「減損処理」とは投資回収が難しいときの会計処理|状況とメリットを解説

投資した資金の回収が難しいときに、一時的に固定資産の価値を下げる会計処理の手法を「減損処理」といいます。資産価値を下げることで減価償却費が減り、相対的に利益率を高められますが、実際にどのような状況で実施するのか、メリットやデメリットは何なのかについて見ていきましょう。

 

減損処理とは?

減損処理とは、投資した資金の回収が難しい場合に、不動産などの資産の価値を一時的に下げて財務諸表などに記す会計処理方法のことです。資産価値が下がるため、資産に対する減価償却費も減ります。

 

減損処理が可能な資産とは?

減損処理が可能な資産とは、以下のいずれかに分類できる資産です。

  • 有形固定資産
  • 無形固定資産
  • 投資そのほかの資産

「有形固定資産」には、製品を製造する機械などの設備や社屋、工場などの土地などの有形のものが含まれます。特許権などの知的財産権やのれんなどの「無形固定資産」と同様、投資した資金の回収が困難なときは減損処理できる資産です。これらの資産以外にも、投資有価証券などの「投資そのほかの資産」も、減損処理の対象となることがあります。

 

減損処理できない資産とは?

金融資産や繰延税金資産、退職給付に関する会計基準がある資産は、減損処理ができません。これらの資産はそれぞれ減損会計をする方針が定められているため、減損処理の対象から外れます。

これらの資産以外にも、転売することで利益を得ようと見込んでいた資産の価値が下がった場合にも別の処理をするので、減損処理はできません。

 

減価償却との違い

減価償却とは、時間が経過するとともに資産価値を減らす会計処理です。例えば工場で設備を導入したときは、設備に対して減価償却が行われ、数年後には設備の価値が0となります。

一方、減損処理は、資産価値が下がっていると思われる資産の帳簿上の価値を下げる会計処理です。資産価値が下がっていないときには実施しません。

つまり、減損処理は、資産価値の変化によって実施するかどうかが選択されるのです。しかし、減価償却は耐用年数以内なら常に実施するので、選択的に行うのではありません。

 

減損処理が可能な3つの状況

減損処理はいつでも実施できるのではありません。投資した資金が回収できないと判断した時点で実施しますが、決算の度に「投資資金を回収できるか」という点について吟味するのは手間も時間もかかるので、以下のいずれかの状況が見られたときに投資資金の回収が困難だと判断し、減損処理を実施することが一般的です。

  1. 営業損失が続いている
  2. 景気後退
  3. 資産価値の下落

 

1.営業損失が続いている

特定の資産を使用している事業において営業損失が続いているときは、今後も損失が続き、投資した資金の回収は困難と考えられるでしょう。キャッシュフローが連続してマイナスになっているときなどは、減損処理をする時期だと考えられます。

例えば2期連続でキャッシュフローや営業損益がマイナスの場合は、減損処理を実施することで、翌年度以降の決算を悪化させないためにも、減損処理を検討しましょう。

2.景気後退

景気が後退したことにより、特定の分野の売上が大幅に落ちたときも、減損処理が可能なタイミングです。

例えば売上が著しく落ちた製品において、その市場全体の景気が後退傾向にあるときは、早めに減損処理をしておくことができるでしょう。また、そのほかにも、特定の分野における技術環境に問題が生じているときなども、減損処理のタイミングを検討することができます。

3.資産価値の下落

対象となる資産の価値が著しく下落した場合も、減損処理をするべきか考えてみることができます。

例えば本来不動産は価値が安定しているという特徴がありますが、景気の後退や技術環境の悪化などに伴い、不動産の価値が極端に下がったと仮定しましょう。このようなときは、減損処理を行うことで見かけの利益を増やし、翌年度以降の会計に不動産価値下落の影響を与えにくいように図ります。

 

減損処理のメリットとデメリット

減損処理は投資した資金の回収が難しいときに実施する会計処理です。決して良いとはいえない状況下で行うため、あまり、ポジティブなイメージを持てないかもしれません。しかし、減損処理を行うことで財務諸表の状態を良好にし、ほかの企業や金融機関などからの評価を高めることもできます。主なメリットとしては次の2点を挙げられるでしょう。

  1. 自己資本比率と利益の増加
  2. 実利益を把握しやすくなる

 

【メリット1】自己資本利益率と利益の増加

減損処理においては、固定資産の価値を減らして会計処理を行います。本来であれば高額になるはずの減価償却費が減るため、次年度以降は相対的に利益増となるでしょう。

また、減損処理した後で求めた利益に基づいて計算する数値に関しては、利益が増えている分、数値も良くなっていると考えられます。例えば自己資本利益率や総資本事業利益率などは、利益から計算する数値のため、減損処理前よりも向上していると考えられるでしょう。

【メリット2】実利益を把握しやすくなる

減損処理を実施することで、固定資産価値の減少や景気後退などの利益減につながる外的要因の影響を抑えることができます。そのため、翌年度以降は特定の期間に生じた収益や費用を、より現実に近い形で把握できるようになるでしょう。

実利益を把握するためにも、資産価値の下落が見られたときは、早めに減損処理を検討できます。

 

メリットもある減損処理ですが、デメリットも少なからず存在するので注意が必要です。特に次の2点については理解しておくようにしましょう。

  1. 企業価値が下がる
  2. 株主の不安を煽る恐れあり

【デメリット1】企業評価が下がる

減損処理する金額が大きくなると、繰越利益剰余金にも影響を与え、企業が本来保有している資産が減少したように見えることがあります。

企業評価は資産の多寡によっても左右されるため、減損処理後は企業評価が下がることにもなりかねません。事業売却や企業売却を検討している企業であれば、企業評価が下がることでM&Aに不利な状況になることもあるでしょう。

【デメリット2】株主の不安を煽る恐れあり

減損処理を実施した年度は、損失額が増え、大幅な赤字になることが少なくありません。企業に出資している株主や取引先の企業などは、一体何が起こったのかと不安になるでしょう。

不安から株式を売り急ぐ可能性や取引量が減る恐れもあり、大きな混乱を招きかねません。減損処理を実施する前に株主や取引先に連絡し、会計上赤字になっているだけだということを丁寧に説明するようにしましょう。

 

投資回収が難しいときにはM&Aの選択肢も検討しましょう

投資した資金の回収が難しいときは、減損処理を実施することで見かけ上の利益を増やし、健全な経営状態を維持することができます。しかし、減損処理をするだけでは根本的な問題を解決できず、場合によっては投資家や取引先の不安を煽りかねません。

投資回収が困難な際には、M&Aの選択肢も検討しましょう。M&Aを実施することで短期間での資金調達が可能になることもあります。M&Aの実施についてはぜひ弊社にご相談ください。会計状態を丁寧に分析し、財政再建につながるプランをご提案いたします。

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