特別目的会社(SPC)とは資金調達などを目的とする会社のこと|注意点や設立手順を紹介
特別目的会社とは資金調達などの特別な目的のためだけに設立される会社のことです。設立することでどのようなメリットがあるのか、具体的な設立方法について見ていきましょう。また、設立する前に考慮しておきたい注意点についても解説します。
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特別目的会社(SPC)とは特別な目的のための会社
特別目的会社とは、英語の「Special Purpose Company」を訳した言葉で、SPCと省略して呼ばれることもあります。一般的に会社というものは事業を行い営利を求めますが、特別目的会社は資産を所有することだけを目的とし、利益を追求しません。
特別目的会社が所有する資産は多岐にわたります。不動産や住宅ローン、売掛金などを資産とすることもありますが、いずれも資産を使って利益を生み出す行為はしないため、実質的には名目だけの会社、いわゆるペーパーカンパニーです。
特別目的会社の設立条件
特別目的会社は、他の一般的な会社と同様、会社法によって設立することもできますが、特別目的会社専用の法律「SPC法」に基づいて設立することも可能です。どちらの法律に基づくかによって設立の条件も異なります。
例えばSPC法に基づいて設立するときは、資本金は10万円以上必要です。また、取締役と監査役をそれぞれ1人以上配置し、設立後は内閣総理大臣への届出もしなくてはいけません。会社として登記をすることも必要で、その場合には登録免許税もかかります。
一方、会社法に基づいて設立するときは、資本金は1円以上であればいくらでも問題ありません。取締役を1人以上配置し、監査役については特に配置基準は決まっていないので、監査役がないケースも多いです。合同会社の形態にする場合は、取締役なしに社員1人以上でも問題ありません。
また、設立後は内閣総理大臣への届出は不要で、業務開始届の届出も不要となります。ただし、会社として登記をすることは不可欠で、登録免許税は15万円以上、合同会社であれば6万円以上必要です。
特定目的会社との違い
特別目的会社と類似する会社の形態として、「特定目的会社」を挙げられます。なお、特定目的会社は「TMK」と略されますが、これは英語を略したSPCとは異なり、ローマ字で「Tokutei Mokuteki Kaisha」を略したものです。
特定目的会社とは特別目的会社の一種で、資産を保有するだけのために設立されます。ただし、資産の保有目的は「資産の流動化」に限られているので、目的がごく狭く限定された会社組織といえるでしょう。また、特別目的会社はSPC法と会社法のどちらを根拠としても設立できますが、特定目的会社はSPC法によって設立することに決められています。
株式会社との違い
特別目的会社は会社法を根拠として設立することができますが、SPC法によっても設立可能です。一方、株式会社は会社法を根拠として設立することに限られています。
ところで、特別目的会社が会社法を根拠に設立されるときは、株式会社ではなく合同会社として設立することが一般的です。合同会社では経営者と出資者が分離されていません。また、出資者は有限責任を負います。資産を保有するという極端に限定した目的のために設立される特別目的会社には、適した組織形態といえるでしょう。
特別目的会社を設立する手順
特別目的会社を設立する手順は、SPC法と会社法のどちらを根拠にするかによって少々異なります。また、会社設立に必要な資金なども、SPC法、会社法のどちらを根拠法にするかで異なるので注意が必要です。
それぞれの法律に基づいて特別目的会社を設立する手順、そして手続きにおいて必要な準備物について、詳しく見ていきましょう。
SPC法に基づいて設立する
SPC法に基づいた特別目的会社の設立は、以下の流れに沿って行います。
- 10万円以上の資本金を用意し、取締役と監査役をそれぞれ1人以上決める
- 定款を作成して公証役場で定款印紙代を支払う
- 法務局で登録免許税を支払って会社設立登記を行う
- 資産流動化計画を作成
- 管轄の税務署に業務開始届を提出
SPC法に基づいて設立する場合の登録免許税は3万円です。
会社法に基づいて設立する
会社法に基づいて特別目的会社を設立するときは、以下の流れで実施します。
- 1円以上の資本金を用意し、取締役を1人以上決める。合同会社の場合は取締役なしでも可能
- 定款を作成する。合同会社のときは定款なしでも可能
- 法務局で登録免許税を支払って会社設立登記を行う
- 会社の規模によっては会計監査法人も決める
株式会社とする場合、登録免許税は15万円以上です。一方、合同会社として設立する場合は、登録免許税は6万円以上になります。
特別目的会社を設立する3つのメリット
特別目的会社を設立することで、次の3つのメリットを期待できます。
- 財務状況を改善できる
- 資産を守ることができる
- 少ない資産でM&Aができる
1.財務状況を改善できる
財務状況に問題があるときは、特別目的会社を設立することで状況改善を図ることも可能です。例えば特別目的会社が第三者などから融資を受け、特別目的会社に対して企業が保有する不動産を売却します。特別目的会社を通して売却益を獲得できるので、企業の資金を増やすことができるでしょう。
しかも、特別目的会社は企業の管轄内にあるため、不動産を保有したまま資金を増やせます。不動産以外にも有価証券などさまざまな資産を特別目的会社に対して売却し、財務状況の改善に繋げることが可能です。
2.資産を守ることができる
特別目的会社は営利目的で存在しているわけではないため、経営破綻することがありません。また、企業の管轄下に置くことはできますが、企業とは独立して存在しているので、万が一、企業の経営が破綻しても余波を受けることがないという特徴があります。
この性質を利用して、企業が保有する資産を守ることが可能です。不動産や売掛金、設備、債権などを特別目的会社に保有させれば、万が一、企業が巨額の負債を抱えたときでも資産を手放さずに済むでしょう。企業の経営状態が思わしくないとき、あるいは今後に不安を感じるときは、特別目的会社を設立して大切な資産を守ります。
3.少ない資金でM&Aができる
企業買収には多額の資金が必要ですが、特別目的会社を利用すれば少ない資金でM&Aを実現できることがあります。例えば特別目的会社を設立してレバレッジドバイアウトを行い、資金をかけずに大規模なM&Aを実現することが可能です。
なお、レバレッジドバイアウトとは、売却側の資産やキャッシュフローに基づいて融資を返済する手法を指します。通常であれば、M&Aにおいて買収する側も企業が買収費を支払いますが、レバレッジドバイアウトを行う際に買収費を負担するのは売却する側の企業です。
つまり、買収する側ではなく売却側の信用に基づいて金融機関などから資金を調達するので、買収する側が売却する側より資産が少ない状況でもM&Aを実現できます。特別目的会社は基本的に倒産することがないため、金融機関も比較的安心して資金の貸付を行うことができるでしょう。
特別目的会社を設立する際の3つの注意点
資産を守りたいときや財務状況を改善したいとき、自社以上の規模の企業を買収したいときなど、さまざまなケースにおいて特別目的会社を活用することが可能です。しかし、特別目的会社を設立することには少なからぬ注意点もあります。注意すべき3つのポイントについて見ていきましょう。
- 維持するコストがかかる
- 粉飾決算などの不正が疑われる可能性がある
- M&Aの際に売却側が負債を抱えることになる
1.維持するコストがかかる
特別目的会社は、設立する際にコストがかかります。SPC法に基づいて設立するときは資本金として10万円以上かかるだけでなく、登録免許税に3万円必要です。また、会社法に基づいて設立するときは資本金は1円以上なので負担はあまりないですが、登録免許税に15万円もしくは6万円以上かかります。
また、維持する上でもコストがかかるでしょう。SPC法に基づく場合は監査役と取締役をそれぞれ決めますが、報酬が別途発生する可能性もあります。
特別目的会社は投資家から資金を集めるために証券を発行することができますが、原則として親会社とは別会社なので、利益のすべてを親会社が独占することはできません。投資家に利益を分配する必要もあるため、思うほどには財政改善効果が得られないこともあります。
2.粉飾決算などの不正が疑われる可能性がある
特別目的会社は資産を隠すために用いることは可能です。実際に、申告すべき資産を特別目的会社に隠し、粉飾決算が実施されたことも過去に何度もありました。
ただし、現在では特別目的会社は連結子会社としての位置づけにあるため、親会社と完全に切り離すことはできず、粉飾決算に用いることは難しくなっています。特別目的会社を利用した粉飾決算などの不正を行わないためにも、各自がコンプライアンス意識を持ち、また、特別目的会社に関連した内部規定を作っておく必要があるといえるでしょう。
3.M&Aの際に売却側が負債を抱えることになる
レバレッジドバイアウトを利用してM&Aを進めていく場合は、買収する側ではなく売却する側が金融機関から融資を受けることになるため、負債を抱えることになります。M&Aを実施した後に売却する側が返済に行き詰ってしまうと、売却側・買収側共に倒産することになるかもしれません。
M&Aの資金がないという理由で安易に特別目的会社を作ってレバレッジドバイアウトを実施するのではなく、売却後に返済できるのか、綿密に資金計画を立てておく必要があるといえるでしょう。
特別目的会社を利用する方法・スキーム
さまざまな目的に用いることが可能な特別目的会社ですが、利用する方法・スキーム自体は主に次の4つに限られています。
- レバレッジドバイアウト
- GK-TK
- TMK
- 投資法人スキーム
それぞれの違いについて見ていきましょう。
レバレッジドバイアウト
特別目的会社を使ってM&Aを実施する際には、レバレッジドバイアウトの手法を用いることが少なくありません。レバレッジドバイアウトを利用すれば、資産が少なく大規模な買収を行えないときも、金融機関の融資を受けてスムーズに進められることがあります。
レバレッジドバイアウトでは売却側の資産に基づいて金融機関が融資審査を実施するため、売却側の企業が大規模であり資産価値が高いと、より巨額の資金調達が可能になるでしょう。具体的には次の手順で行います。
- 特別目的会社を設立する
- 金融機関などから資金を調達する
- 特別目的会社が対象企業を買収する
- 買収した企業と特別目的会社が合併する
- 調達した資金を返済する
レバレッジドバイアウトを行う前に、特別目的会社を設立します。特別目的会社の目的は買収した企業を一時的に保有することです。買収が完了し、買収先と合併することで特別目的会社の役目を終えます。
合併をスムーズに行うには、特別目的会社は売却側の企業の株式を完全に取得することが求められるでしょう。売却側の株主の中にM&Aに対して反対する株主がいる場合は、100%の株式取得が難しくなります。場合によっては少数派となる株主を締め出すなどの強制的な行為が必要になるかもしれません。
合併後は、調達した資金を金融機関あるいは投資家に返済することが必要です。時間をかけて返済することもありますが、上場して市場から資金を調達し、まとめてM&A時に調達した資金を返済するケースもあります。
GK-TK
会社法に基づいて特別目的会社を設立する場合、株式会社よりは合同会社のほうが好まれる傾向にあります。合同会社として設立すると定款を作成しなくてもよいだけでなく、登録免許税が株式会社よりも少なく、取締役を配置する必要もありません。
特別目的会社を合同会社として設立し、投資家からの匿名組合出資と金融機関からの融資を受けて不動産信託受益権を取得することをGK-TKスキームと呼ぶことがあります。なお、GKとは合同会社をローマ字表記した「Godo Kaisha」の頭文字、TKとは匿名組合をローマ字表記した「Tokumei Kumiai」の頭文字です。
匿名組合では投資家は匿名で出資するため、株主のように事業に対しての意思決定を行いません。匿名組合を利用することで、特別目的会社の利益と配当の両方に課税されることを回避できます。
ただし、特別目的会社として設立した合同会社が匿名組合を通して不動産投資を行うと、不動産特定共同事業法が適用されることになり、コストがかさむ可能性があるので注意が必要です。
TMK
特定目的会社(Tokutei Mokuteki Kaisha、TMK)は、資産の流動化を目的とする特別目的会社です。特定目的会社を設立し、金融機関から調達した資金と投資家からの出資に基づいて不動産を取得して運用することもしばしば実施されます。この場合、現物の不動産だけでなくGK-TKスキームのように、不動産信託受益権を運用することも少なくありません。
特定目的会社は一定の要件を満たすと、配当金を損金に算入することが可能です。損金算入することで利益と配当が二重課税されるケースを回避できます。
しかし、特定目的会社を設立して二重課税を回避するためには、損金算入の要件を満たす必要があり、必ずしも実現できるわけではありません。また、資金流動化計画を作成し、管轄の税務署に業務開始届と提出する必要もあるので、手間と時間がかかります。
実際のところ、特定目的会社を設立するスキームよりは、合同会社と匿名組合を設立するGK-TKスキームのほうが手間と時間がかかりにくいため用いられることが多いです。
投資法人スキーム
特別目的会社として投資法人(Real Estate Investment Trust、REIT)を設立し、投資家から資金を調達して運用するスキームを投資法人スキームと呼びます。投資法人も一定の要件を満たす場合は配当を損金に算入できるので、二重課税を回避することが可能です。
投資法人スキームは、収益性の高い不動産を長期運用する際に用いられます。また、親会社が不動産による資産を用意したいときや、不動産による収益により財務状況を改善したいときにも用いられることが多いです。そのほかにも、事業を再生する出口戦略として投資法人スキームを活用するケースもあります。
投資法人スキームでは、特別目的会社は「投資法人・投資信託に関する法律」に基づいて設立されているため、発行する有価証券は証券取引所に上場することが可能です。上場するとさらに多くの投資家から資金を調達できるので、不動産の運用資金を潤沢に集められるようになります。また、運用成績が著しく悪化しない限りは長期的な運用が可能なので、安定した収益を見込める点も特徴です。
M&Aのお悩みはぜひご相談ください
レバレッジドバイアウトにより、買収側は資金面に不安があるときでもM&Aを実施することが可能です。しかし、M&A後には売却側は負債を抱えることになるため、資金計画に無理がある場合などには売却側・買収側共に大打撃を受ける可能性があります。
また、特別目的会社はさまざまな目的で利用できますが、設立・維持にコストがかかるだけでなく、どのスキームにも一定のリスクがあるため、慎重に特別目的会社を設立し、運用していく必要があるといえるでしょう。
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