のれん償却の意味と計算方法は?日本会計基準とIFRSの違いも解説
「のれん償却」とは、のれんを減価償却することで、固定資産などの通常は費用として換算できないものを費用として計上することです。具体的にはどのように計算できるのか、また、日本の基準と海外基準の違い、仕訳の方法についても具体例を紹介しつつ解説します。
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「のれん」とは何か?
「のれん」とは目に見えない資産や価値を指す言葉で、事業や企業を売却する際、あるいは合併する際に用いられる概念です。例えば企業を買収するに当たって、買収先の企業をどの程度の価格で購入するべきか算出することが必要になります。
目に見える価値だけを考えるのならば、その企業が持つ不動産や設備などの「資産」から銀行に借りている資金や取引先への未払いの金額のなどの「負債」を差し引けば計算することができるでしょう。しかし実際には、資産から負債を差し引いた額よりも高額で企業を購入することが一般的です。実際に取引した金額から目に見える価値を引いた差額が「のれん」となります。
のれんは企業の目に見えない資産や価値、例えば企業が持つブランドイメージや社会的な信用、また社員などの人的資源、事業を推進する上で編み出してきたノウハウ、顧客などが含まれるでしょう。これらが高く評価されると、不動産等の資産よりも負債が多い企業であっても高額な価格で売買されることになります。
のれん償却とは何か?
ある企業が別の企業を実際の資産価値よりも高額な金額で買収した場合は、のれんが生じます。のれんは現金などの形があるものではないものの価値のあるものですから、減価償却をして一定期間内に消費することになります。
例えば1,000万円の資産を有し、600万円の負債を抱える企業を800万円で購入したとしましょう。このときのれんは800万円-(1,000万円-600万円)=400万円となりますので、買収した企業は400万円をのれん償却します。
のれん償却期間について
日本の会計基準では、のれんの償却期間は20年以下と定められています。例えばのれんが400万円であるならば、20年間20万円ずつのれんを減価償却していくことが可能です。
のれんの減価償却は、必ずしも20年間かけて行う必要はありません。短期間で償却できそうであれば、5年や10年程度に定めることもできます。ただし最初に償却期間を決めるため、途中では変更できません。無理のない償却計画を立てておきましょう。
IFRSでは、のれんを減価償却しない
日本会計基準ではなくIFRSを用いて会計をしている企業も少なくありません。IFRSのバランスシートでものれんを計上しますが、減価償却はしないので「資産」の項目に記載され続けることになります。ただしのれんの価値は変化するため、毎年減損テストを行い、のれんの価値を客観的に評価し、仮に期待通りの評価が得られないようであれば減損処理をする必要があります。
ただし、買収した資産を、のれん以外の無形固定資産として計上した場合には、別で減価償却をしていきます。例えば顧客情報が記載された帳簿は、買収した企業と切り離して第三者に貸与することが可能ですから、そのため無形固定資産として決算書に記載し、減価償却をしていきます
将来的に見直しされる可能性も
のれんを減価償却できないと、毎年減損テストを行う必要が生じるため、会計処理に時間と手間がかかります。IFRSではのれんを減価償却できるように変更する動きがあるので、将来的には日本の会計基準と同様、何年かに分けて会計上0になるように処理できるかもしれません。IFRSに準じて会計を行っている場合は注意が必要です。
「のれん」の仕訳を具体例で解説
のれんの仕訳について、具体的な例を挙げて解説します。例えばある会社が別の企業を2,000万円で買収したとしましょう。買収された企業には現金資産が1,500万円あり、貸付金が200万円、買掛金が300万円あったとします。この場合の仕訳は以下の通りです。
貸方科目 | 金額 | 借方科目 | 金額 |
現金 | 15,000,000円 | 買掛金 | 3,000,000円 |
貸付金 | 2,000,000円 | 当座預金 | 20,000,000円 |
のれん | 6,000,000円 |
15年でのれんを減価償却しようと計画を立てた場合の仕訳は以下の通りです。のれん償却額は損益計算書の「特別損失」に計上します。
貸方科目 | 金額 | 借方科目 | 金額 |
のれん償却 | 400,000円 | 買掛金 | 400,000円 |
資産価値よりも安く売却した場合の仕訳例
のれんは常に正の数とは限りません。資産価値よりも低い金額で取引が行われる場合も少なくありません。
この場合は実際に取引が行われた金額から資産価値を引き、「負ののれん」として扱います。例えばある会社が別の企業を1,000万円で買収したとしましょう。買収された企業には現金資産が1,500万円あり、貸付金が200万円、買掛金が300万円あったとします。この場合の仕訳は以下の通りです。
貸方科目 | 金額 | 借方科目 | 金額 |
現金 | 15,000,000円 | 買掛金 | 3,000,000円 |
貸付金 | 2,000,000円 | 当座預金 | 10,000,000円 |
負ののれん | 4,000,000円 |
負ののれんに関しては減価償却せずに、損益計算書では特別利益として計上します。
「のれん」で減価償却するメリット
日本の会計基準では、目に見えない資産や価値を数値化した「のれん」を単に利益として扱うのではなく減価償却します。早いと数年、遅くとも20年後にはのれんによって得られた価値は帳簿上はなくなる計算です。のれんを減価償却することには、次の2つのメリットがあると考えられるでしょう。
- ブランド価値減を会計表示できる
- 減損テストを回避できる
メリット1.ブランド価値減を会計表示できる
実際のところ、企業が持つブランド価値は永遠に続くわけではありません。買収をしたときには高価値だと判断できたとしても、時間が経過するに連れて減少することがあります。のれんを減価償却することで一定期間内にブランド価値も0にしてしまえば、将来的にブランド価値がなくなったときも、利益が差し引かれるということにはなりません。
メリット2.減損テストを回避できる
IFRSを用いて会計処理を行うならば、のれんを減価償却する必要はありません。しかしどの程度のれんの価値が変わったのか、毎年減損テストを実施しなくてはいけないため手間がかかってしまいます。のれんを減価償却するのは帳簿に1行加えるだけの手間で処理が終わるため、会計における手間や時間を省きたいときにも減価償却のほうが適しているといえるでしょう。
「のれん」で減価償却するデメリット
のれんを減価償却することにはメリットもありますが、デメリットもないわけではありません。
デメリット1.見かけの利益が低くなる
のれんを減価償却すると、毎年計上する利益の中から一部の金額が差し引かれることになります。実際に利益が減るわけではありませんが、経理上は利益が低く記載されるため、企業の資産価値を評価する際には本来よりも低く見積もられてしまうことになるでしょう。節税と言う面では効果を発揮しますが、仮に将来的にM&Aを検討しているなど企業価値を高める必要がある場合には、不利になることもあります。
M&A時の疑問点はぜひご相談ください
M&Aの際には、のれんの扱いや償却が必要になります。お困りごとや疑問点があるときは、お気軽にご相談ください。M&Aの専門家が対応いたします。