【地方創生】ローカル路線、想いを繋いで ~いすみ鉄道続く挑戦~
事業承継とは、単独の会社のみならず地域の問題とも密接に結びついています。
特に地域に根差した産業においては、個社で出来ることは限られ、地域全体の支援が必要となります。
今回、とあるローカル鉄道の事例を調べているうちに、地域に根差した産業でありながら、あえて地域外に発展の道を探り、地域外の支援を得る可能性を大いに感じる機会がありました。
というわけで、今回はあるローカル鉄道のストーリーとともに地方創生の可能性を紹介させていただきます。
ローカル鉄道が抱える現状
■ローカル鉄道(地域鉄道)とは?
地域鉄道とは、一般に、新幹線、在来幹線、都市鉄道に該当する路線以外の鉄道路線のことをいい、その運営主体は中小民鉄並びにJR、一部の大手民鉄、中小民鉄及び旧国鉄の特定地方交通線や整備新幹線の並行在来線などを引き継いだ第三セクターです。これらのうち、中小民鉄及び第三セクターを合わせて地域鉄道事業者と呼んでおり、令和2年3月1日現在で95社となっています。(国土交通省ホームページより引用)
国土交通省の定義によると上記のように説明されていますが、
分類すると事業者として大きくは
①中小民間鉄道(私鉄)
②第三セクター
の2つに分類されます。
②第三セクターについては、「特定地方交通線」由来のものか、「並行在来線」由来のものかによってさらに分類できます。
①の中小民間鉄道(私鉄)は、電鉄事業を単独でおこなうケースは少なく、ほとんどの場合、バスやタクシーなどの他の交通部門を持っていたり、百貨店やスーパーの運営、不動産や観光事業を展開したりしています。例えば、関東エリアですと、小田急グループの箱根登山鉄道などは分かりやすい例でしょうか。
民間鉄道の場合は、鉄道会社を前に出しながらも関連ビジネスを展開することで、全体として収益を見込む構造になっていますが、後者の第三セクター型の場合は主軸を鉄道事業とする収支が求められますから、乗降客数そのものがインパクトしてくるのが異なる点です。
■ローカル鉄道(地域鉄道)の現状について
いずれにしても、人口減少、少子高齢化やモータリゼーションの流れのなかで、ローカル鉄道を取り巻く現実は、極めて厳しい状況が続いており、結果として平成30年度には全96社中69社、実に7割近くのの事業者が鉄道道業の経常収支ベースで赤字を計上(国土交通省発表に基づく)するに至っています。
ローカル鉄道は、もはや通学や通勤など「地元住民の日常の移動手段」という役割だけでは、その路線の存続は困難な状態であり、まちづくりや地域経済の活性化という意味での新たな価値が期待されるようになっています。
また、地域活性という意味では、自治体や地元民の支援が必要であり、広く第三者を巻き込むことが求められます。逆に言えば、そうした協力を得ることができなければ、ローカル路線の価値に広がりが作りきれず、衰退の一途を辿ることになるといえるかもしれません。
しかしながら、移動手段として以外の“新たな価値付けをすること”、そしてそれを“地域を上げて推進する”というのはとても労力を要することでもありますし、何よりも根底にある想いの継続が必要になります。そして、それは想像以上に簡単なことではありません。
誰か一部の人によって成し遂げられるものではないし、時間軸でも一朝一夕で構築されるものではなく、途切れたらそこで朽ちてしまう。
想いを繋ぎ、形にし続けるという主体も世代も超えた取り組みが必要となるわけです。
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上記のような酷な状況のなか、奮闘を続ける会社もあります。
以下には、(今回の主眼ですが)幾度となく廃線の危機を迎えながら、アイデアと地元住民、団体の協力を得ながら、地元の人はもちろん、多くの観光客や行楽客を乗せて走り続けるローカル鉄道を紹介させていただきます。
房総半島を走る「いすみ鉄道」
■いすみ鉄道とは?
千葉県房総半島のいすみ市・大多喜町を走るローカル路線である「いすみ線」。
千葉県夷隅郡大多喜町に本社を置く、いすみ鉄道(株)が国鉄特定地方交通線の一つだった木原線を引き継ぐ形で、運営されています(1988年に木原線が廃止され、いすみ線が開業)。
以降、地元の市町村、住民、企業などの協力とともに、地域発展の要としての役割を担ってきました。なかでも、沿線に広がる菜の花畑は有名で、JR外房線大原駅と上総中野駅間の26.8kmを結ぶ沿線では、一面に広がる菜の花の絶景を楽しむことができます(2月下旬から4月上旬が見頃)。
いすみ鉄道も他のローカル鉄道の状況と違わず、地域の人口減少による過疎化の影響で、長年にわたって赤字経営が続いており、何度も「鉄道廃止」を検討されてきました。
しかし、地域への貢献とともにこの土地を訪れる人により楽しんでもらおうと、チャレンジを続けてきたのです。
■いすみ鉄道のこれまでの取り組みとこれから
車窓からの風景としては、菜の花が有名ですが、菜の花以外にも桜や梅、紫陽花、紅葉など四季折々の花や木々が咲き、あぜ道、田んぼ、小さな山々など日本の原風景を想起させる牧歌的な景色が広がっています。
そうした田園風景が、ムーミン谷を思い浮かばせ、ゆっくりと走っていくことから、ムーミン鉄道として、実際にイラストがあしらわれた電車を走らせる取り組みがおこなわれたり、風景を食事とともに楽しんでもらおうと、キハ28形の車内のテーブル席で食事が出来る「レストラン・キハ」なども実施。
そのほか多くのご当地銘菓やイベント開催により、地元民のみならず広い地域からさまざまな人が訪れる鉄道となりましたが、それでも経営は赤字続き。
現在新たに、これまでの想いを受け継ぎながら形を変えた新たなチャレンジが始まっています。
進んで来た道のりを思い、さらに多くの人に楽しんでもらえる路線となるために、歩みを止めるわけにはいかない。
そんな有志たちが「アート×いすみ鉄道」をコンセプトに2つのプロジェクトを立ち上げ、進行しています。
↓以下、ReadyFor掲載のプロジェクト文面を引用し紹介させていただきます↓
①【壁画『子供達と描く、素敵な鉄道の物語』制作プロジェクト】
「いすみ鉄道」の駅に世界的な壁画アーティスト「ミヤザキケンスケ」を迎え、地域の子供・学生と共に壁画を制作します。子供達と触れ合いながら、いすみ鉄道の温かな世界が広がっていきます。(写真はミヤザキ氏の別プロジェクトより)
駅舎の壁画制作に地域の子供、学生が関わる事で、より地域と鉄道が協働する事にあります。世界各地で多くの子供と壁画制作をするミヤザキ氏指導のもと、明るく元気な「いすみ鉄道・沿線」を描く事で、利用者の皆様にも温かな気持ちになって頂ければ…と思っています。
②【絵本『いすみ鉄道 しゅっぱつしんこう!』制作プロジェクト】
「いすみ鉄道」の代名詞ともいえる沿線の菜の花畑。なんと、それは、自然にあるものではなく、沿線の住民の皆さん、子供たちによって毎年植えられています。そこにまつわる温かな住民の鉄道の交流を描きます。(写真は水翠先生の習作より)
『絵本プロジェクト』のテーマは「菜の花に関わる温かなエピソード」です。ただ菜の花が綺麗なのだけではなく、そこには多くの人の想いが込められています。それを絵本を通じて皆様にお届けし、より「いすみ鉄道」を沿線の皆様を知っていただければと思います。1000部(予定)を発行し、沿線住民の方、日本全国の方に「いすみ鉄道」を知って頂き、乗りに来ていただけたら…と思います。
ローカル路線の取り組みとして、地元、地域を巻き込み、地域活性化に繋げる興味深く、意義ある取り組みではありますが、先に記載したとおり、赤字経営となっています。そのため、クラウドファウンディングを用い資金の公募も実施しています。
ReadyForのクラウドファウンディングはこちら
地域を支える内の力と外の力
今回のいすみ鉄道の取り組み通して、改めて、
地域における人口動態のインパクトの大きさ、とともに、その地域の活性化のための地域の「内の力」の必然性と「外の力」の可能性を感じることとなりました。
地域の「内の力」と言葉にすると当然のことのようですが、何かを「残したい」と思っていても、思いが具体的な動きになり、前に進むケースというのは実は稀だったりします。「惜しまれつつ幕を閉じる」という言葉を幾度となく聞いたことがあるのではないでしょうか。
形にするには、覚悟を持ってリーダーシップを発揮する発起人が必要ですし、そうした一部の人間だけでなく周囲を巻き込み浸透したプロジェクトとならなければならない。また、いっときの盛り上がり、一過性の動きではなく、世代を超えて継続する必要もある。
何かを残す、続けるというのは本当に想いも手間も必要な労力のかかるものですが、そんな負担を少しでも軽減し、可能性を広げてくれるものが、「外の力」であり地域外からの支援金です。進み出す力自体は地域内の力に変わりありませんが、そんな進んでいる地元の人たちへ追い風となり、前に進むサポートをします。
いすみ鉄道が公募している直接的なクラウドファンディングや、ふるさと納税、などある地域のためへの支援の方法はさまざまで、実際に、ローカル鉄道が車両修繕なども含めてクラウドファンディングを公募している案件も多々あります(2020年3月31日現在readyfor内70案件以上)。
もはや可能性というより、手段として浸透しつつあるこの状況。地元だけでの問題ではなく、支援を得られる・誘致する可能性でもあり、機会でもある場が広がっています。
地元の問題は地元のみ、自分たちで、と閉じて考えがちですが、実は外に訴えると支援が集まるもの、知られてなかったけど地元民が思っている以上に外からみると価値があるもの、などまだまだ多く存在するように感じます。
故郷は違えど、故郷を思う気持ちは変わらない。自分の知らない離れた土地の話であっても、その土地の人たちが何かを残したいという気持ちは理解できるし、共感する人たちはきっといると思います。