M&Aでかかる会社売却の税金まとめ│計算方法から節税のポイントまで解説

M&Aの実行後には、所得税や住民税、法人税など様々な税金がかかります。ただし、売り手が個人か法人か、株式譲渡か事業譲渡かなど、M&Aのスキームや条件でかかる税金が異なるため、事前に十分な確認が必要です。

M&A後にかかる税金を考慮せずに売却益を配分すると、納税額が想定より高かった場合に納税できなくなる可能性も。M&A実行後にかかる税金について、わかりやすく紹介していきます。

M&Aの手法によってかかる税金は異なる

M&Aはその手法によって様々な種類に分けられますが、M&A時にかかる税金もその手法によって異なります。

まず、M&Aの手法は大きく以下の3つに分けられます。

  • 株式譲渡
  • 事業譲渡
  • 会社分割

あらかじめそれぞれの特徴やメリットを抑えておきましょう。

株式譲渡の特徴やメリット

株式譲渡はM&Aの中で最もよく用いられる手法です。

株式譲渡によって経営権を獲得するためには、過半数(51%)を超える株式を取得しなければなりません。そのため、設定される株価や企業価値によってはM&Aにかかる費用が高額になってしまう可能性があります。

その一方、企業が保有する経営資源や権利、許認可もまとめて引き継げるため、人材の確保であったり、許認可が必要な事業の営業権を獲得できたりといったメリットが魅力と言えるでしょう。

事業譲渡の特徴やメリット

事業譲渡は、会社の経営権ではなく「事業単体を切り分けて譲渡」する方法です。具体的には、事業の存続に必要な資産、負債に限って譲渡・譲受することになります。

株式譲渡に比べてスムーズに手続きが完了するだけでなく、事業に不必要な負債を除外してM&Aを成立させられるのがメリットと言えるでしょう。

会社分割の特徴やメリット

会社分割は、M&Aの手法の中でもとりわけ事業承継のために用いられるケースが多いのが特徴です。

会社が保有する一切の権利義務や資産、負債、資本を別の企業へ包括的に引き継ぐ手法を指します。既存の企業へ引き継ぐ場合は「吸収分割」と呼ばれますが、新たに企業を設立する場合は「新設分割」と呼ばれます。

このように、M&Aには様々なスキームが存在しますが、それぞれに引き継ぐ項目が異なるため、かかってくる税金も変わってくるのです。

 

株式譲渡でかかる税金を解説

株式譲渡は、株式を第三者に売却することで、会社の経営権を譲渡する方法です。株式の保有数で与えられる権利が変わりますが、M&Aでは発行済み株式の過半数を獲得するのがセオリー。会社法によって定められている通り、過半数の株式を保有していれば会社における重要事項を決定できるようになるためです。

発行済み株式の3分の2以上を保有すれば、会社売却や買収、解散などの決定権が手に入ります。こうした理由から、子会社化を目的としたM&Aでは大量の株式が移転されるため、納税額も付随して高くなってしまうのです。

株式譲渡でかかる税金には以下の3つが相当します。

  1. 所得税
  2. 住民税
  3. 法人税

具体的にどのような計算が行われているのか、内訳を詳しくみていきましょう。

1. 所得税

経営者が保有する株式を譲渡する場合には、「売却によって得た利益」に応じた所得税と住民税がかかります。多くの中小企業は、その会社の経営者が株式を保有しているため、このケースに該当するでしょう。 

よく混同されますが、売却によって得た利益とは「株式の売却額」のことではなく「譲渡所得」のことです。譲渡所得は、売却によって得た金額から「株式の取得にかけた費用」と「譲渡にかかった費用」を差し引いた額になります。

詳しくは後述していますので、まずは全体の計算方法を見ていきましょう。先に計算式を記載すると、以下の通りです。

譲渡所得 = 売却額 ー 株式取得費 ー 譲渡費用

ここで求められた譲渡所得に、所得税率を掛けて、課税される所得税の金額を導き出しましょう。

所得税 = 譲渡所得 × 15.315%(所得税率)

これで株式譲渡でかかる所得税は算出できました。所得税は、毎年3月15日までに確定申告し、納税しなければならないので注意しましょう。

ここで、少し「株式取得費」と「譲渡費用」について解説します。

株式取得費とは

株式取得費とは、売却した会社を設立する際にかかった費用のことです。

購入費や手数料、名義書換料などが該当します。正式な取得費を算出したいところですが、把握できていない企業もあるため、「売却額の5%を取得費として取り扱える」ようになっています。

譲渡費用とは

譲渡費用とは、M&Aを行う際にかかった費用のことです。

M&A仲介会社を利用する場合は、着手金や中間金、月額報酬、成功報酬、実費などがかかりますが、これらは譲渡費用に該当します。こうした「譲渡のために費したお金」も所得から控除できるので、売却額から差し引いて、課税される所得額を計算します。

2. 住民税

住民税も、先ほど算出した「譲渡所得」をもとに計算される税金なので、所得税と異なる点は「税率」のみです。住民税の納税額を算出するには、所得税と同様に、まず譲渡所得を求めます。

譲渡所得 = 売却額 ー 株式取得費 ー 譲渡費用

次に、譲渡所得に住民税率を掛けて、住民税の金額を求めます。

住民税 = 譲渡所得 × 5%(住民税率)

住民税は、該当年度の6月あたりに納付書が送付され、納税することになります。所得税とは支払いタイミングが異なるので、あらかじめ把握しておきましょう。

3. 法人税

会社の所有者(株主)が法人の場合は、利益額に応じて法人税を支払わなければなりません。法人税は、株式譲渡によって得た利益から諸経費を差し引いた「譲渡益」に対して課税されます。

譲渡益は先ほど紹介した譲渡所得と同じものと捉えてしまって問題ありません。実は算出方法も同じです。

異なる点として、譲渡益の算出に必要な取得費については、正確な金額を算出しなければなりません。個人のケースのように売却額の5%として計算することはできないため、取得費を割り出せるように必要な資料を探しておきましょう。

法人税は、15~23.4%の範囲で変動し、赤字企業の場合は0%となります。したがって、法人税は次のように算出します。

譲渡益 = 売却額 ー 株式取得費 - 譲渡費用

まずは譲渡益を算出し、次のように法人税を算出します。

法人税額 = 譲渡益 × 法人税率(15~23.4%)

このように、同じ株式譲渡であっても、取引主体が個人の場合と法人の場合でかかる税金が異なるので注意しましょう。

 

事業譲渡でかかる税金を解説

事業譲渡は株式譲渡とは異なり、会社全体ではなく「事業や財産を指定して第三者に売却」する手法です。自社はそのまま存続し、代表者も経営権を維持できるため、不採算事業の売却や企業再生を目的としている場合に選ばれやすいという特徴があります。

事業譲渡でかかる税金には、以下の2つが相当します。

  1. 法人税
  2. 消費税

ここからは、事業譲渡にかかる税金について、詳しくご紹介します。

1. 法人税

事業譲渡の場合は、基本的に会社に税金が課税されますが、これは「事業の保有者は法人である」という考え方に基づいているためです。つまり、株式譲渡のように所得税や住民税がかかるのではなく、法人税が課されます。

法人税を算出するには、株式譲渡の場合と同じく以下のように計算します。

譲渡益 = 売却額 - 取得費 - 譲渡費用

譲渡益を算出し、次のように法人税を算出します。

法人税額 = 譲渡益 × 法人税率

上記の計算式を参考に、M&Aを行う前に納税額を見積もっておくと良いでしょう。次に、消費税の計算方法について紹介します。

2. 消費税

株式譲渡の場合は、資産を保有している「法人の所有権」を移転するので消費税はかかりませんでしたが、事業譲渡の場合は設備や店舗などの資産を直接売却するため、消費税がかかります。

消費税の計算方法は以下の通りです。

消費税 =(売却額 - 非課税資産)× 消費税率

「非課税資産」とは、消費税のかからない資産を指した言葉です。事業譲渡で気を付けたいポイントは、消費税がかかる「課税資産」と、かからない「非課税資産」の区別です。課税資産と非課税資産の詳細について、一つずつ確認していきましょう。

消費税がかかる「課税資産」とは

課税資産に該当するのは、以下の4種類です。

  1. 営業権
  2. 土地以外の有形固定資産
  3. 無形固定資産
  4. 棚卸資産

それぞれ詳しく解説します。

1. 営業権

営業権は「のれん代」とも呼ばれ、ブランドや取引関係など決算書に記載されない価値を指します。一般的には「営業利益か経常利益の3~5年分」が営業権とみなされ、所定の消費税率がかかります。

2. 土地以外の有形固定資産

有形固定資産は、店舗や工場、本社の建物、機械設備などを指します。有形固定資産の中でも「土地」に消費税はかかりません。

3.無形固定資産

無形固定資産には、商標権や特許権、借地権、ソフトウェアなど形がない資産が該当します。

4.棚卸資産

棚卸資産は、販売目的で保有している商品や原材料などのことで、いわゆる在庫のことを指します。

消費税がかからない「非課税資産」とは

非課税資産には、株式や債券、小切手などの有価証券、売掛金などの債権、土地などが該当します。

事業譲渡でかかる消費税を計算する際には、これらの非課税資産の価額をあらかじめ差し引いてから計算するようにしましょう。

 

会社分割でかかる税金や費用を解説

会社分割は、展開している事業の一部または全てを第三者に売却する方法です。事業譲渡と似ていますが、利益を得ることではなく組織再編を目的としています。また、現金ではなく株式を譲渡の対価とするケースが多く、費用をかけずに実行できるのが特徴です。

会社分割では、事業譲渡とは異なり、消費税がかかりません。これは、資産を包括的に承継するためです。その他の税金に関しては、適格分割か非適格分割かで異なります。

適格分割の場合は、基本的に税金が発生しませんが、非適格分割では税金が発生します。適格分割に当てはまるのは、M&Aの実施後に株主構成や保有資産がほとんど変化しないケースです。 ただ、適格分割かどうか判断するには、複雑な要件を整理しなければならないため、専門家のサポートが欠かせません。

不動産取得税や登録免許税がかかることも

会社分割の際には、不動産取得税や登録免許税がかかる場合があります。適格分割に該当する場合は不要ですが、非適格分割において、グループ企業内で不動産を移転する場合は、不動産取得税や登録免許税がかかります。

不動産取得税は不動産の固定資産評価額の4%となります。登録免許税は法人登記と不動産登記の際に納税が必要で、それぞれの計算式は次のとおりです。

法人登記にかかる費用

法人登記にかかる費用は、分割会社か新設会社かによって変わってきます。あらかじめ把握しておきましょう。

分割会社3万円
新設会社資本金額の1000分の7

不動産登記にかかる費用

不動産登記でかかる費用は、不動産価額の1,000分の20と定められています。事前に不動産価額を確認しておくようにしましょう。

 

株式譲渡と事業譲渡では株式譲渡のほうが節税しやすい?

M&Aでよく用いられる株式譲渡と事業譲渡ですが、どちらのほうが節税効果が高いのでしょうか。一概には言えませんが、支払う税金が少なくなりやすいのは株式譲渡であると言えます。

株式譲渡なら納税が一度で済みやすい

中小企業は経営者が筆頭株主であるケースが多いので、株式譲渡によってM&Aを行う場合は、譲渡企業の代表者(個人)と譲受企業(法人)のやり取りになりやすいのです。

結果として、個人の所得税や住民税を納税するだけで所得を手元へ移せると考えられます。

まず、代表者が保有していた株式を売却して譲渡所得を得ます。その譲渡所得に対して所得税と住民税が課されますが、譲渡所得は分離課税方式によって計算されるため、税率は一律で20.315%に統一されます。

いっぽう、譲渡企業の株主が法人だった場合は、いったん売却益に対して法人税が課されます。支払った法人税分の利益を差し引いてから、売却益を個人の手元へ移すため、そのタイミングでまた個人の譲渡所得が発生してしまい、所得税と住民税を支払わなければなりません。

このように、譲渡企業の株主が法人だった場合は、M&Aの際と、お金を手元へ移した際の2つのタイミングで納税するため、課税額が高くなってしまうのです。

M&Aで節税するための手法を3つ紹介

ここからは、M&Aで節税するための手法を3つ紹介します。

①役員退職金を活用したM&Aの節税方法

株式譲渡によってM&Aを行う場合に活用できるのが、役員退職金を活用した節税方法です。譲渡企業をA社、譲受企業をB社として例えてみましょう。

A社はB社に対して1億円で株式を譲渡します。その直前に、A社は代表に対して2000万円の退職金を支払ったとしましょう。2000万円分の資産が減少してしまうので、B社にとっては望ましくないように思えますが、支払った退職金分を譲渡価格から差し引くことにします。

つまり、1億円から2000万円を差し引いた8000万円を譲渡価格として設定するのです。結果として、A社もB社も損得なくM&Aを完了できているのですが、譲渡価格は減少しているので、結果として課税額が低くなります。

②第三者割当増資を活用したM&Aの節税方法

M&Aスキームの一つとして、第三者割当増資を活用した節税方法が挙げられます。

譲渡企業が第三者割当増資を行い、譲受企業へ株式を手渡すことで株式保有率を引き上げ、経営権を手渡します。この方法であれば、株式を増資しているだけなので譲渡税がかかりません。

しかし、家族同士の場合は贈与税の課税対象とみなされてしまう可能性があるので、注意が必要です。

③事業承継税制を活用したM&Aの節税方法

M&Aによって事業承継を行う場合は、事業承継税制という制度が活用できます。株式を譲渡・相続する際の贈与税や相続税が実質的にゼロになるので、もし活用できる場合は検討してみるのが良いでしょう。

以下の記事では詳しく事業承継税制の要件やメリットについて解説しているので、ぜひ参考にしてみてください。

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株式譲渡と事業譲渡の特徴を押さえてM&Aを成功させよう

M&Aの実行後には、株式譲渡、事業譲渡、会社分割などの手法に応じた税金が発生します。

株式譲渡は他の手法と比べて税金面で優遇されていることもあり、課税額が算出しやすくなっています。M&Aを成功させるためには、あらかじめ税金などの財務面も踏まえたうえで、適切なM&Aの手法を選ぶことが大切です。

納税トラブルを防ぐために、M&A実行後の税金を事前に確認し、売却益の配分を決めていきましょう。

執筆者:小野澤 優大(おのざわ まさひろ)/事業承継士・ファイナンシャルプランナー

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