表明保証の基本条項は売却前に必ず押さえよう。必要に応じて保険も検討を

M&Aの最終契約書には、売り手側が開示した情報に間違いがないことを示す「表明保証」が含まれることが一般的です。具体的には何を保証しているのか、また万が一情報に間違いがあったときのために加入する「表明保証保険」について詳しく見ていきましょう。

表明保証とは開示情報の内容を保証すること

開示した情報に間違いがないことを保証することを「表明保証」と呼びます。事業や会社を売却する際、買収側は売却側のさまざまな情報を集めますが、そのすべての真偽を判断するのは容易ではありません。

そこで「契約書に開示した情報はすべて正しいことを保証する」という内容の文面を加え、安心して取引ができるように保証するのです。

 

表明保証は主に買い手保護の目的で実施される

もし買収後に情報が間違っていたことが判明したときは、表明保証の内容に従った措置を行います。措置の内容はさまざまですが、買収側にとっては何らかの補償がされるわけですから、安心材料になるでしょう。

このように、表明保証は主に買い手保護の目的で実施される取り組みです。また、売り手にとっても重要な意味を持ちます。

例えば表明保証がないならば、買い手は時間をかけて売り手を調査するので、M&A成立までに膨大な手間と時間がかかるでしょう。しかし、表明保証を契約書に書き加えることで、比較的短時間で取引が成立します。売り急いでいるときでも早く売却することができます。

 

開示情報に虚偽がある場合は賠償責任に発展

表明保証をしたにも関わらず、売買取引が成立した後で開示情報に虚偽があることが見つかることもあるでしょう。例えば買い手側に知らせていない負債があったり、ある会社と裁判中であったりなど、取引成立前には判明しなかった事実が分かることもあります。

このように開示情報に虚偽があった場合には、売り手の賠償責任に発展することもあるでしょう。

 

表明保証条項に盛り込まれる基本的な内容

表明保証に含まれる内容は多岐にわたります。主な内容は次の6つです。

  • 開示情報に虚偽がないこと
  • 税金や保険の滞納がないこと
  • 係争中のトラブルがないこと
  • 財務諸表に虚偽がないこと
  • 表明保証違反があった場合の対応
  • 保証期間

表明保証は、買い手にとっては「どのような相違があったときに、どのような範囲で補償をしてもらえるのか」、また、売り手にとっては「どのような相違に関して、どこまで補償しなくてはいけないのか」を意味します。両者にとって利益は相反するため、表明保証の内容を決定するための調整が長引くこともあるでしょう。

開示情報に虚偽がないこと

M&Aにおいて、売却側の詳細情報はデューデリジェンスによって開示されることが一般的です。買収する側が調査した内容もありますが、売却側が提示した情報もあり、いずれも真実であることが前提となっています。

表明保証はデューデリジェンス等によって開示された情報に虚偽がないことを保証するもので、万が一虚偽があるときは定められた措置が実施されることを約束します。

税金や保険の滞納がないこと

表明保証では、売却側が税金や保険に滞納がないことも保証します。滞納があると買収側は負債を抱えることになるので、金銭的にも大きな損害を被ることになるでしょう。

また、国や自治体などが実施する補助金制度の適用を受けられなかったり、金融機関から融資を受けにくくなったりする恐れもあるため、表明保証で滞納がないということを保証することは大切なことです。

ただし、税金や保険の滞納があり、それらを正直に買収側に開示しているケースにおいては、開示した案件以外の滞納がないことを表明保証で保証することになります。

係争中のトラブルがないこと

係争中のトラブルがないことも、表明保証で保証する必要があります。例えば買収した後でトラブルがあることが判明したとしましょう。しかも相手から高額な賠償請求をされており、裁判においても負けがほぼ確定していたとします。

このようなケースでは買収側は多額の金銭的損失を被るだけでなく、社会的信用度も落としかねません。表明保証でトラブルがないことを示し、安心して買収できるようにします。

財務諸表に虚偽がないこと

買収側にとって売り手の財務状況はもっとも気になるポイントともいえます。毎年コンスタントに利益を得られる企業であれば、高額で買収したとしてもすぐに採算が合うでしょう。

しかし財務諸表に虚偽があり、実は資本金を収入に充当していたというようなことが後で判明するならば、買収側は取引を解消したいと考えるかもしれません。表明保証で財務諸表に虚偽がないことを示し、安心して取引を進められるようにします。

表明保証違反があった場合の対応

表明保証条項を作成する際にもっとも調整が長引くのが、「表明保証違反があった場合の対応」の部分であることが多いです。通常は取引の停止や賠償責任などについて記載されます。

買い手側はできるだけ多くのペナルティ、例えば売り手側による高額な賠償金の支払いを求めるでしょう。しかし、売り手側の立場に立つと、あまり高額な賠償金に応じることはできません。

知らずに虚偽の情報を提供している可能性もあるので、賠償金を支払う条件を狭める交渉となるケースが多いです。

保証期間

表明保証はいつまでも適用される保証ではありません。保証期間を決め、期間終了後は、万が一、開示した内容に虚偽が見つかったとしても、売り手側に賠償を求められないようにします。

保証期間も違反時の対応と同様、売り手側と買い手側の調整に時間がかかるポイントです。

 

万が一に備える表明保証保険のメリットとは

賠償金は通常高額に設定されているため、売り手側が支払えない可能性もあるでしょう。また、買い手側は賠償金を受け取れないリスクを抱えることになります。

表明保証保険とは、表明保証違反により賠償請求に発展した場合に備える保険です。表明保証保険に加入していることで売り手・買い手の双方が得られるメリットについて見ていきましょう。

売り手側が保険に加入するメリット

表明保証保険に加入することで、売り手側は賠償金を支払えないというリスクを回避できます。表明保証違反が起こったときには保険金が支払われるので、売り手側は資産を減らさずに売却先企業に対応できるでしょう。

ただし、補償を手厚くすると保険料が高くなるので、どの程度の補償が必要か吟味してから加入することが大切です。

買い手側が保険に加入するメリット

売り手側に賠償金の支払い能力があるかどうかに関わらず、表明保証保険に加入しているならば、買い手側は表明保証違反によって被った損失を補填することができます。

最初に設定した保険金の額によっては、実際に被った損失以上の補償を受けることもできるでしょう。ただし、補償を手厚くすると保険料が高くなるので注意が必要です。

 

売却する際の予想される表明保証条項を知りたい方はご相談ください

近年、最終契約書に表明保証条項を付け加えることが多いため、企業売却をする場合には条項の内容についても詳しく理解しておく必要があります。

どのような条項になりそうか売却前にお知りになりたい方は、ぜひ弊社にご相談ください。予想される表明保証条項について提示し、適正な条件で売却を進めるお手伝いをいたします。

 

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