株式の保有割合と議決権 ~事業承継、M&Aの基礎知識/円滑な事業承継のために~

はじめに

親族内の事業承継、従業員への事業承継、M&Aなど第三者への事業承継、のいずれの事業承継のパターンにも株式の移動が伴います。

株は議決権に繋がるものでもあり、会社の決議に大きな影響を及ぼすものです。

株式の保有割合に応じて、持てる権利が変わってくるため、いずれの場合においても注意する必要があります。特に親族内で経営をおこなっている場合、株式が親族内であれ分散していたり、知り合いの人の名義が残っていたりと、事業承継をするにあたりトラブルに発展するケースがありますので、しっかりと理解し把握する必要があります。

今回は、株式の取得割合、つまり株をどれだけ持っているかによって、何が権利として変わってくるのか、をみていきたいと思います。

 

議決権とは

議決権というのは、出資している(株を持っている)株式会社で提案される議題・議案に対して、賛否の意志を表明し、株式会社の意思決定に関与する権利です。意思決定とは当然のことながら経営に関するものであるものですから、経営参加権とも呼ばれます。

 

株の取得と議決権の個数について

では、株をいくつ持っていると、議決権が発生するか、というところですが、株主は、原則的には1株につき1個の議決権を持つことになります。

(ただ、単元株式制度を採用している場合には、1単元につき1個の議決権を持つことになりますから、1単元未満の株しか保有していない場合には、その株主に議決権がない、ということになります。また、種類株式という株式の種類もあり、その中で議決権など権利が制限された議決権制限株式については、定められた事項以外については議決権は発生しません。)

 

 

議決権(持株)に応じての権利

保有している議決権に応じた権利は以下の通りとなります。

議決権割合(持株比率)行使可能な権利会社法条文
9/10以上特別支配株主の株式等売渡請求会社法179条
2/3以上株主総会の特別決議※1会社法309条
1/2超株主総会の普通決議※2会社法309条
1/3超特別決議の否決(拒否)会社法309条
1/10以下会社解散請求権(1/10超)
会計帳簿閲覧請求権(3%超)
株主提案権・議案通知請求権(1%超)
会社法833条
会社法306条
会社法433条

※1特別決議

決議事項の例としては、

・自己株式の取得[会社法160条1項により特定の者からの自己株式を取得する場合](会社法309条2項2号、160条1項)

・株式の併合(会社法309条2項4号、180条)

・監査役の解任(会社法309条2項7号)

・資本金の額の減少(会社法309条2項9号、447条)

・定款の変更(会社法309条2項11号、466条)

・事業の全部の譲渡などの承認決議(会社法309条2項11号、467条)

合併・会社分割・株式交換・株式移転の承認決議(会社法309条2項11号、783条、795条、804条)

があります。

 

※2普通決議

・自己株式の取得[会社法160条1項により特定の者からの取得する場合を除く](会社法156条1項)

・総会検査役の選任(会社法316条2項)

・取締役・監査役・会計監査人の選任(会社法329条、341条)

・取締役・会計監査人の解任(会社法339条)

・取締役の報酬の決定[定款で定めていない場合](会社法361条)

・監査役の報酬の決定[定款で定めていない場合](会社法387条)

・決算の承認(会社法438条2項、441条4項

ちなみに、参考までに1株での保有では、 書面による事前質問権・株主代表訴訟提起権(6ヶ月間継続保有要)・各種書類の閲覧・謄写請求権(定款、株式取扱規則、株主総会議事録、取締役会議事録、株主名簿、計算書類、監査報告書等)の権利を得ます。

 

最後に

以上みてきたとおり、株式の保有割合に応じて権利が異なります。

経営決議がスムーズにいかないと会社経営にも支障をきたすこととなりますから、誰がどの程度の保有をしているのか、それを事業承継の過程でどう集中させていくか、は大切な準備であります。

執筆/事業承継通信社 柳 隆之

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