【事業承継事例:後継者の視点】結婚式場運営「株式会社五洲園」代表取締役社長 萩原隆史氏
今回は、およそ1年前に結婚式場運営の会社をお父様から引き継いだという株式会社五洲園の萩原隆史社長(38歳)にインタビューさせていただきました。
埼玉県、群馬県を中心に結婚式場を展開していますが、結婚式や披露宴の実施だけでなく、結婚によって作られた家族が幸せに続くことを応援し、サポートできる場所であることを模索し続けています。事業を引き継ぎ、時代により形を変えながらチャレンジを続けるなか、改めて見つめなおした原点、守るべきものと変えていかなければならないもの、そんな葛藤や思いを聞くことができました。
また事業承継したばかりではありますが、あえてご自身が次の世代にが事業を引き継ぐとしたら・・・という印象の部分もお話しいただきました。
承継時の思いー「創業からのことを知り、今ここに事業がある意味を考えた」
ーまずは、事業承継のきっかけや流れについて簡単に教えていただけますか?
萩原社長:
会長も高齢になったので、それがきっかけといえばきっかけです。近しい会計士が承継についてアドバイスをくれていたようで、承継自体は1年前ですが、10年前に群馬県前橋市に大型結婚式場を構えることが決まった段階から、価値が上がる前段階で株を一部渡してもらったり、別の結婚式場や宴会場と法人が別々であったものをひとつの法人に統合したり、事業のこれからのために計画的に準備は進めていました。
ー10年の間に、資産的なものだけでなく、ほかにはどのような引き継ぎがあったのでしょうか?
萩原社長:
取引先であったり、サービスにかける思いであったり、一緒に仕事をしながら受け継いでいった感じです。
ーそもそも引き継ぐということ以外の選択肢はご自身のなかにはなかったのですか?
萩原社長:
それはないですね。会長がどう思っていたかは分からないですが、長男でもありますし、もともといつかは継ぐものだと考えていました。10年前に戻ってくるまで、大学を卒業してから勉強のために外も見てみたいなと思って、いまの会社ではなく別の会社に入ったんですが、いずれは継ぐつもりでいましたから同じブライダル業界の会社で仕事をしていました。
ー事業を引き継いで社長になられたとき、改めて特別な思いはありましたか?
萩原社長:
引き継いだタイミングですごく、これまでのこと、先祖代々のことを考えたんです。創業自体は明治17年らしいんですが、当初、中山道の宿場町であった熊谷で旅籠のようなものを営んでいたんです。その後、交通網の整備があって、宿泊施設の必要性がなくなった頃から、料亭から料亭兼宴会場へ、そして宴会場へ、と変遷していって、会長の代に結婚式場がメインとなりました。
そういう原点やこれまでの歴史があって、それぞれの人がそれぞれの時代で変化しながら繋いできたということを改めて知ったときに、いまここに事業が存在する意味や、自分でも今後この事業をどうしていくべきなのかを改めて考えるようになりましたね。
事業に必要なものー「新郎新婦の一生に向き合う気持ち」
ーそこまでご自身でお調べになったんですね。いまはどのような思いを持たれているのでしょうか?
萩原社長:
そうですね、「結婚式をするだけでなく、結婚式をした人が戻ってこられる場所を作るんだ」ということをもともと共通の理念にしていて。新郎新婦が結婚して、家族を作って戻ってこられる場所であり続けるには、いつでもある場所でないといけない。結婚式をして終わり、ではないですからね。だから、結婚式場は「永続的な場所」でなければならないんです。当然、引き継がれたものを自分の代で終わらせるわけにはいかないですし、自分も引き継いだから安心ではなくて、今後自分が繋げていく立場になるわけですから、これからだという思いがあります。
ー事業承継が終わってひと段落ではない、次に向けてこれからだということですね。ちなみにこれからご自身が引き継ぐならどんな人がいいだろう…といったことは考えますか?
萩原社長:
うーん、絶対に引き継ぐタイミングがくるし、事業を永続させるという意味では、必ず誰かに引き継ぐことになるとは思いますけども。実感は今はないですね。
自分には子供がいますけど、まだ小さいですし、娘で。そうなったときに誰に引き継いでいくのか。自分はたとえば、娘の旦那さんに引き継いでもらうでも良いですが、旦那さんがOKするとも限らないですし、じゃあ全然見知らぬ人が引き継いでいけるのかというと、不安ではありますね。
ー確かに、代々継がれてきた思いの部分などはしっかり引き継げるのか・・・という不安はありますよね。
萩原社長:
そうですね。特に、わたしたちがやっているサービスというのは、目に見える形があるわけではなくて、ひと組ひと組の新郎新婦のこれまでの過去の思い出や歴史、それを支えてくれた家族のこと、これからのふたりの未来にかける思いを汲み取って提供していくわけですから、ひと組ひと組で内容が全く異なります。当然、そこにはサービスを提供する側の気持ちも強くなければやっていけないと思うんです。さらにそんなブライダル業界の中でも、わたしたちの会社は、結婚式や披露宴をするということだけでなく、その後の「戻ってこられる場所」にするという理念がありますから、結婚式、披露宴の数時間ではなくて、その新郎新婦の一生に向き合う気持ちがなければいけない。
ーそうすると、たとえば全く知らない第三者に引き継ぐというのは難しい選択でしょうか?
萩原社長:
分からないですけど。印象としては、たとえば外部に売り渡したときに、「戻ってこられる場所」という理念が理解されて全うされるかどうか分からないので、外部という選択はなかなか難しいでしょうね。そうなると社内しかないわけですが、社内で引き継げるという実感もまだ無いというのが正直なところで。育てていくということも含めて、これからです。あの、このように質問されて答えてみて分かったんですが、まだ全然次の引き継ぐということまでは・・・。
事業承継の印象ー「帳尻合わせは難しい」
ー今回、会長から事業を承継される中で問題はなかったのでしょうか?
萩原社長:
あまりないですね。弟、妹もいますが、結婚式運営に関与しない弟は一切の株を持たずに進められてますし、スムーズに進んでいるほうだと思いますよ。ただ、大きなモメごとはなかったんですが、会長のために働いていたようなベテランが辞めていったことはありましたね。自分は辞めてもらう気もなかったし、その人たちをどう生かしていくかを考えていたので、ショックはありました。10年間当たり前に一緒に働いていた仲間だったんですが、それは会長がいたからなのだと知りました。こういうことへの心構えはできていなかったかもしれないです。ただ、それも含めてこれからを作っていくステップだと思っています。
ー会長との現在の関係性はどうなんでしょうか? 事業に関わられることはありますか?
萩原社長:
関係は良好ですよ。もっと議論をしたいときもあるんですけど、おそらく子に言われると腹が立つんでしょうね。笑
話が中断したりするんですよ。あとは、自分のいま出来る役割として、会長をみていて、哲学的すぎて理解できない人がいるんじゃないかと思って。それをみんなが理解するためにどう伝えたらよいかというのは考えますね。
ー社長ご自身は引き継がれた側ですが、事業承継というものにはどんな印象をお持ちでしょうか?
萩原社長:
いろいろと質問に答えてみて改めて思うんですが、保険のようなもので、何かあってからでは遅いのかもしれませんね。後から帳尻合わせをするのは非常に難しい。早めに始めておいて、何かがあったときに迅速に対応できるようにするというのが必要なのだと思います。そういう意味では、自分は運よく会長が計画的に進めてくれていたので、何もトラブルはなかったですが。それは恵まれていますね。
これから自分がいざ事業承継を進めようと思っても、どうしていいか分からないと思います。初めてのことですし、逆戻りもできないし、自分だけの問題でもないですし。
なんか結婚式と似てますね。笑
インタビュー・執筆:株式会社事業承継通信社 柳 隆之
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