【事業承継事例】伝統工芸 仙台箪笥製造「門間箪笥店」門間一泰氏
今回お話を伺ったのは、明治時代より続く仙台箪笥製造会社の7代目、門間一泰社長です。新卒で大手広告会社に入社された後、2011年の東日本大震災、お父様の死をきっかけに仙台の実家に戻られます。事業を引き継いだ後は、それまでの仙台箪笥の伝統を守りながらも、新たな商品を次々と開発。販路を国内のみならず海外の市場にも広げ、積極的に展開されています。新しい仕掛けに試みながらも、日本職人の技術にこだわり続ける門間社長の原風景とは。
明治の時代から引き継がれる
伝統の仙台箪笥
―まずはじめに門間箪笥店についてお聞かせください。
門間氏:
1872年(明治5年)の創業なので147年ですね。仙台箪笥※の製造元としてスタートしています。初代と二代目は職人で、その頃は一人職人での分業による製造が当たり前でしたが、3代目のときに職人たちが自分で作った箪笥に誇りと責任を持てるよう、指物・塗のそれぞれの工程を一人の職人に任せ、自社工房で一棹まるごと作れる体制を整えて組織化したようです。
4代目が祖父、5代目が父親、6代目が母親、わたしで7代目ですね。
※仙台箪笥とは
発祥は諸説ありますが、伊達政宗公が仙台藩を収めていた時代に仙台藩の大工の棟梁であった梅村日向(ひゅうが)によって建具の一部として作られたのが始まりとも言われています。
仙台箪笥の特徴は指物・塗・金具の「三技一体(さんぎいったい)」による堅牢な美しさ。木地指物の側面には杉、前面は欅、引出し内部には吸湿性の高い杉や桐を使っています。湿気や乾燥による自然の“くるい”を防ぐため、木地には10年以上寝かせた素材を使用し、熟練の職人が一つ一つ、手で感触を確かめながら丁寧につくっていきます。塗りには日本の誇る岩手県浄法寺産の浄法寺漆を使用。全部で30工程ほどの塗り・磨きを重ね、顔が映るくらい磨き上げる「木地呂塗」の技法によって「鏡面仕上げ」で仕上げます。唐獅子や牡丹などの縁起物や家紋をモチーフとした金具は錆びが出ないよう、漆で焼き付けした後に取り付けます。こうして三つの技が重なり合って完成するのが「仙台箪笥」です。引用元:門間箪笥店HP http://sendai-monmaya.com/about/
明治の創業から続く
伝統と歴史を守りたい
―事業を受け継ぐ(事業承継)にいたる背景を教えてください。
門間氏:
もともと受け継ごうと思っていました。ただ、箪笥の需要など時代の変化もあり、両親は継がないほうがよいのではないか、とも言っていましたが、自分でやってダメなら仕方ないけど、やってもいないのにこれまで歴史あるものを捨てるのはもったいないな、と。それに、工房もあるのでコンテンツとしては面白い。
そろそろ受け継ごうか、と思って前職の会社の退職準備をしていたところ、震災(2011年3月11日)が起きて、それからの世の中の動きがどうなるか全然分からなくなってしまい、一旦会社に残ろうと思ったんです。
ところが、震災から10日後、父親が心筋梗塞で急逝してしまいました。
一緒にやっていた母親が受け継ぐことになるわけですが、さすがに一人ではツライだろうと思い、再度退職の手続きをとって退職。受け継ぐためにいまの会社に入りました。そこから、2018年に母親から受け継いで今に至る流れです。
厳しい状況を目の当たりにし
箪笥依存からの脱却を決心
―会社に入られてからの気持ちはどのようなものでしたか?
門間氏:
予想以上に環境としてはしんどい状況だと認識しましたね。震災後だったので特に箪笥の直しの注文が多かったのですが、直しは箪笥を持っていないと成り立たない。
でも、結婚したら箪笥を贈る、とか慣習的なものもほぼ残っていないですし、ウォークインクローゼットなど住宅形態も変化していますから、箪笥を新たに買う機会は少なくなっている。
箪笥だけに依存しているのは危険だし、箪笥を買ってもらうにしても箪笥の魅力を分かってもらう機会を作らないといけない。なので、入社して半年ぐらいで家具を扱うことを決めました。ライトなラインナップもいれて、箪笥に触れてもらう機会も創れれば。
―箪笥一本から家具への展開、大きな変化ですね。お母様や周囲からの拒絶感はなかったのでしょうか。
門間氏:
それはなかったですね。母親も特に何も言わなかった。「このままだと下がるだけだから、やりたいことやりなさい」というスタンス。だから、情のもつれ、みたいなものは一切なかったです。ただ、もしかしたらですけど、父親だったらまた違う反応だったかもしれないですね。
日本が誇る職人の仕事を
世界へ、そして未来へ
―今後について考えていることはありますか?
門間氏:
企業理念を「仙台箪笥、そして、日本の職人仕事を通して世界中に豊かさと感動を創出する」としているのですが、日本の職人仕事を残す、世界に伝えたいと思っています。
日本でもそうですが、海外でも日本の職人技術への注目とリスペクトは強い。いま香港でテストマーケティングから入って、常設で展示場を構えてるのですが、反響は良いですし、アジアの市場は考えたいです。木の製品が好きだし、歴史も信頼になってます。中国4000年の歴史とかいうけれど、文化大革命で壊れてしまっているものも多くて、残っている歴史に対するリスペクトの強さを感じます。
日本でも海外でも、「いままで知らなかった」という人は必ずいるので、その職人仕事の魅力というものを伝えていきたいですね。
昔、自分の家の前に工房があって、そこで職人さんが働く姿があって、それが自分にとっての原風景なんです。その風景を未来に残していきたいと思っています。
インタビュー・執筆:株式会社事業承継通信社 柳 隆之