【M&A事例】事業譲受側の視点|フィリピンシステム会社 Vananaz 岩崎海吾氏インタビュー
フィリピン、第二の都市であるセブ島のシステム会社Vananaz。「世界に向けて新しい価値をフィリピンから提供し続ける」というミッションのもと、スマホアプリを中心としたソフトウェア開発を「高品質」「短納期」で実現している事業です。事業シナジーの可能性を見出し、スキームを工夫することで、コロナ禍の状況下で2021年に事業譲受を実現しました。ここに至るまでの、買い手側のプロジェクト責任者として陣頭指揮をとった岩崎海吾氏(Flat Holdings 取締役CFO/当時・米国公認会計士)にお話をうかがいました。
ーまず、岩崎さんのご経歴を教えてください。
大学卒業後、証券会社に入社し、法人向けに、債券セールス業務をしておりました。その間に証券アナリストの資格も取り、会計の面白さを知り、もっと勉強したいとアーンストアンドヤングに転職。グローバル部門での会計コンサルタントとして海外上場支援や、M&Aを担当しました。扱うのは海外案件でかつ社内の上司が香港人だったりドイツ人だったりで、自分にとって大変刺激的なグローバル環境でした。
その後、縁あってベンチャーであるコールフォース株式会社(現:フラットホールディングス株式会社)に参画。人事、経理、法務などの専門組織がまだなく、管理本部業務を2~3人でやっている状態。 当時すでに売上が20億近くになっていましたので、まずは内部統制を固めつつ、正確な数字が把握できるよう決算周りを整える体制づくりに取り組みました。その次は採用と人事周りの整備ですね。採用戦略を考え評価制度も一からつくり、実際に全国飛び回り、代表や人事担当者と講演して回りました。その活動のおかげで新卒社員が一定人数取れるようになりました。
会社の規模も大きくなっていく2019年に組織の更なる成長と権限委譲を目的として、組織をホールディングス化し、二つの事業をそれぞれの事業会社に振り分けました。外部コンサルを利用せず、ホールディングス体制にしていった経験は大変でしたが、自身の成長になり今の知識に繋がっています。組織が縦割りになるデメリットを補うため、定期的な1ON1面談や事業会社間での交流を積極的に開催する役割も担っていましたね。
ー素晴らしいご活躍でしたね。貴社事業と買収検討の背景を教えてください。
一つはホールディングス化により子会社としたコールフォース側の事業です。こちらの会社がフラットホールディングスの起源でして現在11期目になります。通信回線などを電話で個人のお客様に提案するアウトバウンド型コールセンター事業です。 もう一つは、ホールディングス化した際に子会社とした株式会社エバーバンクで、営んでいる事業を一言で言えばCTIを含む音声周りのシステム開発事業です。自動でロボットが文章を読み上げ、電話をかけてくれるコールセンター向けのCTIも高いクオリティで開発しています。
買収の背景としては、エバーバンクの担っている事業の方でして、お客様のニーズに応えられるようSIリソースの増強が急務でした。そこで海外のオフショア開発会社を探し始めていたのです。ちょうどその頃に 事業承継通信社様から今回の案件を紹介、提案いただき、具体的な検討に入りました。時間優先と聞いていたので、すぐに先方経営陣の面会をセットしてもらいました。お会いしたら同世代経営者同士で志向、経営の葛藤など気持ちもよく理解できました。お互いのフィーリングが大変合ったということですね。
ースピード優先でありながら、コロナ禍での海外の事業買収。具体的にどのように進めていったのですか?
事業承継通信社様のコネクションで、現地で信頼できる会社を紹介いただき、デューデリジェンス業務を代行してもらい、買収の意思決定した後は、新法人設立準備も手伝ってもらいました。旧現地法人の運営をある時点から我々に委託してもらいつつ、同時並行で新法人を設立、その後に事業を新法人に移すというスキームです。スピード優先で前オーナーの経営負担を減らしつつ、安全にM&Aを成立する方法でした。ただしフィリピンで新型コロナ蔓延が想定以上に深刻で、役所手続きが思うように進まず、現地法人設立が想定以上に長引きましたね。本当に色々経験させてもらいました。
ー現地組織運営において大切にしたいことや、今後の展望など教えてください。
大いに期待しています。フィリピンと日本、カルチャーや人材において凄く似ているところと大きく違うところがありますが、違いにおいてお互いが尊重しあうこと、役員レベルでは能動的にくっつき合う姿勢が大切になってくると思っています。例えばですね、現地のフィリピン人スタッフは資料作成など雑じゃないか、そういうクオリティは日本人が上というイメージを持っていたのですが、いい意味で裏切られました。期待を大きく超えてきますよ。
あと楽観的、楽天的で明るい人が多く、フランクに感謝を表現してくれる。一緒に働いていて本当に気持ちいいです。言葉の重みや感情表現に慎重になりがちな日本人ってもったいないなと思わせてくれます。素敵な国民性です。表現をしてくれることで、日本側組織に良い影響を与えてくれています。私はこの後、会社を離れますが影響がし合える関係が続くように祈っています。
ー岩崎さんご自身の今後を教えてください。
フラットホールディンス他数社の仕事をリモートで受けながらも、MBAを取得すべく、HEC Parisというフランス大学院に行くことになりました。まだ先ですが、卒業後は自分でもビジネスをやっていこうと思っています。
ー最後に事業承継通信社のご評価をお聞かせください。
何よりもこの案件を提案いただいたところから価値を感じていました。その後の交渉段階、そして買収時、買収後の段階。常に間にぐいっと入ってくれたことで、コミュニケーション全般が円滑になるよう取り組んでくれました。
M&Aは結局関わっていく人と人の関係性で成立もしますし、時には簡単にブレイクしてしまいます。それぞれの立場や気持ちに寄り沿ってくれ、状況に応じて瞬時に間に入ってくれたことで、このプロジェクトが実現できたと思っており、感謝しております。
ーありがとうございます。岩崎さんの今後が楽しみです。
ありがとうございます。いつかまた何かでご一緒できればいいですね
インタビュー・執筆:株式会社事業承継通信社 若村 雄介