負ののれんが生じる原因は?6つの理由と会計処理について詳しく解説
企業価値よりも買収価格のほうが低いときに生じる「負ののれん」は、時価純資産が実情を反映していないときや、簿外債務が多いときなどに発生します。そのほかにもどのような理由があるのか、また、会計処理はどのようにできるのか詳しく見ていきましょう。
「負ののれん」とは
「負ののれん」とは、企業が有する資産から負債を差し引いた純資産(資産価値)よりも低い価格で企業を買収した際に生じます。のれんとは、シンプルに言うと、買収金額から、買収した企業の純資産額を引いた差額ですが、その差額がマイナスの場合、負ののれんと表現されます。
通常は「のれん」はマイナスにならない
基本的には、のれんはマイナスにはなりません。ブランド力や販売経路などの目に見えない資産(無形固定資産)をまったく評価できない事業や企業であっても、実際に事業や企業に蓄えている純資産は数値として評価できるはずだからです。
しかし、実際には、事業買収、企業買収の場面において「負ののれん」は起こっており、純資産よりも低い価格での売買が少なくない頻度で成立しています。次にその理由をみてみましょう。
「負ののれん」が生じる6つの理由
純資産よりも低値で企業や事業を買収する「負ののれん」が生じるのは、何らかの理由があります。主な理由として次の6つを挙げることができるでしょう。
- 時価純資産が実情を反映していないから
- 会計が必ずしも正確とはいえないから
- 損をしてでも事業売却する理由があるから
- 多額の簿外債務があるから
- 損害賠償を請求される可能性があるから
- 大規模なリストラ計画があるから
1.時価純資産が実情を反映していないから
企業に現金や売掛金などの正の資産が3,000万円あり、銀行への負債や買掛金などの負の資産が2,000万円あったとしましょう。単純に時価純資産を計算すると1,000万円となり、売買するのであれば1,000万円以上の価格がつきそうです。
しかし、売掛金の回収が難しい場合や、負債に高率の利息が発生している場合などは、時価純資産は実情を正確に反映しているとはいえません。また、資産や負債に特別な事情がない場合でも、事業存続が難しく、廃業を前提として売却する場合は廃業費用がかかります。廃業の際には司法書士などの専門家への報酬や税金等、少なくない費用がかかるため、時価純資産で売買をすると買収側は損をすることになるでしょう。
2.会計が必ずしも正確とは言えないから
会計に記されている数字は、必ずしも正確とは言えません。会計上は実際に購入したときの額である「帳簿価額(簿価)」で記されていますが、その時々の市場価格である「時価」とは異なることがあるからです。例えば資産には不動産なども含まれますが、利便性が低いなどの何らかの問題を持つ場所の不動産であれば、会計上に記された金額で売却できない恐れもあるでしょう。ニーズが低い不動産の場合、安くしても買い手がつかない可能性も十分にあります。
3.損をしてでも事業売却する理由があるから
経営者側に売り急ぐ事情があるときや、損をしてでも事業売却するほうがよいと判断するときは、純資産よりも安値で売却することがあります。例えば経営者が別の事業も並行して行っており、そちらのほうに専念したいと考えている場合なら、純資産より少々安値であっても手放すでしょう。
また、事業や業界全体の先行きが不安な場合も、莫大な損失が生じる前に売却して手を引きたいと考えることがあります。反対に、今まで大切に育ててきた事業・企業だからこそ、優秀な後継者に引き渡したいと考え、実際の価値よりも安値で売却することもあるでしょう。
4.多額の簿外債務があるから
帳簿に記されていない債務があることもあります。例えば、従業員への未払い給与がある場合が想定されるでしょう。未払いの給与は負債には計上しませんが、実質的には会社が抱える負債であり、近い将来、必ず清算しなくてはいけません。
また、従業員の退職金も同様です。負債には計上しませんが、従業員が退職するときまでには用意をしておく必要があるため、実質的にはマイナスの資産として考えられるでしょう。定年が迫っている社員が複数いる場合であれば、売却取引成立後すぐに大規模な資産減が起こると考えられます。
投資など金融系商品の含み損がある場合や、経営者の個人的な債務保証がある、場合も該当しますので、注意が必要です。
5.損害賠償を請求される可能性があるから
企業によっては損害賠償の支払いにつながるトラブルを抱えていることがあります。買収後は買収した企業が損害賠償請求に応じる必要があるため、その分のリスクとなる金額を差し引いて、負ののれんで売買が成立することもあります。
損害賠償の内容はさまざまです。不良品やサービスの不具合を原因として賠償請求されることもありますが、労働法規上の問題やハラスメント行為などにより従業員から賠償請求されている可能性も想定できます。
6.大規模なリストラ計画があるから
売却側の企業が元々大規模なリストラを計画しており、買収側の企業が計画実行を引き継ぐというケースもあるでしょう。この場合は、買い手は買収後すぐに多額の退職金を支払わなくてはいけないため、予定される金額を差し引いた金額で取引が成立することもあります。また、リストラに際して部署の切り離しや廃部が予定される場合には、実行にかかるコストも差し引いて取引されることがあります。
「負ののれん」の会計処理
のれん(正ののれん)は無形固定資産として計上し、最大20年にわけて減価償却していきます。例えば2,000万円ののれんが生じたときは、20年償却を目指すのであれば毎年100万円、10年償却を目指す場合は毎年200万円を利益から差し引くことが一般的です。しかし、負ののれんは減価償却できないため、正ののれんの手法では会計処理ができません。
一括で利益として計上処理を行う
負ののれんは「特別利益」として一括で計上します。見かけだけとはいえ、純資産よりも安い価格で購入できたため経理上は利益ですが、実際に現金として利益が生じたわけではないので、通常の利益とは別個に特別利益に仕訳するのです。
なお、負ののれんに対して発生する税金は一括ではなく5年間にわけて納付していきます。
IFRSにおいても一括利益計上処理を行う
日本の会計基準だけでなくIFRS(国際財務報告基準)を用いて会計処理をしている場合も、負ののれんに関しては一括で利益として計上します。
一方、正ののれんに関しては、日本会計基準のように最大20年間で減価償却を行うといった会計処理は行いません。年度ごとに減損テストを実行してのれんの価値を調べ、減損処理を行います。
事業売却の専門家に相談してみよう
負ののれんが生じる理由は多岐にわたり、純資産よりも低価格で売買が成立するケースも珍しくありません。売却を検討される場合でも、買収を検討される場合でも、相手先との交渉や価格設定でお悩みの場合は、ぜひ専門家にご相談ください。豊富な実績を基に、お客さまの意向に沿うM&Aを目指していきます。