【M&A】会社売却・事業売却をうまく進めるための重要なポイント7選|『売れる会社』にするためにやるべきこととは?

会社売却や事業売却を進めるにあたり、うまくいく会社とそうでない会社が出てきます。もちろん業績や条件などによって売れやすい会社、そうでない会社が出てくるのは当然ですが、同じような業績で同じような条件の会社でも、売れる会社と敬遠される会社がはっきりと分かれます。

売却がうまくいく会社とそうでない会社の違いはどこにあるのか。
より売れる会社にするにはどうしたらいいのか。

この記事では、その具体的なポイントを紹介します。売手企業にとって、少しでも売りやすい状況を作り、よりスムーズにM&Aを進められる一助となればと思います。

日本におけるM&Aの現状について知りたい方は、以下をご参考ください。

▶中小企業庁「中小企業・小規模事業者におけるM&Aの現状と課題」
https://www.chusho.meti.go.jp/koukai/kenkyukai/hikitugigl/2019/191107hikitugigl03_1.pdf

会社売却・事業売却のM&Aの流れ

M&Aの流れをしっかり理解していないと、会社売却・事業売却のポイントを把握するのはなかなか難しいことだと思いますので、まずは一般的なM&Aのプロセスについてみていきましょう。

*M&A仲介会社やアドバイザーへ依頼することを前提とした流れになります。

❶ 秘密保持契約書、企業価値診断、仲介契約書の締結

会社売却、事業売却では多くの機密事項を開示することになりますから、まずはじめに「秘密保持契約書(NDA)」を仲介会社や専門家と締結します。

秘密保持契約書を結んだうえで、いくつかインタビューを受けたり、ポイントとなる資料を提示し、「企業価値診断」(どのくらいの価格であれば売れそうか)や進め方について仲介会社や専門家から提示をもらいます。問題がなければ「仲介契約書」を締結し、実際の検討へと進んでいきます。

❷ ノンネームシート、企業概要書の作成

契約した仲介会社や専門家が、買手候補へ説明するための資料を作成します。

「ノンネームシート」はその名の通り、特定されないように具体的な企業名を明かさず、売却案件としての企業概要を記したものになります。買手候補になると思われる企業に打診する際に利用され、検討の可否を仰ぐために使用されます。

ノンネームシートで興味を示し、具体的な詳細情報を希望する買手候補企業に提示するのが「企業概要書」(IM/ Information Memorundom)です。

企業概要書は、具体的な会社名や事業、財務情報を開示したより詳細の資料になります。案件としての条件面やスキームのほかに、事業の内容(ビジネスモデルや取引先、顧客など)や財務情報も盛り込まれるので、売手企業はこの時点で詳細な資料を求められることになります。

❸ 買手候補の選定

以上の資料をもとに、仲介会社や専門家は、自らのネットワークおよび新規開拓により、買手候補になりそうな企業を探します。上記の通り、ノンネームシートで説明、興味を持てば相手先と秘密保持契約を結んだうえで、企業概要書を開示し、検討をしてもらいます。

検討の間、企業概要書をもとに買手候補からより詳細な質問が来ます。検討している買手候補社が複数にわたる場合、かなりの数の質問が来ることもあります。

❹ トップ面談

企業概要書の詳細情報や、いくつかの質問により、さらに具体的に検討を進めたい企業が現れた際には、トップ面談をおこないます。中小企業のM&Aの場合には、文字通り、経営者同士で話すことがほとんどになります。

具体的なオペレーションの話や、人材の状況など、資料で確認が難しいものを会話で確認したり、お互いの意向や相性を確かめる場となります。

❺ 意向表明

買収候補企業から、最終契約の調整に向けて、現段階での条件や譲渡スケジュールなどの意向をもらいます。検討候補企業が複数ある場合には、その条件の中から進めたい企業を選定します。

❻ 基本合意書の締結

意向表明を提出した企業のなかから最終的に選んだ候補企業と、最終契約に向けて条件を調整するために「基本合意書」を締結します。一定期間の独占交渉期間を設けることが多く、その期間で最終調整をおこなう旨が記されます。

❼ デューデリジェンス

基本合意のなかで設けた期間のなかで、買手候補企業が売手企業の調査を実施します。

財務面でこれまでみてきた資料に間違いが無いか、証拠となる資料(請求書や発注書など)と照合をおこなったり、取引先との契約書の内容や社内規定に法的な問題がないかをチェックしたり、かなり細かい調査を行い、最終的な価値判断とリスクチェックをおこないます。

❽ 最終契約書の締結・譲渡実行

デューデリジェンスで出た問題をふまえて、条件面を最終調整し、「最終契約書」を作成します。

最終契約と譲渡実行が同日の場合もありますが、譲渡実行までに調整する必要がある場合(契約書のまき直しなどで内諾を得る場合など)には、譲渡実行日がズレることもあります。

会社売却・事業売却をうまく進めるためのポイント7選

より売れる会社にするにはどうしたらいいのか、会社売却・事業売却でM&Aをうまく進めるための具体的なポイントを7つ紹介します。

◆売却準備段階でのポイントは2つ

実際に売却検討を進める準備段階としては、まず以下の2点がポイントとなります。

1. 売却にあたっての重視する条件を明確にする

自分の会社を売却する、もしくは事業譲渡をするにあたり、オーナーご自身の考えとして、重視したい条件をまず決めることが重要です。

たとえば、「なるべく高く買って欲しい」「従業員を引き継いでほしい」「事業そのものが継続できればよい」など、M&Aを実施し、会社や事業を譲渡した際に実現できるものの優先順位です。

もちろん全て実現できることが理想ですが、何が一番重要なのかを明確にすることで、相手先(買手候補)の像が見えてくるので、アプローチがしやすくなります。また、候補先に重視するポイントを事前に伝えることで、条件の合致具合や、会社としての状況の合う合わないなど、検討のスピードも早くなります。

さらには、重視する条件によって、最終的な譲渡のスキームが変わることもあります。たとえば、「高く売りたい」としても、オーナー自身の個人の手元に残すのか、会社へ資金を入れたいかによって、スキームが変わります。全社であれば株式譲渡になりますし、後者の場合には事業譲渡が一般的なやり方になります(もちろん他の手段もあります)。

ですので、売却を検討する際には、会社売却・事業譲渡などのM&Aを通して、何を成し遂げたいのか、ということをまずご自身の中で考えることが必要となります。

ただ、会社売却や事の売却といったM&Aを検討するのは、ほとんどの場合、初めてのことでしょうし、重視する条件によって適した相手先やスキームが何なのか、など分からないことだらけだと思いますので、この段階で専門家である第三者へ相談するのもよいでしょう。

 

2. 企業価値の適正価格(フェアバリュー)を設定する

会社売却や事業売却を検討するなかで、オーナー経営者が「より高く会社を売りたい」「会社、事業の価値を認めてもらいたい」と思うのは至極当然の考えです。

しかしながら、高めの値付けをおこなうにしても、現実的な範囲が存在します。業種や業態、その他の要素により「相場」がありますので、企業価値をご自身の気持ちだけで決めてしまうのは危険です。

当然、最初に提示する価格によって買手候補の数も変わりますし、マッチング率も変化しますから、やはり値付けは重要なポイントになります。あまりにも高額なものは敬遠されますし、低額であればマッチング率は高まりますが、本来受け取れるはずのお金も少なくなります。また、あまりにも高額で売却した場合には、売却後にトラブルになるケースもあります。

最終的には、M&Aを進めながら買手候補が判断することになりますが、最初の段階で専門家へ依頼し、企業価値の適正価格(フェアバリュー)を慎重に設定することをお勧めします。

一方、「高く売れる」ということをフック(営業トーク)に仲介契約を結ぼうとする専門家、仲介会社の動きも聞きます。なかには財務諸表を見ることなく、値段提示してくる会社もあるようですので、企業価値診断をされた際には、提示された額の根拠をしっかりと聞くことが重要です。また非常に大切なプロセスですので、ときには複数社に依頼をして、セカンドオピニオンを依頼するのも良いでしょう。

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◆買手企業とのマッチングに必要なポイントは2つ

次に、実際に売却検討を始め、候補企業とマッチングに至る過程で重要となるポイントを2つ紹介します。

このポイントを押さえるかどうかによって、売却がスムーズに進むかどうかが大きく変わってきます。この記事内で示すポイントのなかでも、最も重要なポイントとなりますのでご参考いただければと思います。

3. 買収候補企業が要望する資料・情報をスピーディに提供する

買手候補企業が興味を持ち、具体的な検討が始まった後に非常に重要になるのが、この「資料・情報を提供する」というやり取りです。

主には買手候補が企業概要書を確認し、具体的な検討段階に入ったときや、基本合意後のデューデリジェンスもしくはそれに近しい企業調査の段階でも必要になります。

企業を買うというのは、良いも悪いも全てを引き継ぐことになりますから、買手企業からすると、可能な限りの情報を知る必要が出てきます。

また、企業の情報といっても、財務情報(決算書や試算表、その証憑となるものなど)や法務に関する情報(契約書や紛争・トラブルの話など)、事業に関する情報(マニュアルや業務フロー等)など多岐にわたりますから、それらを提出する側の売主に非常に大きな負荷がかかることは確かです。

しかし、ここで資料や情報を提出できるのとできないのでは、結果が大きく変わってきます

面倒や手間を理由になかなか資料や情報が提出されないケースがありますが、当然のことながら、資料がなければ買手候補企業は検討することさえ出来ませんから、買うという意思決定につながることはまずありません。逆に、資料が提出されれば検討は進みますし、たとえ悪い情報だったとしてもそれが分かれば、修正したり対応したりなど次のアクションが生まれます。

また買手候補企業は、他にも同時に検討をしていることも多いため、資料・情報が出てこない「よく分からない案件」よりも、資料・情報が出てくる「よく分かる案件」のほうに流れてしまいがちです。

企業概要書を作成する際に、詳細な資料、情報を準備して概要を作り込むことも重要ではありますが(中には、仲介会社とは別に専門家に依頼してお金をかけて作り込む方もいます)、それだけでは十分とは言えません。あくまでも、個別に買手が知りたいと思う情報が重要になってきますから、要望されたものに応えるということが必要になります。

企業概要書でどんなに詳細情報を提示していたとしても、会社の譲受後は自社の責任で運営するわけですから、提示されたデータが「正しいかどうか」、根拠の部分を必ず確認することになります。

繰り返しになりますが、買手企業にとってM&Aはリスクのある行為ですから、詳細な調査、検証をせざるをえません。この買手企業に対しての資料提出は、絶対に避けられないプロセスになりますので、ある程度の資料の準備と心構えはしておきましょう。逆に提出がスムーズにいき、内容がクリアになれば、検討には非常にプラスになります。

4. キーマンとなる人材の引継ぎもしくは用意

中小企業のM&Aでよく問題になるのが、特定のキーマンが事業の中心を担っており、いなくなると事業に打撃が及ぶことが予想されるケースです。

たとえば、美容サロンなどで相当数のお客さんを特定のスタッフ(キーマン)が持っている、などの場合には、もしその人が辞めてしまった場合には大きなマイナスの影響が発生します。またはある人の人脈や関係性で安く仕入れられていた商品があり、そのキーマンがいなくなってしまうと条件が悪化するような場合も同じような影響があるでしょう。

さらに、中小企業の場合には、上記のキーマン=オーナー経営者のケースも非常に多くなるため、譲渡をする際には、この「キーマンの引継ぎをどうするか」が大きな課題になることがあります。

具体的には、キーマンが辞めないようにするために待遇面や環境をどうするかといった話や、オーナー経営者がキーマンである場合には、数年間の引継ぎ期間を設けて徐々に移行するよう計画を立てる、もしくは買手企業のほうから代わりとなる人材を送り込むなど、会社売却後、事業譲渡後にいかに今の状態を引き継げるか、を考えておかなければなりません。M&A後の成功イメージをいかに作るかが重要なポイントになるのです。

◆その他の重要な心構えは3つ

5. 秘密保持を徹底する

M&Aを進めるうえで当事者となる仲介会社や専門家、相手先の候補企業とは「秘密保持契約」を交わし、情報漏洩のないよう進めますが、もうひとつ気をつけたいのは、自社内の従業員や取引先など関係者に対して「会社売却・事業売却を検討している」という事実の情報流出です。

情報が漏洩する原因は、うかつに相談してしまった、仲介会社や専門家との(メールなどの)やり取りを見られてしまった、など色々考えられますが、こうした従業員や取引先など関係者への情報漏洩は、致命的な結果を招くこともあります。

M&Aを実行することによってマイナスになることがなかったとしても、「会社の状況が良くないのではないか」「社長が逃げる気なんじゃないか」など勝手な憶測から、従業員が辞めてしまう、取引先との取引条件が改悪する、など事業にとってマイナスに働く事態も起こりかねません。

情報管理は徹底し、相談事があれば、守秘義務を負った専門家に任せましょう

また情報が漏洩していなくとも、勘付かれるような行為も慎むべきです。M&Aのプロセスのなかで、買手側へ事前に従業員を会わせたり、話をさせるといったことは避けたほうがよいでしょう(もちろん、キーマンや事前に従業員に共有しているケースはこの限りではありません)。

たとえ、買手から要望があったとしてもリスクを考え、冷静に協議することが必要です。先に説明した「買手企業からの資料・情報要望に応える」に反するようにも見えますが、人の問題は資料・情報とは別です。もし人の情報を知りたいのであれば、履歴書をみるなり、経営者からの評価をもらうなり、代替できることはいくらでもあります。

6. ネガティブな情報は必ず共有する

従業員が辞める予定である、解決していないトラブルがある、簿外債務がある、などネガティブ情報は、なかなか話しづらいところはあるかもしれません。売却に影響するのではないかと考えると、話しづらくなる気持ちも理解できます。

しかし、どんなネガティブな情報でもいずれ伝えないといけないことになりますし、詳細情報を調べるうちに、分かってしまうものです。逆に、ネガティブな情報が表面化せずに譲渡してしまい、譲渡後に発覚し訴訟問題になる、というケースは一番最悪です。

早めに伝えていれば、その問題をどう回避するか対応策を練る時間が生まれます。しかし、進行してからでは十分な対策を練られなくなることもありますし、同時に「何で今まで隠していたのか」「他にも隠していることがあるのではないか」という疑念にも繋がります。

譲渡をスムーズに進めるためには、ネガティブな情報は事前に共有するようにしましょう。

7. 売却まで経営状態を維持する

会社売却、事業売却が完了するまでは、ある程度の時間がかかります。売却金額などの条件は、基本的には業績に紐づいていることがほとんどであることから、売却条件を維持するには、経営状態を維持する必要があります。

外的環境が影響する場合にはなかなか難しいこともあるかもしれませんが、検討期間での業績が最終的な条件やその交渉に影響しますので、最低限、検討を始めたときの経営状態が維持できるように頑張りましょう。

お気軽にご相談ください

いかがでしたでしょうか。

M&Aを進めるとやることも多く、日々ドタバタすることになりますから、ポイントが分からなくなった時には、ぜひ振り返ってみてください。

基本的には、買手が「納得して買える」状態になっているか、を考えてもらえれば、売手として何を提供すべきかもわかってくるように思います。買いやすさが売れやすさに繋がるということです。

また、実際には個社によって揃っているもの揃っていないもの、またその度合いもそれぞれですし、当然進めるスピードも異なりますから、今回紹介したどのポイントの影響度が高くなるかは個社ごとに変わります。

ですので、これから検討される方はぜひ一度ご相談ください。会社の状態やご希望を伺ったうえで、どんなことに気を付けたほうがよいか、どんなことに注力したほうがよいか、をより具体的にお伝えすることができます。

会社売却や事業売却のM&Aは、経験が積めない(だいたい初めての)ものですし、失敗が許されないがゆえに検討には不安なことも多々あるかと思います。私ども事業承継通信社では、相談料・着手金無料、完全成果報酬制で承りますので、ぜひお気軽にご相談いただければと思います。


執筆:株式会社事業承継通信社 柳 隆之

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