2018年改正・新制度「事業承継税制」を簡潔に解説|前制度からの変更点・注意すべきこととは
2018年の税制改正で新たに創設された事業承継税制(いわゆる相続税の納税猶予)。
以前の制度と比べて緩和されており、使いやすさは増しているものの、10年間という期間を限った限定措置であり、あくまでも「特例」という位置づけ。前制度からの制度改正ではないので、注意が必要です。
すでに施行されている税制ではありますが、改めて注意ポイントを振り返りたいと思います。
前制度と新制度(特例)の比較まとめ
下の表に前制度と、2018年からの新制度(特例)を比較したものをまとめました。注意すべき点「POINT①〜④」を詳しく見ていきましょう。
前制度 | 新制度(特例) | |
適用期間 | 定めなし | POINT① |
対象株式数 | 発行済議決権株式の2/3まで | POINT②-1 株式の100% |
猶予割合 | 贈与税額の100% 相続税額の80% | POINT②-2 贈与税額、相続税額とも100%の猶予 |
対象後継者数 | 1人 | POINT③ 3人まで (株式保有割合が各人10%以上であることが条件) |
雇用確保要件 | 承継後5年間で平均8割の雇用維持 | POINT④ 弾力化(事実上の要件撤廃) |
相続時精算課税の適用 | 60歳以上の者から、 20歳以上の推定相続人・孫への贈与 | 60歳以上の者から、 20歳以上の者への贈与(→他人でも可) |
POINT① 2027年12月まで期間限定の「特例」である
冒頭でも触れましたが、制度の改正ではなく、あくまでも期間を限定した特例措置です。制度が開始した2018年から2027年末までの10年間という期限が設けられているのが一番のポイントです。
なおこの新制度は、下記の2つの条件をクリアした経営者が対象となります。
[新制度の利用条件]
● 5年以内に「特例承継計画」を都道府県に提出する
● 10年以内に 後継者に対して自社株式の贈与や相続(事業承継)を行う
POINT② 対象株式数の上限が撤廃。猶予割合も100%に
納税の猶予となる自社株式数は、以前の制度では「議決権総数の2/3まで」と上限が設けられていましたが、新制度ではその上限が撤廃され「株式の100%」に変更されました。
また猶予割合も、これまでは「贈与税で100%・相続税では80%」でしたが、こちらも「贈与税・相続税ともに100%」に変更されました。
結果、猶予税額はこれまで贈与税で約66%、相続税は約53%だったのが、新制度適用後は全株式の納税猶予が可能となっています(下表参照)
表)前新制度「対象株式・猶予税額割合・猶予税額」比較
対象株式数(A) | 猶予税額割合(B) | 猶予税額(A×B) | |
現行制度 | 2/3まで | 贈与税100% | 贈与税額:約66% 相続税額:約53% |
新制度 | 100% | 100% | 100% |
POINT③ 後継者は最大3名まで可能
対象後継者の人数は、前制度では「1名」でしたが、新制度では株式を10%以上ずつ保有することを条件に「3人まで後継対象」となりました。
また承継元についても、これまでは1人の先代経営者と特定されていたものが、新制度では「親族外を含む複数の株主からの承継が可能」になりました。この点も新制度で大きく緩和されたポイントで、今後承継が円滑に進められることが期待されます。
POINT④ 平均8割の雇用維持は実質的な撤廃
前制度では、事業承継後に雇用確保要件が設定されており、5年間で8割以上の雇用を維持することが条件でした。
8割というと余裕があるようにも見えますが、中小企業ですから、その規模は様々です。たとえば、4名の会社では1人辞めてしまうとこの要件は満たせなくなります。
これが新制度では、所定の手続きをとることによって「平均8割の雇用維持が未達でも、猶予を継続することが可能」となっています。これは実質的に「撤廃」に近い緩和といえます。
その他の注意ポイント
この新制度「事業承継税制(相続税の納税猶予)」には、報告義務が課されている点も注意しなければなりません。
5年ごとに都道府県知事、3年ごとに税務署へ継続届出書を提出する必要があります。
最初に「特例承継計画」を提出して終わりではなく、その後も定期的な処理が必要になります。これを怠ると取り消し事由にあたることがありますので、十分に注意が必要です。
以前の制度では、非上場株式の中小企業のオーナーが死亡すると、後継者が会社の株式を相続した場合に多額の相続税が課され、それがネックで経営の円滑な承継ができなくなる、ということが多々ありました。
今回の新制度は2027年末までと期限付きではありますが、事業承継を検討する経営者にとってプラスの制度改正だといえます。ぜひともこの機会に、具体的に検討を進めてみてはいかがでしょうか。
執筆:株式会社事業承継通信社 柳 隆之