
【M&A事例】キッチン用品の米国・欧州向け越境EC事業「株式会社Verne」創業者 竹山氏インタビュー
ーこれまでのご経歴についてお聞かせください
大学卒業後、海外に関わる仕事がしたいと思い、重工メーカーに入社。そこではプラント設計に関与した仕事に従事していました。
仕事のプロジェクト規模も大きく、周りの社員も尊敬できて楽しかったのですが、もう少し小回りがきいて自分の裁量で動ける方が良いなと思い始め、新卒から3年で会社を退職しました。
ーご自身で事業を始められたのはいつ頃でしょうか?
実は、辞める半年前ぐらいから副業的に準備はしていました。
個人事業主として始め、単純に「日本製」で「売れそうなもの」を選んで仕入れて売るというシンプルなやり方で、主に調理器具や工具などを販売していましたね。
進めながらプラットフォーム上でキーワード検索したり、レビューの数で売れているかどうかなどを調べつつ、徐々に仕入れ先も開拓して、商品の幅を拡げていきました。
1年ぐらい経過したときに、キッチン商品が人気だということに気付いて、ここに特化してやってみようと思い、自社でのブランドを立ち上げました。
モノづくりとか、職人が関わっているものは好きだったので、そういう商品が扱いたかったというのもあります。

米国・欧州向けに主にキッチン用品を販売する越境ECストア「TIKUSAN」(https://tikusan.net/)
ー大手重工メーカーを退職され、ご自身で事業を始められてから、大変だったことや苦労されたことはありますか?
どうしても自分ひとりでやることが多いので、情報が得られない、相談もできないというなかで、モチベーションが湧かない期間もありました。
それもあって、個人事業主で2年経過した頃に法人化をして、事務所を借り、社員を雇い、組織を作ることにしました。
同時に、卸やメーカーから仕入れて売るという仕組みはできていましたが、もう少し自分が課題に直接的に関わりたいと思い、出張に行くときにビジネスにも使えるレザートートバックとか、収納付きのPCスタンドとか、あったら良いなと思うアイテムの商品開発も進め始めました。
それまで手がけていた「キッチン用品をメインとしたメイドインジャパン商品をアメリカやヨーロッパに販売する」という事業に加え、「自社商品を中国やタイで製造して日本で販売する」という事業を追加したわけです。
ー事業を続けるなかで、危機や試練などはありましたか?
やはり、コロナ禍ですかね・・・。
コロナで航空便が飛ばない。全く飛ばないわけではないですが、本数が限られているので、物凄く費用がかかるので送るに送れない。販売機会のロスがとにかく大変でした。
この先どうなるだろうという不安もありましたね。
あとは、ニカラグアからの注文で騙されて、お金をとられてしまったこともあります。
カード払いで注文を受けた後に、言われるがままに送料の立替として100万円を振り込んだのですが・・・結局向こうが支払いに使用したカードが不正利用という扱いで、カード会社からお金が支払われず、送料の立替分のお金はそのまま戻りませんでした。
おかしいなと思いながらも、取引が大きかったので、そのまま進めてしまったのが良くなかったですね。
ー危機を乗り越え、順調に事業を成長させてこられたなかで、なぜ今回売却という決断をされたのでしょうか?
具体的には、2024年の春ぐらいからですね。自分のやれることはやったなかで、自分のなかでの限界のようなものを感じ始めたんです。
自社ブランドを作ってやってきましたが、ここから先は販路をさらに開拓するような営業力や、在庫を抱える資金力も必要になることもあり、これ以上が描けなかった。
自分の得意分野でもないというのもありますね。それであれば、資金力もあって、組織として営業力もあって、という法人にお任せしたほうが、事業のためにも、関わってくれている従業員たちにとっても良いと判断しました。

困難を乗り越えてきた経験を、穏やかに振り返る創業者・竹山氏
ーM&Aを検討するにあたり、どのような流れで進められましたか?
同じような事業をやっている人をSNSで追っていて、その人がM&Aをしたことを知り、M&Aという選択肢があることを知りました。
その方がお願いしていた仲介会社に依頼させてもらった、という流れですね。
ーM&Aを進めるなかで、不安や迷いを感じられたことはありましたか?
考え始めた2024年の春先にM&Aの買手詐欺の話が報道されていて、個人保証が外れずに負債が残るなど、そこはすごく不安でしたね。
仲介会社に不安なことはひとつひとつ聞いて、ひとつひとつ解消していきました。
最終的に個人保証の解除も、譲渡を実行する前に金融機関と買手も含めて相談し、手続きを確認したうえで譲渡を実行するようにしました。
ー譲渡先として、VIGO MEDICAL様を選ばれた決め手や理由をお聞かせください
こちら側の事業を非常に理解してくれて、業歴も長く信頼があるところ、また従業員を気にしてくれた社長のお人柄もすごく良かったです。
あとは、引き継ぐにあたり場所的なところで同じ東京であったことも最終的にはポイントになりました。
ー事業を売却した後、今後の展望についてお聞かせいただけますか?
譲渡して終わりではなく、しっかり引継ぎをさせていただいたうえで、海外へ留学にいこうと考えています。
これからも海外と日本の橋渡し的な仕事をしたいと考えているので、語学も含めてその準備をしようと考えています。

無事に事業譲渡を終え、新たな挑戦に向けて準備中
ーこれからM&Aを検討される人へ、アドバイスやメッセージがあればぜひお願いします
語弊を恐れずいうと、M&Aは良い意味での逃げ道になるかと思います。
自分で事業を行うとどうしても抱え込まなければならず、他にやりたいことができても、従業員のことを考えると簡単には止めるわけにはいかない。でも、M&Aでさらに事業を拡大してくれる会社に出会えて、任せられれば、事業にとっても自分にとってもすごく良い選択肢になると思っています。
また、今回初めてのM&Aでしたが、会社の規模的にも初めは自分だけで進めようとも考えました。 結果的に事業承継通信社に仲介をお願いして良かったです。 仲介会社に依頼することで、自社の価値を第三者的に評価してもらえるので、買手様ともしっかりとした根拠を持って交渉を進めることができました。
また本業も続けながら売却のことも進めるとなると、体力的にも精神的にもきつかったと思います。 事務的なことも含めてお願いできたことや次にすべきことについて、アドバイスをいただけたのは、とても助かりました。 なので、自社の規模を気にして、自分だけで進めようとせず、プロの仲介会社に頼るのもありだと私は思います。
インタビュー・執筆:株式会社事業承継通信社 柳 隆之