【M&A事例】経営人材不足と分散株主の課題を乗り越えた「トライネットグループ」のM&Aとその後の成長

長野県飯田下伊那地域を拠点に、道路や河川、砂防、治山など地域インフラを支える事業を担ってきたトライネットグループ。現場力を強みに成長してきた一方で、現場中心の組織ゆえに、「経営人材の不足」という大きな課題を抱えていました。
同社が最終的に選択したのは、建築分野に強みを持つ大手ゼネコン・株式会社ナカノフドー建設への譲渡です。今回のインタビューでは、M&Aを検討するに至った背景や譲受企業を選定した理由、M&A後に「過去最高益」を達成するに至った融和のプロセス(PMI)について、トライネットホールディングスの小木曽相談役にお話を伺いました。

創業の歩みとホールディングス化の狙い


—まずは、トライネットグループの成り立ちと事業内容について教えてください

小木曽相談役:
当社は平成7(1995)年に、地元の建設会社3社が合併して誕生しました。

当時は特に縁戚関係もなかったのですが、「今後20~30年先を考えたときに、単独の技術力や経営規模では限界がくる」という共通の危機感があり、幸いにも営業エリアが重なっていなかった3社が集まったのが始まりです 。

私は当時、副社長として参画していました。 

 

—その後、現在のホールディングス体制へと移行されたのにはどういった背景があったのでしょうか?

小木曽相談役: 
合併から10年ほど経った頃、公共工事の入札制度が従来の指名入札から一般競争入札へと全国的に移行し始めました。特に長野県はその動きが非常に早く、価格競争が急激に激化したのです。

これに対抗するため、会社を「施工管理や営業を行う専門会社」と「実際に人や機械を動かしてモノをつくる専門会社(専門工事業者)」に分ける「会社分割」を行いました。

一つの会社の中に管理部門と現場作業員が混在していると、どうしても上下関係が生まれてしまい、現場のモチベーションが「時間まで働けばいい」と停滞しがちになります。

そこで、現場作業員の人たちを会社の主役にして専門性を育てることで、生産性を向上させ、圧倒的な価格競争力をつける必要がありました。この事業再編時に、グループ全体を統括する「純粋持株会社」として株式会社トライネットホールディングスを設立し、私が社長に就任しました。 

 

M&Aを検討した背景と、分散した株主構成への課題


—後継者問題や株主構成など、当時抱えていた課題について具体的にお聞かせください

小木曽相談役: 
はい。現場の技術者が中心の組織だったため、現場で優秀な人材はいても、会社全体の経営・営業を担える人材が育ちにくいという課題がありました。

「技術」と「経営」の筋肉は別物ですので、後継者が育たないという将来への強い不安がありました。 

もう一つの大きなリスクが、3社合併というルーツによる「株式の分散」です。株主数が一時は50名近くまで膨れ上がっており、整理を進めた後でも20名程度が残っていました 。しかも、1株当たりの所有比率は最も多い個人でも10%程度で、創業家親族の間に細かく分散していたのです。

会社の業績が良くなるにつれて、株主からの要望や意見も増えており、将来的に会社側と衝突するリスクを何としても避けたいと考えていました 。自社で株を買い取ろうとお願いしてもなかなか良い返事がもらえず、行き詰まっていたのが実情です。

 

—そこからどのようにしてM&A(第三者への譲渡)という選択肢へ至ったのでしょうか?

小木曽相談役: 
最初はM&Aの仲介会社から「他社を買収しませんか?」という提案を受けていたんです。しかし相談を重ねる中で、「買収だけでなく、自社を信頼できる企業に託すという選択肢もあるのではないか」と気づかされました。 

会社の将来、社員の雇用、そして株主との関係を総合的に考えたとき、会社の価値を適切に評価してくれる買い手に会社を託せば、株主の皆様にも正当な対価を支払って気持ちよく株を手放していただける。自社だけで完結することにこだわらず、経営力・営業力・技術力のある大企業に委ねることが、結果として全ての課題を解決し、役員や従業員の将来の安心に繋がると考えたのです 。

 

譲受企業の選定、同じ目線で向き合えるパートナーを

 
—譲受企業を探すにあたって、どのような基準を設けられていましたか?

小木曽相談役: 
大切な会社を託す以上、しっかりとした経営体力のある会社でなければ困ります。そのため仲介会社には、年間売上高の下限を設けるなど条件を提示しました。もしそれだけの企業とご縁がなければ無理に売却せず、自社でやり切る覚悟でした。最終的に4~5社をご紹介いただき、その中の一社がナカノフドー建設さんでした。

 

—ナカノフドー建設様を選ばれた、最終的な決め手は何だったのでしょうか?

小木曽相談役: 
当社は土木事業が主体で、建築分野が弱かったため、建築を主体とするゼネコンであるナカノフドー建設さんは非常に魅力的だというのがひとつ。また、何よりも大きかったのは「人」と「価値観」です。 

他のゼネコンの中には、面談時に非常に「上から目線」だと感じてしまう会社もありました。しかし、ナカノフドー建設の経営陣の皆様は、大企業でありながら非常に温かみがあり、最初から私たち地方の中小企業に対して、同じ目線で真摯に向き合ってくださいました。

事業を良くするために、どうしたらよいかということをしっかりと考えて、こちらのことを理解しようとしてくれました。単なる条件面ではなく、「この人たちになら、安心して未来のすべてを任せられる」と心から思えた人柄の良さが決断を後押ししました。 

事業面の補完性と人柄の良さが決め手になったと振り返る小木曽相談役

壮絶を極めた実務プロセスと守秘義務の壁


—M&Aの実行過程(デューデリジェンスなど)での具体的な苦労についてお聞かせください

小木曽相談役: 
これは本当に大変でした(笑)。当社は持株会社傘下に複数の事業会社を抱えるホールディングス体制だったため、計5社分の膨大な資料を通常業務と並行して用意しなければなりませんでした。

さらに、歴史が長い会社であるがゆえに、戦後の設立当初まで遡るような株主の変遷や移動のエビデンス、過去の議事録などの用意は大変でした。

隠すつもりは一切ないのですが、中小企業ゆえに古い資料が100%揃っているわけではなく、出すべきものの精査に非常に苦労しました。 

 

—スケジュール的にもかなりタイトだったと伺いました

小木曽相談役: 
守秘義務契約の関係上、正式にスタートするまでは役員にも株主にも、金融機関にも一切この話を口外できませんでした。事実上、12月末にスタートして、1月中旬の締め切りまでに全ての株主を個別訪問して説得しなければならなかったのです。

実質1ヶ月もないような限られた期間だったため、正月休みを返上して資料作成や説得に奔走しました。大きな負担がありましたが、ナカノフドーさんの協力体制のもと、無いものは契約書上の文言で仕切るなど柔軟に対応し、なんとか乗り越えることができました。

 

従業員への告知と、段階的に進めた柔軟なPMI(統合プロセス)


—成約後(2023年3月)、従業員の皆様にはどのようにM&Aの事実を公表されたのですか?

小木曽相談役: 
ナカノフドー建設さんが上場会社であるため、インサイダー取引の観点からも、午後の3時過ぎにプレスリリースが発表される瞬間までは一切公表できませんでした。

そのため、事前に社員向けの丁寧な説明文書を作成しておき、リリースと同時に社内のグループウェア(掲示板)へ一斉に配信するという方法をとりました。全社員を一箇所に集める時間的猶予はなかったため、まずは文書で経緯をすべて開示し 、その後、各事業会社の朝礼などで各社長から直接説明をしてもらいました。

もともと当社は同族色の強い会社ではなく、3社合併の歴史を持つオープンな社風だったため、従業員から反発や抵抗が起きることは一切ありませんでした。 

 

—合併後の経営体制の移行や、異なる企業文化の統合(PMI)はどのように進められましたか?

小木曽相談役:
最初の2年間は私も入りつつ、ナカノフドー建設さん側から高木社長に参画していただき、引き継ぎをおこない、3年目から本格的にバトンタッチするという段階的な形をとりました。 

大企業と中小企業では組織の仕組みが全く異なりますが、ナカノフドー建設さんは親会社のルールを強引に押し付けるようなことは決してされませんでした。作ったルールは、コンプライアンスや稟議規定、購買ルールなど、最低限守るべき社内ルールぐらいで、あとは、現場の動きを重視するよう体制を作ってくれたのは本当にありがたかったです。

従業員と密なコミュニケーションをとって、徹底的な目線合わせをしてくださり、距離を縮めるよう働きかけてくれ、結果として、当社ならではの地元密着で動くスピード感や現場力が維持されたと思います。

 

相乗効果の発現、横の連携強化と過去最高益の達成


—合併から2年が経過し、目に見える変化や成果は生まれていますか?

小木曽相談役: 
劇的な変化が起きています。以前は「グループ経営」を謳いつつも、各事業会社間の縦割り意識が強く、横の連携があまり取れていませんでした。しかし現在の高木社長が就任後、「グループは一つの大きな企業である」という方針を強く打ち出し、横のつながりや協力関係を非常に積極的にテコ入れしてくださいました。

従業員の意識を変えるため、高木社長の発案で全従業員を集めた「経営方針発表会」と「懇親会」を開催したのですが、これが非常に好評で、社内の一体感が一気に高まりました。

 

—具体的には、ビジネス面でどのような相乗効果(シナジー)が出ていますか?

小木曽相談役:
見た目の社名は変わっていないため、地域社会の皆様には安心感を与えつつ、取引先のお客様からは「大手ゼネコンの傘下に入ったことで、技術力や経営基盤の信頼性がさらに増した」と非常に高い評価をいただいています。

現在は、ナカノフドー建設の本部が実施するハイレベルな研修に当社の社員が参加するなど、人材交流や親子関係の強化を徐々に進めている段階です。これからさらに強固なシナジーを生み出せるという確信があり、今回の決断には一切の後悔がありません。 

M&A後は両社の連携が進み、技術力や経営基盤への信頼性向上にもつながっている

M&Aを検討する経営者へのメッセージ


—最後に、事業承継やM&Aを検討している経営者の皆様へアドバイスをお願いします

小木曽相談役:
私が身をもって実感したのは、「M&Aは一度実行してしまったら、決して元には戻せない(取り返しがつかない)」ということです。世間には価格の条件面だけで飛びついてしまい、後から「やめておけばよかった」と後悔されるケースも少なくないと聞きます。買収側の企業選びを慎重に見極めることが何よりも肝要です 。 

M&Aは、会社を手放すことでも、諦めることでもありません。信頼できる強力なパートナーと共に、大切な会社と社員の生活を「次の世代へつなぐため」の極めて前向きな経営判断です 。

視野を広く持ち、自社完結にこだわらずに納得のいく選択をしていただきたいですね。 

 


インタビュー・執筆:株式会社事業承継通信社

 

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