちらも70%前後が承継に対して消極的な姿勢をとっています。
少子化により事業を承継する親族の数自体が減少しているの加えて、承継する意向も低い状態にあるために、事業の承継先を第三者に頼らざるを得ない状態であることが分かるかと思います。
参照元:日本政策金融公庫総合研究所 「子どもの事業承継意欲に関する調査」結果
M&Aという選択肢の一般化
第三者承継のなかでも、特に『M&A』という言葉は昨今認知度が高くなってきており、また多く実績が作られたことによって、選択肢として一般化したことが挙げられます。
実績とともに認知され始めたのは、事業引継ぎ支援センターのような公的な機関の設立や、支援専門家、web上のプラットフォームの利用など、利用可能機会が増加してきていることが背景にあります。
弊社への問合せでも「子どもへ承継しようと思っていたがうまくいかなかった」という相談は実際に増加しています。そのような相談がしやすい環境が整ってきており、承継の選択肢のひとつとして一般化したことが、第三者への承継としてM&Aを加速させている要因となっています。
また、事業承継が必要な高齢の経営者のみならず、M&Aという言葉が認知されることにより、若年層の経営者のキャリアチェンジのひとつとしてもM&Aが利用されています。つまり、他にやりたいことができた、他の経営者に任せたい、というような動機です。このあたりも含めて、実際の事業売却理由について詳しく見ていきたいと思います。
オーナー経営者が会社売却・事業売却をする理由
第三者へ会社売却・事業売却するM&Aの主要因として、上記のような少子高齢化に伴う活用が語られることが多いですが、当然会社売却・事業売却を決める理由はひとつではありません。ここでは実際に弊社への問合せで多く見られる理由を実例とともに紹介したいと思います。
売却理由1. 年齢や体調不良により継続できない
高齢で周囲に引き継ぎ先がない
「75歳を越えたが、引き継げる親族がおらず、周囲に相談したが見つからなかった(ソフトウェア開発業)」
「もともと従業員に引き継ごうと進めていたが、数年の引継ぎ中に後継者に断られてしまった(マーケティング業)」
年齢的に引き継がざるを得ない状態になったうえで、身内に引き継げる人がいなかったり、引継ぎに失敗してしまったり・・・慌てて金融機関や第三者にも相談したものの結局見つからないケースです。引継ぎのことを先延ばしにしていて、ギリギリになってから始めるも時間的な余裕がなく、第三者に頼らざるを得ない状況になっていることも多く見られます。
時代も以前と変わっていますから、「親がやっているから」だけで子どもが承継する理由にはなりえません。実際に、前述の「子どもの事業承継意欲に関する調査」の承継しない理由でも、「事業経営に興味がない」という無関心が一番多く、「必要な技術・ノウハウを身につけていないから」「自分は経営者に向いていないと思うから」という能力不足、が次いで多い回答となっています。親がやっているから、子どもも興味がある、経営者としての才覚がある、とは当然ながら言えないわけです。
また嫌がっている親族に無理やり引き継ぎをおこなっても、ゆくゆく立ち行かなくなるのは目に見えています。
そういう意味でも、親族や従業員という数人の身内から後継者を探したり育成したりするよりも、事業に興味を持っていて、経営実績のある第三者を全国から探すことのほうが事業にとって有効に働くことは多いように思います。
急な病気や環境変化
「ガンが発覚した。どうなるか分からないが引継ぎを考えたい(製造業)」
「事故にあってしまって前のようにバリバリ動けなくなった(飲食業)」
あまり現実的には考えたくないケースですし、出来れば避けたいケースではあるものの、実際には一定数存在します。
親族や従業員に頼れる人がいるならば問題ありませんが、現実はなかなか難しい。特に急な病気な場合には引き継ぐ準備をしているわけではありませんし、オーナーが若い場合は尚更です。オーナー経営者が若いほど引き継ぐ親族は少なく、従業員に引き継ごうと思っても、引継ぎのための資金(株式取得資金)がないために引き継げないことが多いです。
事業承継は準備をしていてもうまくいかないのに、ましてや「急な」対応を迫られると非常に都合が悪い。にもかかわらず、早く対応しないと従業員も顧客も離れていきます。
当然のことながら、「教育する」ような期間はありませんから、事業の継続と成長を考えるならば、一刻も早く引継ぎ、従業員、顧客の安心感を得ることが重要です。
そう考えるとおのずと、実績のある第三者へ引き継ぐ選択肢が浮上するのは普通の流れといえます。
売却理由2. 会社の成長のため
資金が足りない
「商品は出来上がったが、マーケティングに使うお金がなくなった(人材サービス業)」
「販路が確保できたが、自社サービスにもう一段投資が必要だが資金がない(webサービス業)」
こちらは会社を立ち上げてまだ年数が浅い会社によくある事象です。
事業が軌道に乗るには時間がかかりますが、創業から数年我慢し続けてようやく兆しが見えたと思ったら資金が尽きる、というのは皮肉ながらよくあるケースです。身を削って数年耐えてきてようやく事業としての見通しが立ちそうなときに手元の資金がなくなる、というのは諦めるに諦めきれません。
外部からの資金調達には時間と労力を要しますが、そこだけに集中するわけにもいきません。
このような場合には、株式を一部もしくは全部、バリュエーション(企業価値評価)をつけた形で譲渡することにより、運用資金もしくは投資資金を得ることができます。どうしても借入を避けたり、自分の資金内で他人に迷惑をかけずにやりたいと思いがちです。
ちなみにお金を出してくれる人には、『貸付者』と『出資者』がおり、これらはそれぞれ全くの別物です。
『貸付者』は当然、「貸す」人なので、その人に対しての返済義務が生じますが、一方で『出資者』は事業に魅力を感じ、その後の収益が見込めるのであれば、返済を前提としない人たちなので、負債を背負うわけではありません。M&Aは「お金を貸してくれる人」を集めるのではなく、「出資してくれる人・協働してくれる人」を募ることに近く、単なるお金集めとは意味合いが全く異なります。
また買収会社の傘下となることで、人材や販路を活かして事業を成長させる可能性が拡がることも多くあります。
人が採用できない・定着しない
「採用活動に時間がかかりすぎる・・・(教育業)」
「採用してもすぐ辞めてしまうのでその後のフォローが大変(美容業)」
「料理人がいれば提供できるのに」「営業する人がいればいくらでも受注がとれるのに」「エンジニアがいれば開発できるのに」など、採用難の昨今では、人材不足で嘆くというのは職種や業界を問わず共通の課題感としてあるのではないでしょうか。
人材の採用力というのは、会社の認知度や実績に左右される側面があります。やはり知名度や、会社としての規模感を気にする方も多くいますから、一般的には大手と中小企業の採用力には大きな差があると言わざるを得ません。また、大手の企業の場合には、人材の定着に影響する福利厚生等が整っているケースも多いため定着率も高い傾向にあります。
売却、M&Aにより大手企業の傘下に入ることで、人材の採用や定着の安定化を図る場合も多くあります。
また会社を売却しても、当然ご自身が経営者として残ることも出来る(買手希望との調整が必要ですが、残ることを前向きに捉えられるケースが多いです)ため、人材に悩む必要から解放され、本来やるべき経営に集中することが出来るようになります。
シナジーへの期待
「商品はあるのに買ってくれる人がいない・・・販路を拡大したい(メーカー)」
「顧客はいるので、新たに別の商品を展開したい(メーカー)」
売る商品があること、買ってくれる販路があること、これが商売の基本ではありますが、意外と上記の声のように、「商品はあるが買ってくれる人がいない」「買ってくれる人はいるが、商品がない(もしくは足りない)」という齟齬は多く発生しています。
商品に自信がある会社は販路を拡く持っている会社と、販路を持っている会社は商品力を持っている会社と、組むことによって、おのずと事業の成長が見込めることでしょう。
自社で商品を作ったり、販路を開拓することももちろん可能ですが、場合によっては、M&Aにより株式を売却することで、企業連携を図り相手の力を借りることで、自社でイチから積み上げていくよりも、スピーディに展開することが可能になります。
売却理由3. 心理的な負担・不安
「自分のやりたいことをやりたい」というのは、起業するオーナー経営者ならば誰しも思うことではないでしょうか。
ところが、自分のやりたいことを続けるには、「事業を継続する」必要があり、事業を継続するには、「(やりたくなくても)お金になることをやる」必要があったりします。それが立ち上げ当初の限られた期間であれば心理的にも耐えられるように思いますが、「(やりたくなくても)お金になることをやる」ことが続くと疲弊しますよね。
実は、この「心理的な負担から逃れたい」という理由は、弊社への会社売却・事業売却などのM&A相談でもかなり多い動機になります。
本来やりたいことができない
「理想的な教育コンテンツを作りたいのに、毎日ビラ配り・・・(教育業)」
「美味しい料理を作りたいが、自分も接客に入らなくてはいけない・・・(飲食事業)」
自分の好きなこと・やりたいことを追及したくても、足元の儲けがないと存在することすら許されませんから、お金のやり繰りに奔走せざるを得ないのは仕方ありません。しかし、ふと振り返ったときに「何のために始めたのだろう?」と思うオーナー経営者は意外と多いのではないでしょうか。
そんな自分の初心に気付いたときに、改めて「自分がやりたいこと」に向き合い直すこともあります。自分の一生は何とも替えが利くものではありませんから、自分の思いに寄り添うことが重要かと思います。
株式を売却し大手の傘下に入りながら経営を続けることで、自分でなくとも出来ることを他人に任せながら、自分がやりたいこと・必要なことを追及することが出来るようになります。
不安定な状況をいつまで続ければよいのか不安
「細々と続けてきたが不安定な生活がいつまで続くのか・・・(メーカー)」
「創業以来黒字だが、それをいつまで続ければよいのか。毎年伸ばし続けるのはメンタルが持たない(EC事業)」
サラリーマンは毎月固定で自身の収入が入ってくるのが当たり前かもしれませんが、経営者にとっては、収入は当然のことながら収支の結果に大きく影響されます。ひとつのクライアントの取引がなくなった、ひとりの従業員が辞めた、など数としては微々たるものでも、大きな影響があります。毎月、日々、その変化に気を配りながら全体として収支をプラスにしていくというのは、想像を絶する努力が必要です。それを何十年と続けることの重圧。毎年、毎月、毎日、収支だけでなく現実的なキャッシュフローを気にする必要がありますから、その負担は経営者をやってみないと分からないかもしれません。
そういう経営自体に疲弊することは、長くやっている経営者にもありますし、逆に始めて数年で疲れてしまった、ということはよく耳にします。
黒字だから良いというわけでもなく、それを継続的に成長させ続ける、というプレッシャー。なかにはそのプレッシャーで体調を崩す人もいます。そうなると元も子もありません。経営とは厳しいものではありますが、自身の生命や人生を秤にかけたときに、どちらが大切なのかは明白に思います。
売却理由4. 飽きた(他のことをやりたい、アーリーリタイヤしたい)
実はこの「飽きた」という項目は、売却理由として一番よく耳にする理由です。苦労して立ち上げた会社なのだから、当然、売却理由としてもそれ相応の理由があるのではないかと思いがちですが、実際はそういうわけでもありません。サラリーマンの人でも仮にずっと同じ部署で同じ仕事をしていたら飽きるように、経営者でも当然飽きるのです。
ずっと同じことを続ける苦痛
「創業から無我夢中で続けて気付けば20年。これを一生続けるのか・・・?(美容業)」
「ずっと同じことを続けていて、このまま死ぬのだろうか。別の人生はないのだろうか(飲食業)」
サラリーマンの場合は部署異動があったり、徐々に昇進していくステップがあったり、続けていると必ず何らかの変化がありますが、オーナー経営者は、何年経ってもずっとオーナー経営者です。
業種展開や異業種への進出など、もちろん変化を起こすことも出来ますが、なかなか現実的には難しく、同じ業界の中で拡大を考えるほうが多いように思います。
そうなるといずれ、ずっと同じことを続けていることに疑問が湧くケースもあるのです。
少し休みたい、他のことをやってみたい、経営者のみならず人間誰しも「今と違うこと」への興味はあると思いますが、経営者には責任が伴いますから、会社を畳んでそちらへ、というわけにはいきません。従業員の雇用、サービスを利用してくれている顧客、協力してくれるクライアントなど、これまでの関係性がありますから、簡単に捨てることは出来ません。
会社売却や事業売却のM&Aをすることで、従業員や顧客、クライアントとの今までの関係性を保ちながら、自身は違う興味へシフトすることが可能になります。
ずっと同じ場所にいる苦痛
「昔の同僚がインドネシアへ転勤になった。正直うらやましい(不動産業)」
「いつか海外で仕事をしてみたいと思っていたのに、今のままでは無理(卸業)」
同じことを続ける苦痛と同様、経営者は業種によっては働く場所も制限されます。通常の会社の人事異動のように「来月から●●へ」などという展開もありません。突然の人事異動にももちろん悩ましさはあるかと思いますが、同じ場所に居続ける経営者にも悩ましさはあります。特に「海外で働きたかった」「●●に住んでみたい」などの具体的な希望がある人にとっては尚更です。
移住や海外生活などの夢を捨てきれずに、事業を売り渡し、未来を再設計したいという要望も多く見られます。
M&A・会社売却・事業売却についてご相談ください
会社の事情とともに、経営者の個人の事情もそれぞれですから、会社を売却する・事業を売却する理由はそれぞれです。
「会社のため」「自分のため」どちらも選び難い選択です。また経営者は、どちらも背負う存在であるがゆえに、なかなか会社を誰かに譲る決断はしづらく、悩ましいこともあるかと思います。
しかし、悩みを抱えながら続ける選択肢と、可能性のある誰かに任せる選択肢、を考えてみた場合、どちらが「会社にとって」「自分にとって」良い選択肢となるでしょうか。
お一人で答えを出すことも難しいこともありますから、ぜひ弊社にお困りごとやご要望をお聞かせください。貴社の状況や意向に合わせて最適な解決法をご提案させていただきます。相談料は無料なので、ぜひお気軽にお問い合わせください。