【倒産・破産】倒産と破産の違い / 破産による個人への影響(弁護士法人ベンチャーサポート法律事務所・弁護士/水流恭平)

■「中小企業総合サポートコンソーシアム」連載記事第1弾■
新型コロナの影響で深刻な経営問題を抱える経営者に向けて、さまざまな領域の専門家を結集しワンストップで課題を解決するべく発足した「中小企業総合サポートコンソーシアム」より、今回は水流 恭平 弁護士より寄稿いただきました。

この記事の執筆者
▶弁護士法人ベンチャーサポート法律事務所 / 水流 恭平 弁護士

1.「倒産」とは?「破産」とは?~それぞれの定義と違い~

⑴「倒産」とは?

「倒産」とは、法律用語ではなく、会社が資金繰りに行き詰まり、現状のままでは経済活動を続けることが困難になった状態をいいます。
「倒産」は、大きく「法的倒産」「私的倒産」の2種類に分けられます。
「法的倒産」は、裁判所を利用して法的に会社を再生する手続(会社更生法、民事再生法)や清算する手続(破産、特別清算)があります。
「私的倒産」(「私的整理」ともいいます)は、裁判所を介することなく、自発的に債権者と交渉してリスケや債務免除等をしてもらうものになります。

⑵「破産」とは?

「破産」とは、法律用語で、会社や個人が支払不能に陥ったため、裁判所の手続を利用して、清算する手続です。会社の「破産」は、最終的に会社が消滅しますが、個人の「破産」は、最終的に裁判所から免責の許可をもらって負債をなくすことになります。

倒産は「経済活動を続けることが困難になった状態」であって、必ずしも会社の消滅を指すものではありません。一方で、破産は、会社を消滅させる手続きのことですから、破産に比べて、倒産のほうがより広義の概念となり、倒産のなかのひとつの種類に破産が定義されていると考えて良いでしょう。

2.倒産の流れ

上記のとおり倒産にも、いくつかの手段が存在しますが、一般的には以下のステップで倒産を検討することになります。

STEP①専門家への相談

最初に、会社の資金繰り・財務状況等を基に、事業の再生・清算に詳しい専門家(弁護士、公認会計士、税理士、FA、コンサルタント等)に相談いただきます。専門家による現状把握を踏まえて、次のステップで事業の再生や清算を検討します。

STEP②私的倒産の検討

まずは、会社を再建するために、「私的倒産」(「私的整理」)ができないか検討します。「法的倒産」の場合、事業のイメージや信用が大きく低下します。そのため、金融機関などの一部の債権者と交渉して返済の条件や債務のカットができないか、他に事業を応援するスポンサーがいないか等の私的整理をして、事業の再生ができないか検討します。

STEP③法的倒産の検討

次に、一部の債権者との交渉が頓挫する等の理由で「私的倒産」が難しければ、裁判所の手続を利用して、民事再生などの「法的倒産」ができないかを検討します。

STEP④会社清算の検討

最後に、「民事再生」などの手続を利用しても本業で黒字にすることが難しい等の事情がある場合には、会社を清算するための「破産」や「特別清算」を検討することになります。

個人の破産の場合には、一刻も早く督促をとめたいときは、弁護士に速やかに介入してもらうことが重要です。弁護士は依頼されてから債権者に「受任通知」を発送しますので、一般的には通知が届いた日から、社長個人への督促は止まることが多いです。

その後、弁護士が裁判所に破産の申立てをすると、正式に裁判所から破産開始決定が出されます。開始決定後、通常は3~6ヶ月以内に管財人による資産の換価及び債権者への配当が行われ、免責の許可が下ります。

3.個人への影響~個人の破産は必要か?~

⑴個人保証がついているケース

日本の中小企業では、会社が金融機関からの借入れをしている場合、社長が個人で連帯保証人になっているケースが多いです。

このようなケースでは、会社だけ破産させても個人が会社の借金を支払う必要が生じますので、一般的には、社長個人も自己破産の申立てをすることになります。

⑵経営者保証に関するガイドラインを適用するケース

しかしながら、近年では、連帯保証人の社長の経済的再生を図るために、自己破産でなく、「経営者保証に関するガイドライン」を利用した私的整理も増えています。私的整理が成功した場合、金融機関との交渉により、華美でない住宅を含む一定の財産を残したまま保証債務をカットすることができ、さらにブラックリストに登録されることもありません。信用面を担保できるということからも、今後の利用の増加が見込まれます。

4.個人破産をするとどうなる?

個人破産をしたとして、気になるのはその後の生活。破産による財産状況や、その後の信用などはどうなるのか?よくある質問とともに以下記載します。

⑴全財産は没収されるのか?

全財産は没収されないので、ご安心ください。

破産者の生活の再建のために、法律上、破産手続開始決定後に取得した財産、破産開始決定時までに有していた99万円以下の現金と、年金・児童手当そのほか生活に必要不可欠な家具類などの差押禁止財産は残せます。

また、法律上、破産者からの申立てがあれば、裁判所は破産者の個別具体的な生活状況を考慮して、現金以外の資産例えば、預貯金、パソコン、自動車、不動産、保険の解約返戻金等も破産者の手元に残す許可をすることもできます。なお、この場合、破産者が手元に残せる資産の合計は99万円以下となるのが一般的ですが、生活に必要不可欠な事情があれば例外的に99万円以上の財産を手元に残せることもあります。

⑵新しい借入やクレジットカードの作成は可能か?

個人の自己破産をすると、弁護士に依頼してから破産手続が終わるまでは、新しい借入れや、クレジットカードの利用は制限されます。

なお、破産手続が終わった後は、新しい借入れやクレジットカードを利用すること自体は禁止されませんが、ブラックリストに載りますので、一定期間はカードを作るのが難しくなります。

⑶ブラックリストについて

① 自己破産をすると、信用情報機関に自己破産をしたことが記載されます(「ブラックリストに載る」ともいいます)。
信用情報機関は、株式会社日本信用情報機構(JICC)株式会社シー・アイ・シー(CIC)全国銀行個人信用情報センター(KSC)の三つあります。それぞれの機関に問い合わせることで、ご自身の信用情報を確認することができます。

② ブラックリストに載ると一生信用がなくなる?
そんなことはありません。ブラックリストに登録される期間は一般的には5年~10年です。期間に幅があるのは、自己破産の履歴を保有が信用情報機関によって異なるためで、JICCとCICは5年間、KSCは10年間、自己破産の履歴を保有します。

③ ブラックリストに載ると、新しい借入れやカードは持てない?
ブラックリストに載っている間、金融機関の信用が低下するので、新しい借入れや住宅ローン、クレジットカードの作成は事実上難しくなります。

④ 自己破産をすると、社長や役員、株主になれないか?
そんなことはありません。破産手続開始決定後は、新しく会社を設立して社長になったり、他の会社の役員になることができます。また、個人事業主として仕事をすることや、他の会社でサラリーマンやアルバイトすることもできます。

破産手続中に、制限されていた職業(生命保険募集人、警備員、建設業を営む者等)は、免責許可が下りた後は、再び、同じ仕事をすることができます(「復権」といいます。)

5.まとめ

⑴ 自己破産は怖いものではありません

ご自身の生活に必要な財産以外の財産を債権者に配当し、借金をなくす手続です。

また、自己破産をしても、戸籍や運転免許証に破産の事実が記載されることはありませんし、家族の財産が没収されることもありません(ご家族が連帯保証人である場合等は除きます。)

⑵ 専門家への相談が必要

もっとも、自己破産は専門的な知識が必要ですので、必ず、弁護士等の専門家にご相談ください。

▶執筆:弁護士法人ベンチャーサポート法律事務所 / 水流恭平

【経歴】イギリス(ロンドン)出身、駒場東邦高校卒業、早稲田大学法学部卒業、中央大学法科大学院修了、司法試験予備試験合格
【領域】■法人■企業法務全般(労使間のトラブル、株主総会の運営、定款の作成等)、事業承継(株価対策、相続、種類株式の活用等)、M&A案件、法人破産、事業再生、契約書作成・レビュー(英文契約も対応)、不動産関連の紛争(建物明渡し、原状回復費用の請求、工作物責任等)、システム開発関連の紛争、個人情報保護法関連(プライバシーポリシーの作成等)■個人■破産・再生、任意整理、相続(遺産分割協議、遺言の作成等)、男女間のトラブル(離婚、不貞の慰謝料請求等)、立退料の増額交渉(居住用、事業用)、刑事事件

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