「後継者がいないから廃業」はもったいない!事業承継的M&A / 事業承継とファクトフルネス
先のコラムでも書かせていただきましたが、経営状態が悪いわけではないのに「後継者がいないから廃業」というのは非常にもったいない。
今回は、ファクトフルネスという視点で事業承継・後継者問題を考えてみたいと思います。
「もったいない廃業」を生んでいる原因とは
現代の日本において、「後継者がいない=廃業」という考え方はまだまだ当たり前に存在しています。
実際に中小企業の経営者の約半数は自身の代での廃業を考えていて、そのうち30%程度が「後継者不在」を廃業の理由として挙げています。(※出典:日本政策金融公庫総合研究所「中小企業の事業承継に関するアンケー ト」2015年)
特に最近地方都市でもこういった話をよく耳にし、全国的に見ても、この傾向を強く感じています。
後継者がいない場合には、第三者への承継、つまりM&Aを検討するわけですが、M&Aという選択肢は依然としてイメージが悪いのが現状です。
「周囲に悪い噂をされるんじゃないか」という不安。
「乗っ取られる」「悪いようにされてしまうのではないか」といった不信感。
そういった漠然としたマイナスの心情が邪魔をして、M&Aという選択肢が実行されぬまま廃業になるケース。残念ながら日本ではこのパターンの廃業が非常に多いのです。
繰り返しになりますが、これは非常にもったいない。しかし、どうしたらこのM&Aに対する負のイメージというのが払しょくされ、「もったいない廃業」を減らせるのか。
ファクトフルネスという考え
そんなことを考えているときに、たまたま『FACTFULNESS(ファクトフルネス)10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣』という本を読んだのですが、まずは簡単に本の紹介をしますね。
FACTFULNESS(ファクトフルネス)10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣
発行日:2019年1月15日 著者:ハンス・ロスリング、オーラ・ロスリング、アンナ・ロスリング・ロンランド 訳者:上杉秀作、関 美和
ファクトフルネス(FACTFULNESS)とは「データを基に世界を正しく見る習慣」を意味しており、本の内容はその名の通り、さまざまな「ファクト」から世の中はいかに誤解や思い込み、先入観に溢れているのかを説く内容になっています。
読者としては、読み進めるにつれていろいろな自身の誤解に気付くわけですが、その間違っていたという事実ではなく、その背景にある「思い込み」をフィーチャーしているのが大変興味深く、世界で100万部超えのベストセラーというのも納得の良書です。
構成も非常に分かりやすく、「10の思い込み」に分類されています。
- 分断本能/「世界は分断されている」という思い込み
- ネガティブ本能/「世界はどんどん悪くなっている」という思い込み
- 直線本能/「世界の人口はひたすら増え続ける」という思い込み
- 恐怖本能/「危険でないことを恐ろしいと考えてしまう」思い込み
- 過大視本能/「目の前の数字が一番重要だ」という思い込み
- パターン化本能/「ひとつの例がすべてに当てはまる」という思い込み
- 宿命本能/「すべてはあらかじめ決まっている」という思い込み
- 単純化本能/「世界はひとつの切り口で理解できる」という思い込み
- 犯人捜し本能/「誰かを責めれば物事は解決する」という思い込み
焦り本能/「いますぐ手を打たないと大変なことになる」という思い込み
それぞれ思い込みがちな傾向とともに、なぜそれが生み出されるのかという背景、そうした傾向を打破するための対策までまとめられています。
「ファクトフルネス」だけに説得力も当然高く、感心させられたわけですが、個人的には前半部に出てくる思い込みの背景、
1. 知識がアップデートされていないがゆえに、昔の思い込みを今に引きずってしまっている
2. 人はネガティブな情報に耳を傾ける本能をもっている(もともと危険を察知し、逃れるという本能から)
という部分に強く共感を覚えました。
そもそも自身の知識が間違っていて、そのうえ日々流れるニュースでも悪いことばかりが印象に残るわけだから、イメージが改善されるわけがない。
この本のなかでも書かれているとおり、その誤解は多岐にわたり、教育環境や医療環境での格差、自然災害での死亡者数など、さまざまなものが間違って認識され、かつ悪いように捉えられている。世界中でそういったことが起きている。
事業承継という限られたテーマでも同じことが起きているのではないでしょうか。
M&Aという方法も、親族に承継することが当たり前な時代では相容れない選択肢でしたし、そもそも認識すらされていなかった。
また2000年代初頭のM&Aは、「敵対的買収」「ハゲタカ」といった物騒なニュースも多く、良いイメージを持っていない人も多いのでしょう。
それゆえ、M&Aに対しての知識もアップデートされておらず、当時からの経営者の頭には悪いイメージだけが残ったまま。
今や大企業のものだけではないM&A
中小企業庁が公表している2018年版・中小企業白書のM&Aの現状(下図2-6-6)を見てもわかるように、日本国内でのM&A件数は増加しており、活発化しているのが見て取れます。
また企業規模別の件数推移(下図2-6-10)を見ると、大企業でのM&A件数はほぼ横ばいなのに対し、中小企業では増加していることが分かります。
これだけ見ても、以前とはずいぶん状況が変わってきているのを実感されるかと思います。
また実際に「敵対的買収」は存在しますが、それはM&Aという大きな括りのなかの一部であるということ。さらには、オーナーが特定され譲渡制限があるような中小企業においては、敵対的買収は原則として起こりえないと言えます。
中小企業では、株式が分割している場合はむしろ、親族間の争いのほうが注意しなければならない問題となるかもしれません(その問題はこちらの記事にて)。
事業承継をファクトフルネス的に考える
ファクトフルネスで学んだ以下の観点で事業承継を改めて考えてみると、
1.知識がアップデートされていないがゆえに、昔の思い込みを今に引きずってしまっている
→M&Aは中小企業においてもひとつの有効な手段として積極的に活用され始めている
2.人は、ネガティブな情報に耳を傾ける本能をもっている(もともと危険を察知し、逃れるという本能から)
→ニュースではセンセーショナルな側面が報道されがちだが、M&Aは特に怖いものではなく、友好的なものがほとんど。また中小企業においては原則として敵対的なものは発生しない
ということになるでしょうか。
・・・と、そう言われたところで、そんな簡単には長年積もった懐疑心は消えないでしょうが、事業承継・後継者問題を考える際はぜひ「ファクトフルネス」という考え方を取り入れてもらえればと思っています。
そして、くれぐれも「後継者がいないから廃業」という安易な判断は避けていただきたいのです。
事業承継・M&Aに対する不安や疑問、ご不明な点などありましたら、直接お話させていただきますので、どうぞお気軽にご連絡をいただければと思います。
執筆:株式会社事業承継通信社 柳 隆之