自社サイトの価値を高める手段とは?EC事業におけるM&A事例を紹介
EC事業の人気が高まっている昨今、通信業界への参入手段としてM&AによるEC事業者の買収を図る事例が年々増加しています。ですがその一方で、競合サイトの多いEC事業において満足のいくM&Aを成立させる為には、買い手・売り手共にクリアすべきいくつかのハードルがある点も事実です。
そこで本記事では、EC事業におけるM&A事例の中でも特に規模や注目度が高かったものについて、業界全体の動向やEC事業のM&Aを成功させる為のポイントを交えつつご紹介します。
EC事業におけるM&Aの動向
EC事業におけるM&A事例は年々増加傾向にあります。ECサイトをM&Aにより取得する事でそのECサイトが抱える顧客をそのまま自社に引き込む事が可能となるので、販売品目の拡大と新規顧客の獲得を目的とした同業種間でのM&AがEC業界の中で盛んです。
また売り手側の事情としては、サイト設計費用やWebデザイン費用・エンジニアの人件費といった開発・運営費用の回収や、創業者利益の獲得を目的にM&Aによる売却を目指すケースが数多く見られます。
特に近年では、品質の高い日本製品の販売経路確保を目的とした越境ECサイトによるM&Aや、リアル店舗を運営している事業者が販売チャネルの拡大を目指してEC事業者を買収するケースが増加傾向にあります。
以下の図はその傾向を表したもので、2019年の時点でBtoCのECの市場規模は19.4兆円、BtoBのECの市場規模は353兆円と、いずれも規模の拡大が見られます。こうした動きは、昨今の新型コロナウイルスの影響を受けてより加速するとみられ、これまで以上にECに注目が集まることが予想されます。
EC事業のM&Aを成功させる為のポイント
では次に、売り手側がEC事業のM&Aで気を付けたいポイントについて、詳しく見ていきましょう。
オリジナル商品や独自の仕入れ先による他サイトとの差別化
参入障壁が低いEC事業において自社サイトの価値を高める為には、オリジナルブランド商品の提供や、独自の仕入れ先を確保する事により競合サイトとの差別化を図る事が重要です。
その一環として、自社で独自のブランドを用意してオリジナル商品を生産する設備がないEC事業者から買い手を募る、といった方法は売り手側にとって有効なM&A戦略の1つとなります。
逆に買い手企業の立場からすると、独自の製品や仕入れ先・配送対応エリアを有するEC事業者を買収すれば、他社ECサイトとの差別化に繋げられるのです。
このように、M&A後の経営戦略も組み立てつつ、どのような差別化を行うのが良いのか検討してみると、M&Aの戦略が具体的に見えてきます。
安定した利用者を確保する
M&Aにおいて、訪問者数と利用者数が安定しているECサイトは、収益性の高いサイトであると買い手に判断されます。
ECサイトの利用者数を安定して確保するには、商品の品揃え以外に、商品検索や決済方法・ポイントキャンペーンといったあらゆる面において利便性を高める努力が必要です。
自社ECサイトの価値を高めるためには、デザインやUI/UX、品揃えといった点をチェックします。どうすればサイト訪問から商品購入までの流れをよりスムーズに行えるのか、ユーザーの意見も参考にしつつ、顧客満足度の向上に努めましょう。
また、こうした改善の記録も数値として表れてくるので、買い手企業に対してサイトの魅力を伝える際のエビデンスとしても役立ってくれます。
EC事業のM&A事例
ここからは、実際に行われたEC事業のM&A事例について見てみましょう。
先ほど紹介した「EC事業のM&Aを成功させる為のポイント」が各事例にどういった形で盛り込まれているのか、といった点に着目しつつご覧下さい。
ヨドバシホールディングスによる石井スポーツの買収
「ヨドバシカメラ」を運営するヨドバシホールディングスは2019年4月、スポーツ用品販売事業を手がけるICI石井ホールディングスを完全子会社化する事を発表しました。
その結果、ヨドバシカメラの運営するECサイト「ヨドバシ.com」の中に子会社である石井スポーツのECサイト「石井スポーツストア」がオープンしています。
新たにオープンした「石井スポーツストア」では従来のECサイト「石井スポーツの5倍に当たる約5 万点もの商品を取り扱っており、今回のM&Aにより「ヨドバシ.com」全体の品揃えも大幅に拡充される結果となりました。
今回のケースはヨドバシカメラが、品揃えの拡大と他社ECサイトの抱える顧客を獲得する目的で行ったM&A事例であると言えます。
ヤフーによるZOZOの買収
2019年9月、ヤフーは大手アパレルECサイト「ZOZOTOWN」を運営するZOZOをTOBにより4000億円で買収しました。
ヤフー側としてはEC事業を「メインである広告事業に次ぐ事業の柱とする」ことが目的である一方で、ZOZO側としては自社サイトのメイン顧客である20~40代の女性以外の新たな顧客層を獲得するべくM&Aに踏み切ったと考えられます。規模や知名度の大きさからニュースでもたびたび取り上げられる事例となりました。
非常に大規模なM&A事例である為、両社の成長を加速させる効果に加えて、EC業界におけるM&A自体を活性化させる効果が期待されています。
楽天によるFablicの買収
株式会社Fablicは日本初のフリマアプリ「フリル」を運営する企業です。
「フリル」で取り扱われている商品はファッションや美容用品が中心で、アプリの累計ダウンロード数は500万を超えています。
2016年、楽天はフリマアプリのCtoC事業拡大を目指しこのFablicを完全子会社化しました。その結果、「フリル」においても楽天のフリマアプリ「ラクマ」と同様に楽天IDを使ってログインしたり、楽天スーパーポイントを活用したキャンペーンを実施したりといった改善が可能となりました。
「メルカリ」に次ぐユーザー数を誇るフリマアプリを取り込んだ事により、楽天グループ全体におけるユーザー層の増加や顧客基盤の強化といった効果が発揮されるでしょう。
メタルバーガーのインスタイルグループへの加入
2018年、アパレルブランド「ダイエットブッチャースリムスキン」を運営するメタルバーガーは、EC事業を強みとした経営コンサルティングを生業とするインスタイルグループへの加入を決定しました。
今回のM&AによってメタルバーガーがEC事業面における弱みを克服した事で、ECと実店舗の使い分けによる販売力強化や新規顧客獲得といったプラス効果が期待されています。
EC事業の特徴を把握してM&Aを成功させる
本記事ではEC事業の動向や特徴に触れた上で、実際に行われたM&A事例についてEC事業のM&Aを成功させる為のポイントと併せてご紹介しました。
EC・通販業界は将来性が高く、今後も市場規模の拡大と業界再編に向けたM&Aの事例が増加する事が予想されます。
EC事業のM&Aを検討されている方は専門家への相談や様々なM&A事例に関するリサーチを通して、本記事で紹介したM&Aを成功させる為のポイントがどういった形で活かされているのかを入念に分析する様に心がけましょう。
小規模な事業や企業を売却する際に、どのようなステップを踏めばよいのか分からない方は、ぜひ以下の記事も参考にしてみてください。